この記事をまとめると
■人生観が変化するくらいインパクトのあるクルマ4台を紹介する■人生観が変わるどころかトラウマになるレベルの強烈なキャラや性能をもったものも
■エンジンが剥き出しだったりハンドル位置を左右変更できたりと常識が通用しないものばかり
キャラが強烈なクルマはハマると抜け出せなくなる
「あの出会いで人生観が変わった」などと大げさな表現がありますが、たいていの場合はしばらく時間が経つと「そうでもなかったかな」となりがち。たまたま自分のまわりにはなかったもの珍しさが手伝って、「そうでもないもの」でも人生なんて大げさな言葉を引っ張り出してしまうのでしょう。
ですが、クルマの世界には人生観を変えてくれるようなものが少なくありません。
モーガン3ホイーラー
電話をかけようと思ったら、いまは音声アシスタントに呼びかけるだけでこと足りますが、その昔はダイヤル式、さらには磁石ハンドルをぐるぐるまわして「品川の八百と六番」なんて交換台を呼び出していたかと。
モーガン、名前を呼ぶだけで郷愁を誘うこのメーカーは、だいたいぐるぐるまわす頃のテイストを持ったクルマが中心です。最新モデルはともかく、メインストリームはシャシーが木枠だったりオールドスクールなところが魅力。とはいえ、タイヤは4本ついていて、なんだったらリヤフードにスペアを背負っていたりして、クルマとしてのセオリーをともかくはキープしています。
ところが、タイヤを1本減らして3本という中途半端な作りにしたのが3ホイーラー。フロントは2輪でステアを担い、1輪だけのリヤでトラクションするわけで、それだけでも「どうなっちゃうの? 面白そう」となるのですが、これだけなら3ホイーラーのフォロワーというのがたくさんいて「人生観変える」までのインパクトは持ちえないかと。

最新型はエンジンルームに独自の3気筒エンジンを収納しましたが、それまでのモデルはフロントに丸出し(笑)。バイクじゃないのに、空冷Vツインエンジンが外から丸見えです。これが、古いハーレーのパンヘッドだったりすると雰囲気マシマシ。かの宮崎駿さんもお気に入りで、彼の連載マンガにもたびたび登場していました。

ひとたびドライブしてみれば、クセ強なコーナリングにクルマ観が変わること請け合い。スライドへのカウンターステアもプリミティブながら、クルマともバイクとも似つかない面白さです。

現代のクルマには薄れてしまったエンジンやシャシーを操るという根源的な楽しみは、きっとあなたの本能をくすぐってくれることでしょう。
テスラ・モデルS
EV、わけてもスポーツ方向に振ったモデルに乗ったことがなければ、まずはモデルSを試してみることおすすめです。どこかその辺、50メートルでも直線があれば、EVに対するちょっとした偏見を秒で消し去ってくれることでしょう。

だいたい、EVに初めて乗って驚くのは、モーターによる加速のスムースさではないでしょうか。その点、ICE(内燃機エンジン)はトルクの立ち上がりに時間がかかるもので、しかも回転数の上昇に伴った排気音やメカニカルノイズなど盛大なサウンドを発生します。
たとえば、モデルSの0-100km/h加速は2.7秒とされ、R35 GT-Rとほぼ同等の速さを誇ります。が、その際のスムースネス、静粛性、さらにはアクセルに対する圧倒的なリニアリティはEV未経験者の想像をはるかに越えるもの。この感覚だけでも、目からうろこが200枚くらいは吹っ飛ばされること間違いありません。

また、ドライビングモードを選べば、モーター制御ゆえの強烈なエンジンブレーキが得られることもモデルSの大きな特徴。Gモーメントの目まぐるしい変化は、まるで自分がドラム式洗濯機でクルクルと翻弄される洗濯物になった気分すら味わえるはず。
いずれも官能評価ということにすぎませんが、このモデルSならではの「官能」こそ、あなたのクルマ観をひっくり返してくれるのです。
車名が「自動多目的装置」ってもはやクルマではない!?
ルノー4
丁寧な暮らしとか、不便を楽しむといった風潮が近頃はもてはやされているようです。
そんなクルマを見慣れてきた方々にとって、ルノー4(キャトル)は良く言って「ちょい古の可愛らしい系」と映り、強めに言えば「畑で朽ち果てそうなポンコツ」くらいでしょうか。ですが、心ある方が乗ってみれば、まさしく「足るを知る」ミニマムマシンであり、かつ現代のクルマにはないペーソスや、心潤う走りがあるのです。

