この記事をまとめると
■中谷明彦さんがアクアGRスポーツとヤリスクロスGRスポーツに試乗した■アクアGRスポーツはサスペンションのチューニングにより官能的なコーナリング性能を手に入れている
■ヤリスGRスポーツは「意のまま」に走れる性能のSUVに変貌していた
一般道では限界値を探れないほどコーナリング性能は高い
トヨタ自動車のGR(GAZOO RACING)は独自開発したスポーツモデルに冠せられる権威あるネーミングだ。現在、トヨタブランドの量販6モデルに「GRスポーツ」と名付けた特別仕様車がラインアップされている。
今回、そのなかでアクアとヤリスクロスのGRスポーツに試乗する機会を得られたのでリポートしよう。
まず、アクアGRスポーツだ。FFのハイブリッド(HV)専用車として、ベースグレードのアクアは実用的なコンパクトカーとして不動の地位を築いている。そのアクアをベースとしてGRがさまざまな仕様変更を行い、走行性能を引き上げたのがGRスポーツというわけだ。
外観的には、ベース車に対してフロントオーバーハングを20mm延長。リヤオーバーハングも25mm延長し、全長は4095mmとなっている。フロントバンパーとリヤのバンパーロアカバーが新造され、空力的にも洗練された機能美で仕上げられている。

ボディサイドのスカートやホイールデザインも一新され、ひと目でGRスポーツとして認識できる外観となっている。

運転席につくと、ブラックを基調とした内装がスポーティでスウェードの専用シートのサポート性、座り心地の良さが気分を高揚させてくれるのだ。

パワートレインは大きく変わっていないが、ドライブモードに「POWER+」モードが追加されている。このモードでは加速レスポンスが高まり、減速回生は強く0.1Gを発揮。また、ステアリングのEPS制御を手応えあるフィールへと変更している。

走りだすと、確かに加速時のアクセルレスポンスが向上して動力性能に高まりを感じる。
コーナリング性能はさらに官能的だ。ステアリングの切り込みに対してリニアな回頭性を与えられているが、その限界が非常に高い。一般道では限界値を探れないほどのコーナリング性能を授けられている。それはシャシーフロア下に追加された2本にブレースバーと、シャシー後端に設置されたリヤバンパーリインフォースの効果だ。シャシーの補強で車体の捻り剛性が格段に高まり、リインフォースの効果で後輪の追従性が向上している。FFでありながら後輪の接地性を感じ、グリップに確信を持ちながら走れるので安心感が高まっているといえる。

サスペンションにも細かなチューニングが施されている。
ストラット式のフロントサスペンションにはベースモデルより15%強化された専用のコイルスプリングとショックアブソーバーが組み合わされた。また、スタビライザーは従来中空のものが中実化され、若干重量は増すもののロール剛性を6.5%高めている。さらに、ロアアームブッシュはGRヤリスから流用しアーム支持剛性を高めている。
これらの効果はステアリングの専用EPS制御マップと奏功し、ライントレースの正確さと微小舵域の応答性を高めているのである。

リヤサスペンションはトーションビーム式だが、スプリングのセット荷重を高め、ハードな乗り味を実現。また、ハブベアリング×キャリア、サスブッシュ×ボディ、アブソーバーロア×ビームブラケット部に計12本(片側6本)の溝付ワッシャーボルトを採用。締結剛性を高めている。こうしてブリヂストン・ポテンザRE050Aのハイグリップをしっかり受け止め、効率的に機能させることが可能となっているわけだ。ちなみにタイヤサイズは205/45R17で、サーキット走行もこなせるポテンシャルを秘めていた。
少ない姿勢変化でワンランク上の車格感のヤリスクロスGRスポーツ
次にヤリスクロスGRスポーツに試乗する。コンパクトSUVとして大ヒットモデルとなったヤリスクロスの走りをスポーティに振ったのは極めて興味深い。

試乗に供されたのはFFのHV仕様で、ガソリンエンジン車にもGRスポーツは設定されている。外観の意匠変更はフロントバンパーのラジエターグリルまわりとリヤバンパー下部のデザインとディフューザー形状の変更程度だが、それでもGRスポーツの醸し出すスポーティな雰囲気を感じ取れる。

室内も仕上げもドアトリムオーナメントやスウェード表皮のシートなど、ブラック仕上げでスポーティ。Gグレードがベースのインパネも丸形メーターがスポーティに見える。

走り始めると、高応答を謳うパワートレイン制御がアクセル操作によるトルクピックアップやエンジン音とのサウンド一致を実現して意のままに走れるパワートレインとして完成度を高めたドライバビリティとなっていた。そして、強化された動力性能を受け止めるボディとサスペンションチューニングのマッチングが素晴らしい。

ボディはフロアトンネルの前後2箇所をブレースで強化し、また車体最後部にもロアバックブレースを設定して捻り剛性を大幅に高めているのだ。
サスペンションはフロントストラット形式で、コイルスプリングを6%強化。ロアアームのNo.1、2ブッシュを全密度化。さらに、ロアアームのアップライト取り付け位置に補強パッチを追加して強化し、コンプライアンス変化を徹底的に抑制している。
また、駆動ドライブシャフトを中実化して強化し、大トルクを余裕でタイヤに伝えている。そのタイヤはヤリスクロスとして初めてファルケンブランドを採用。FK510SUVは18インチで7.5Jのワイドホイールを装着しているが、じつは専用開発したのではなくリプレイスで、市販されているタイヤそのものだったという。

リヤサスペンションはトーションビーム式で、やはり溝付きワッシャボルトを片側6本の計12本使用。サスペンション各部の締結剛性を高めているのだ。
こうしたサスペンションチューニングの効果は走らせるとすぐに感じ取ることができる。
アクセル、ステアリング、ブレーキの連携が優れていて、ドライバーの操作に高応答することで、SUVでありながら「意のまま」の走りが得られるのは魅力的だった。

個人的にはSUVなら4WDを推すが、機会があれば(来冬?)雪道走行なども試してみたいと思っている。
