この記事をまとめると
フォルクスワーゲンのブラジル現地法人が製作したオリジナルモデル「SP2」を紹介



■フォルクスワーゲン屈指のスタイリングと称される2ドアハッチバックの美しいモデルだった



■1700ccの空冷水平対向エンジンを搭載するが、わずか75馬力と非力すぎてまったく売れなかった



ブラジルのフォルクスワーゲンのオリジナル

ブラジルはサッカーが強いだけでなく、フォルクスワーゲンの現地法人「フォルクスワーゲン・ド・ブラジル」が魅力的なオリジナルモデルを作ることでも知られています。クルマ好きの中には「ビートルのブラジル物」なんて言葉を聞いたことがあるかもしれません。これには理由があって、かの地は国内産業の保護や外貨流出を嫌い、完成車の輸入が認められていないのです。

「だったら作っちまおうぜビ~バ!」てな具合で、ドイツ移民もたくさんいたことから、現地法人の活動はじつにホットだったわけ。



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そうはいっても、まるっきりの新型をゼロから始めるというのも非現実的。なので、ご多分に漏れず本国モデルのノックダウン生産からのスタート。1952年に創立されていますから、当然ビートル(現地名:フスカ)を導入したのですが、1960年代にはいるとオリジナルモデルのブラジリアやバリアンチをすぐさまリリース。メーカーとしての進歩はかなりのハイペースだったようです。また、ブラジルの経済成長期にマッチしたためかオリジナルVWは飛ぶように売れ続けたとされています。



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フォルクスワーゲン・ブラジリアのフロントスタイリング



「じゃんじゃん売れてるぜビバノンノン!」と順風満帆かと思われたド・ブラジルですが、ここにブレーキをかけさせたのがライバルの登場です。1960年代後半にはイタリア系ブラジル人、リーノ・マルツォーニが興した「プーマ」、1970年代を迎えると同じくブラジルオリジナルのシボレー・オハラのエンジンなどを流用した「サンタ・マティルデ」といった魅惑のモデルが市場を席捲。これにはド・ブラジルの首脳陣は焦りを感じたに違いありません。



そのころには、ご存じカルマンギアtype1のノックダウンが導入されていたのですが、ライバルたちのためにそれまでのウハウハな売り上げが見込めなくなっていました。そこで、プーマやマティルデに負けないスポーツモデルの開発を決定。その名も「プロジェクトX」と、いまでは笑ってしまいそうなコードネームですが本気度はひしひしと伝わってきます。



で、苦節1年とちょっとをかけて1971年のプロトタイプ「SP1」を作ると、1972年には量産モデル「SP2」をリリース。



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フォルクスワーゲンSP2のフロントスタイリング



ブラジルでも腕っこきのPRを雇ったのでしょう、SP2の登場は国内マスメディアはもちろん、広く世界中に特ダネとなって駆け巡ったのでした。



わずか75馬力でついたあだ名は「Sem Potência」=非力

SPは試作も量産も当時のRRモデル「バリアント」をベースに、独自デザインの2ドア・ハッチバックボディを架装したもの。エンジンはおなじみ1700ccの空冷水平対向で、とりたててチューニングされることもなく、75馬力を発揮して、車重1135kgのSP2を最高速160km/hまで引っ張り上げたとされています。



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フォルクスワーゲンSP2のサイドビュー



とはいえ、このパフォーマンスは待ちかねていたファンには期待外れもいいところで、SPという名前は「Sem Potência」(ポルトガル語でwithout power、つまり力無し)の略ではないかと揶揄されっぱなし。たとえば、プーマはFRPボディを採用して同じくVWのフラット4を使いながらもはるかにスポーティな乗り味をもっていたわけで、いくらスタイリッシュで仕上がりのいいSP2といえども、大衆は「残念ベサメムーチョ」とうなだれがちだったのでしょう。



皮肉なことに、プロジェクトXと並行して進められていたカルマンギアのブラジル版「カルマンギアTC」も同時期に発売され、売り上げを食い合うということにもなり、SP2はますます肩身を狭くしていったのです。もちろん、てこ入れ策として「SP3」なる排気量をアップしたモデルも試作までいったのですが、こちらも鳴かず飛ばずに終わっています。



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フォルクスワーゲン・カルマンギアTCのフロントスタイリング



合計1万台ちょっとが作られた末、ディスコンとなってしまったSP2ですが、そのうち1000台弱はヨーロッパへ渡り、いまでも熱心なコレクターたちにかわいがられているそうです。パフォーマンスこそショボいものではあっても、VWの中では屈指のスタイリングとも評されていますから、まれにオークションなどに出品されると、意外なほどの高値が指されることもあるようです。



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フォルクスワーゲンSP2のリヤ走行シーン



さらに、ブラジルではSP2のレストモッド(再解釈カスタム)も行われており、オーバーフェンダーや911風のダックテールなどを加えた「REBORN」なるモデルも登場しました。当時のショボさからは想像もつかないほどのカッコよさには、誰もが「なにこれビバ!」となること間違いないでしょう。

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