たとえば、知らなければどう動かせばギヤが選べるのか皆目見当のつかないシフトレバーや、どこまでもロールし続けるリヤの横置きトーションバーサスペンションなど、独特の機構や動きはクルマ好きなら確実に興味を惹かれるもの。
また、水冷4気筒エンジンは700cc程度ですから、動力性能はたかが知れているものの、車重が600kgそこそこという軽量なため、峠の下りなどはじつに楽しく走れます。

2CVや旧型ビートルなどでも似たようなテイストは味わえるのですが、ハッチバックというボディ形状の所帯じみたニュアンスはルノー4でしか得られません。むしろ、丁寧な暮らしにあこがれるなら、これくらい生活感がないといけません(笑)。
ダイムラー・ウニモグ
スキーやスノーボードをする方なら想像できると思いますが、斜度45度という地面を見下ろすと、ほぼ垂直に落ちていく感覚です。あなたがファミリー向けミニバンでも乗っていたら「落ちちゃうよ!」と思うような傾斜。こんなところをスイスイと走っているクルマがあったとしたら「流行りのVFX(特撮)か」と目を疑うこと請け合いです。
メルセデス・ベンツの商用車部門、ダイムラーが1946年にリリースしたウニモグ(Unimog)は「Universal Motor Geret」を略した名称で、意味は「自動多目的装置」といい、クルマと名付けていないところにご注目。

全輪駆動で短いホイールベース、そして地面に応じて前輪と後輪がまったく違う動きができる装置であり、ここに農業用アタッチメントや道路整備アタッチメントなどが装備され、初めて「働くクルマ」として機能するのです。
ちなみに、当時のドイツは連合国によって自動車の開発が禁じられていたため「装置」の名目でしか作れなかったのです。

とにかくウニモグは、走行性能だけでなく、ほかにも目が点になるようなトピックが満載で、たとえば前進8段×後進8段というギヤや、ハンドル位置がその場でピョコンと変えられる(タイプU300~U500など)機能など、一般人の常識を覆すことばかりです。もちろん、それらは決して奇をてらったものではありません。
超多段ギヤというのは前述の斜度45度でもグイグイ登っていくためのものであり、またアタッチメントや重量物を牽引するためのウルトラスーパーローギヤだったりするわけです。前後の多段化も走行地、作業地を選ぶことなく「地球上ならどこでも」行ける、作業できるための装備にほかなりません。

さらに、ハンドルとペダルが即座に左右を入れ替えられるというのも、作業状況に関わることなく運転・操作を可能としたもの。ミラーの幅もないほど左の壁ギリギリで作業する際、右よりも左にハンドルがあったほうが有利、という考え方で動くようにしてしまったドイツ人エンジニアには執念すら覚えずにはいられません。
そして、上述のとおり45度の斜面を登り、下り44度(フロントノーズ分、わずかにロスw)くらいはレンジローバーもこなしてくれるのですが、水深1.2mを走れ、38度までの左右傾斜も耐えられるといえば、さすがに追いつきません。しかも、シュノーケルなど特別なデバイスなし、標準装備でやってのけるわけですから、よくできた装置と驚くばかりです。

大きさ自体は一般的なトラックほどではありますが、始動から発進までは儀式めいた手順が必要で、斜度があるところや悪路を走らせるにはそれなりの訓練が必要だとされています。コンプレッサーを搭載したウニモグの修理風景を覗いた際、作業効率は良さげでしたが、あまりの複雑さにメカニックさんが悪態ついてましたからね(笑)。
重ねていいますが、クルマというより装置ですから、クルマ好きだろうと一般人だろうと、動かしてみればそれこそクルマ観が激変、でこぼこ道を舐めるように進むさまは夢にも出てくること間違いありません。