この記事をまとめると
■2025年12月以降に販売されるクルマには「衝突被害軽減ブレーキ」の装着が義務づけられる



■販売台数の少ないスポーツカーには安全装備の搭載が遅れている



■すべてのクルマに安全装備を早急に搭載すべき



スポーツカーはほかのカテゴリーに比べて導入が遅れている

衝突の危険が迫ったときに、自動的にブレーキを作動させる衝突被害軽減ブレーキの装着は、いまでは常識になった。新型車は2021年に義務化され、既存の車種も、2025年12月以降は装着せねばならない。



交通事故はクルマにとって最大の欠点で、初心者からベテランドライバーまで、誰でも運転ミスをする危険がある。

したがって、新しい安全装備が開発されたなら、早期にすべての車種に標準装着せねばならない。衝突被害軽減ブレーキはその流れに沿っている。



販売台数が少なくてもスーパースポーツでもMT車でも関係なし!...の画像はこちら >>



ちなみに以前は、4輪ABSのように、装着を義務化するまで普及の進まなかった安全装備も多い。これに比べて衝突被害軽減ブレーキは、ユーザーが装着を積極的に希望して、メーカーが対応する好ましい状況となった。



しかし、衝突被害軽減ブレーキから取り残されやすいカテゴリーもあり、それがスポーツカーだ。GT-Rはいまだに衝突被害軽減ブレーキを装着していない。

発売が2007年と古く、しかも2023年の1カ月平均登録台数は約70台と少ない。安全装備の事故を防ぐ効用は、流通台数の多い車種ほど高まるため、販売規模の小さなGT-Rは見過ごされやすいが、必要不可欠な安全装備であることに変わりはない。



販売台数が少なくてもスーパースポーツでもMT車でも関係なし! 「衝突被害軽減ブレーキ」が付いていないクルマはいますぐ搭載すべき
日産GT-R(R35、2024年モデル)の走行写真



しかもGT-Rの2025年モデルの価格は、もっとも安いピュアエディションでも1444万3000円だ。2007年に発売されたときの777万円に比べると、約2倍に跳ね上がっている。細かな改良を行いながら約2倍まで値上げしたなら、走行性能や乗り心地だけでなく、安全装備の衝突被害軽減ブレーキを追加するのも当然だ。



とくにGT-Rは、日産の、そして日本車としても、最高の走行性能を備えたスポーツカーに位置付けられる。

走りはつねに安全との相対性において成り立つ性能だから、走りを進化させながら、衝突被害軽減ブレーキで手を抜かれたのでは困る。最高の性能を誇るGT-Rのプライドとして、ドライバーと乗員、事故の相手方を守る安全装備においても、最高の性能を与えることが不可欠だ。



開発者がMT車への衝突被害軽減ブレーキ導入を躊躇したワケ

GR86とBRZの6速MTも、2023年9月までは、衝突被害軽減ブレーキを作動させられるアイサイトを用意しなかった。それまでメーカーは「MTは販売比率が少ないから、衝突被害軽減ブレーキの設定が遅れている」と説明していたが、GR86やBRZでは6速MTが70%以上を占める。それなのに衝突被害軽減ブレーキの対応が明らかに遅れていた。



販売台数が少なくてもスーパースポーツでもMT車でも関係なし! 「衝突被害軽減ブレーキ」が付いていないクルマはいますぐ搭載すべき
スバルBRZ(2代目)の衝突被害軽減ブレーキの作動様子



この背景には、衝突被害軽減ブレーキとMTの親和性もあった。

たとえば高いギヤで走行中、エンジン回転が2000回転付近まで下がっている状態で衝突被害軽減ブレーキが作動すると、エンジンが停止することも考えられる。エンジンが止まった状態で、数回にわたりブレーキペダルを踏むと、真空倍力装置の機能が低下して制動力も下がる。当時、スバルの開発者と話をすると、真面目であるためにこのあたりを気にしている印象を受けた。



販売台数が少なくてもスーパースポーツでもMT車でも関係なし! 「衝突被害軽減ブレーキ」が付いていないクルマはいますぐ搭載すべき
MT車のペダルワークのイメージ



しかし、それを理由に衝突被害軽減ブレーキの装着を見送るのは本末転倒だ。とくにMT車を運転するドライバーは、何らかの理由で急激に速度が下がってエンジン停止に至ると、反射的にクラッチペダルを踏む。そこでマツダなどは、以前から6速MTにも衝突被害軽減ブレーキを採用していた。



販売台数が少なくてもスーパースポーツでもMT車でも関係なし! 「衝突被害軽減ブレーキ」が付いていないクルマはいますぐ搭載すべき
マツダ車の衝突被害軽減ブレーキの作動様子



いまではGR86やBRZも、専用にチューニングされたアイサイトを装着する。その結果、現時点の非装着車はGT-Rとコペン程度に減ったが、今後も安全装備の装着に伴う車種間の時間差はなるべく短く抑えたい。人の生命や健康に影響を与えるのだから当然だ。