この記事をまとめると
■ホンダが2026年からF1に復帰すると発表■パワーユニットの提供でアストンマーティンと組む
■先だってフォードと提携することを発表したレッドブルにとっては予想外の発表だった可能性
カーボンニュートラルに注力するから辞めたのにすぐ復帰する謎
2023年5月24日、ホンダウェルカムプラザ青山では急遽4輪モータースポーツに関する記者会見が行われた。2026年、ホンダがPU(パワーユニット)サプライヤーとしてF1のフィールドに戻ってくることを正式に発表したのだ。
ホンダは2015年に4回目のF1復帰を果たし、2021年には30年ぶりにドライバーズタイトルをもたらすまでに成長したが、同年をもって撤退した。
「F1がホンダの目指すカーボンニュートラルの方向性と合致する存在となり、電動化技術を促進するプラットフォームになることが、復帰を決めた大きな理由のひとつです」。こう話すのは、本田技研工業代表取締役の三部代表執行役社長だ。F1は2026年から新レギュレーションが適用され、小型・軽量・高出力のモーターや、大電力を扱える高性能バッテリーとそのマネジメント技術が勝利への鍵となる。新PUレギュレーションで得られた技術やノウハウは電動フラッグシップスポーツをはじめ、研究開発中のeVTOLなどさまざまな分野に適用できる……これがF1復帰を果たす最大の理由だ。
ホンダ第4期振り返り
2021年に世界王者の称号を獲得したホンダは、再びトップに君臨できるのだろうか? 話を第4期(2015年~)に戻すと、参戦当初のホンダは苦戦続きだった。現在のF1のPUは非常に複雑で、過去にF1で輝かしい成績を残してきたホンダの技術をもってしても、いきなりライバルたちに追いつくことはできなかったのだ。実際2015年にタッグを再結成したマクラーレンとは、結果を残せず2年で離婚。代わりにPUを提供する予定だったザウバー(現在のアルファロメオ)とは、契約直前で話が破談……。パートナーを失い、F1の世界からフェードアウトせざるをえない状況にまで追い込まれてしまった。

そんなタイミングで手を差し伸べてくれたのが、トロ・ロッソ(現在のアルファタウリ)だった。トロ・ロッソは、トップチームであるレッドブルの弟チーム。当時PUでタッグを組んでいたルノーとの関係が悪化して参戦が不透明になっていたレッドブルは、新たなPUパートナーを探していたタイミングだったのだ(実際2017年と2018年のレッドブルはTAG Heuerバッジ[中身はルノー]で参戦)。
結果が出なければ活動終了……そんな覚悟をもったホンダのエンジニアたちは、死に物狂いでPUを作り上げた。そして、トロ・ロッソとのタッグ2戦目となる2018年の第2戦バーレーングランプリで、4位入賞を果たす。ホンダF1第4期で、過去最高のリザルトだ。その後もマクラーレン時代のように毎レーストラブルが起こるといったこともなく、2019年からレッドブルにもPUを供給することが正式に決まった。

レッドブルとのタッグ初戦となった2019年のオーストラリアグランプリではいきなり3位表彰台を獲得し、第9戦のオーストリアグランプリでついに優勝……。

2年後の2021年にはドライバーズチャンピオンに輝き、当時最強だったメルセデスを蹴落とした。これがホンダF1第4期の大まかなストーリーだ。

とはいえ第4期は初優勝までに5年、チャンピオンまでに7年の歳月を要した。5年のブランクがあるホンダは、また厳しい戦いを強いられることになるのだろうか? 実際、答えはシーズンが始まらないとわからない部分はあるものの、第4期のように最初から苦戦続きになることはないだろう。なぜなら、ホンダPUは現在もF1のフィールドで大活躍しているからだ。
2021年にF1の舞台から撤退したホンダは、2022年からテクニカルパートナーとしてレッドブルとアルファタウリの2チームに支援を続けている。

そこでレッドブルからの要請を受け、ホンダはテクニカルパートナーという“スポンサーのような立ち位置”でレッドブルとアルファタウリの2チームをサポートする形で、F1には関わり続けているのだ。実際のところはPUの組み立てやメンテナンスは現在もホンダの手によって行われているし、2026年の新レギュレーションに対応できるよう新PUの開発も早々に行われているとのことだ。さらに、レッドブルは2022年シーズンにはドライバーズ&コンストラクターズのWタイトルを獲得しているほか、2023年シーズンはここまで6レースが終了していて全勝中。つまりホンダは今のF1での最強PUで、ゼロスタートだった第4期とはわけが違うのだ。
アストンとタッグ結成……これからのホンダF1
さて、2026年からホンダとタッグを組むのは、アストンマーティン・アラムコ・コグニザント・フォーミュラ・ワン・チーム(以下:アストンマーティン)だ。今シーズンはここまで6戦中5度の表彰台を獲得していて、現在レッドブルに次いで2番目に力のあるチームである。ちなみに昨シーズンのアストンマーティンは10チーム中7位なので、昨シーズンから今シーズンにかけてもっとも成長したチームと言える。アストンマーティンのオーナーを務めるローレンス・ストロールは、チームに莫大な予算を投資。例えば330億円をかけてチームファクトリーを新調するなど、頂点を目指すために動き続けていて、今シーズンはその成果が出始めているのだ。
「アストンマーティンは頂点を目指すうえで、野心的な計画を実行してきましたが、ホンダとのワークスパートナーシップはジグゾーパズルの最後のピースのひとつです」とアストンマーティン・パフォーマンス・テクノロージーCEOのマーティン・ウィットマシュー。

なお復帰発表会ではF1の技術が電動フラッグシップスポーツカーの開発にも活かせるという話もあり、高性能車を手がけるアストンマーティンとのコラボレーションモデルの誕生にも期待したいところなのだが、現段階でその計画はなしとのこと。せっかくタッグを組むなら、お互いの強み活かしたモデルを作り上げることで、いいマーケティング活動ができると思うのだが……。
まとめ
2026年はPUのレギュレーションが変更されるため、おそらく勢力図も一新されるだろう。ここからは筆者の完全な妄想になるのだが、少々お付き合いして頂きたい。現在F1で最強のレッドブルはホンダを失い、2026年からレッドブル・パワートレインズ×フォードとして参戦する。レッドブルはホンダの力を借りないでPUを製造するのだが、最初からうまくいくとは少々考えづらい。レッドブルはホンダの撤退に伴いレッドブル・パワートレインズを設立したわけだが、まさかここまで早いタイミングでホンダが復帰するのは想定外だったはず……。第4期にホンダがパートナーを失いかけた際に手を差し伸べ、一緒に頂点へと這い上がったレッドブルの立場を考えると、ホンダに振り回された感があるし、気の毒と言えるだろう。

一方、今もっとも成長しているアストンマーティンと、最強PUのホンダの組み合わせは初年度から化ける……いや、いきなりチャンピオンを獲得できる可能性が非常に高いのではないだろうか……。もちろんメルセデス・ベンツやフェラーリだって黙ってはいないだろうが……。

メルセデス・ベンツ、フェラーリ、ルノーに加え、新規参入のアウディに、復活のホンダ。マニファクチャラー色が一層濃くなった2026年のF1開幕が本当に楽しみだけど、「ああじゃない、こうじゃない」と妄想できる今の時期が結構楽しかったりもする……。