この記事をまとめると
■炭素を含まない燃料で脱炭素を実現しようとする動きとして「水素燃料」が話題■水素燃料を使用する水素エンジンは、燃焼作用によって「窒素酸化物」が微量ながら生成される
■二酸化炭素の排出を抑えるという面で水素エンジン技術の可能性は大きい
二酸化炭素は出さないが窒素酸化物が生成される
ローエミッション化、最終的にはゼロエミッション化が求められる現代の自動車で、世界的な共通認識は、動力を電気モーターとするEV(エレクトリックビークル、電気自動車)でほぼ一本化されている。しかしながら、炭素を基本要素とする化石燃料ではなく、炭素を含まない新たな燃料の開発によって、従来の内燃機関で脱炭素を実現可能とする考え、動きも次第に広まってきた。自動車の場合でいえば、水素を燃料として燃焼する水素燃料車である。
本誌でも、いち早く水素燃料車の可能性にトライしたトヨタの実践例、すなわちスーパー耐久レースに参戦する水素燃料カローラの動向を登場以来定期的にお伝えしてきたが、じつは「脱炭素=ゼロカーボン」には有効な方式なのだが、ほかに有害排出物が生成されることが問題点となっていた。これは化石燃料、すなわちガソリン、軽油を使う内燃機関でも同様なのだが、燃焼作用によって窒素酸化物が生成され、これが大気中に放出されるという問題である。
窒素酸化物自体は、排出ガスの浄化問題の基点となった米マスキー法、それの内容をさらに一段階引き上げた日本の昭和53年排出ガス規制値のテーマとなった、炭化水素、一酸化炭素と並ぶ3要素のひとつである。
地球上に存在するすべての内燃機関搭載車は、燃料であるガソリンや軽油を酸素によって燃焼させることでエネルギーを発生させている。問題なのは、空気の構成要素が酸素だけではなく、窒素が含まれていることである。空気の構成要素を厳密に区分すれば、アルゴンや二酸化炭素も含まれることになるが、大ざっぱに見れば、酸素2、窒素8の割合と考えてよいものだ。
ガソリン、軽油は燃料の主成分が炭素によって形成されるため、燃焼すれば酸素と結合して二酸化炭素を生成、排出することになり、これが地球温暖化ガスとして問題視されているわけだが、燃料成分に炭素を含まない水素燃料を使えば、燃焼しても二酸化炭素の排出はなく、内燃機関ながらゼロカーボンの要求に応えられる方式として、注目を浴びることになったわけだ。

ところが、酸素だけではなく空気成分を構成する窒素も同時に燃焼されるため、窒素酸化物を生成することになり、これが問題視される状況となっている。
近未来を背負うパワーユニット
じつは、自動車の動力源として見た場合の水素燃料エンジンは、まだ開発途上にあり公開できない技術もいくつかあるが、この窒素酸化物の排出低減を可能にする技術として、水素燃料による発電プラントとして川崎重工業が開発したDLE(ドライ・ロー・エミッション)燃焼器が現在の自動車用に対して1歩先んじた存在となっている。

ただ、発電用として水素のみを燃やすのではなく、LNGとの混合燃料というかたちで使用され、当然ながら炭素成分を排出することになる。ゼロエミッションではなく、ローエミッションプラントというというのが正しい捉え方だ。
さて、水素は燃焼速度が速く燃焼温度が高くなるという側面があり、燃焼温度が高いと窒素酸化物の生成量が増えるという特徴がある。

いま、世界的に問題視されているのは、地球温暖化に直結する二酸化炭素の排出で、燃料/燃焼に炭素が関わらない水素燃料エンジン車が、内燃機関であっても大きく有望視されてるのはこのためだ。しかし、燃焼という行程を経ることで、窒素酸化物が生成されることも事実である。
ただ、排出する窒素酸化物の削減が可能なことも事実であり、その排出量は微少なレベルにまで追い込まれている。近未来を背負うパワーユニットとして、水素燃料エンジンの持つ可能性は大きい、と考えてよいだろう。