この記事をまとめると
◾️古くから軽自動車にはスポーティーモデルがあった◾️初代アルトワークスの登場を皮切りに平成初期はスポーティな軽自動車がヒット
◾️90年代以降ホットな軽自動車のブームは下火になった
1990年代はABCトリオ以外の軽自動車も熱かった
令和のいま、2020年代における軽自動車といえば、ホンダN-BOXに代表されるスペース効率に優れたスーパーハイトワゴンが想像されるだろう。広くて、取りまわしやすい実用車というイメージではないだろうか。ダイハツ・コペンのような2シーターオープンも存在しているが、走りを最優先するドライバーにとっては選択肢に入らないかもしれない。
しかしながら、古くから軽自動車にはホットなドライバーをターゲットにしたモデルやグレードが一定数存在していた。まだ軽自動車の排気量が360ccだった時代には、ダイハツ・フェローマックスやスズキ・フロンテクーペといった伝説のモデルがあった。
そうした伝統は、昭和の終わりごろ、軽自動車の排気量が550ccだった時代に結実する。シンボル的存在が、スズキ・アルトワークス(初代)だろう。車両区分としては軽商用車ながら、刺激的なエアロパーツをプラスしたボディに3気筒DOHCターボを積んだことで、軽自動車のホットモデルとして最高地点に達したといっていい。
さらに、三菱はベーシック軽自動車のミニカに3気筒5バルブターボエンジンを載せたホットモデル「ダンガン」を誕生させる。
「走りの軽自動車」は平成初期に660ccへと成長した軽自動車における一大トレンドとなる。
この時代の軽自動車スポーツカーといえば、1991~1992年にかけてデビューしたABCトリオ(マツダ・オートザムAZ-1、ホンダ・ビート、スズキ・カプチーノ)を思い出すかもしれないが、ハッチバックボディのモデルにハイパフォーマンスエンジンを載せたモデルも多く生まれ、軽自動車スポーツは多様な時代に突入していった。
1990年代半ばにおいて、スズキはアルトワークスにオールアルミのDOHCターボエンジンを与えていた。ダイハツはミラのホットモデルであるアバンツァートに4気筒DOHCターボを搭載、三菱もミニカ・ダンガンのエンジンを4気筒5バルブDOHCターボへと進化させていた。
このころのホットハッチとして忘れられないのはスバル・ヴィヴィオRX-Rだ。
トールワゴンにも5バルブや4気筒ターボを搭載!
もっとも、1990年代半ばといえばスズキが初代ワゴンRを誕生させたことで、軽自動車のトレンドがハイトワゴンにシフトしつつある時代でもあった。それでも軽自動車にスポーツ性を求めるニーズは少なからずあった。
ワゴンRのライバルとしてダイハツが生み出した初代ムーヴにおいても4気筒DOHCターボ+5速MTのグレードは設定されていたし、三菱もミニカをベースとしたフルゴネット型モデルであるミニカトッポに4気筒5バルブターボを設定していた。
スズキもワゴンRにアルミ製3気筒DOHCターボを追加設定するなど、ハイトワゴンであってもトップグレードにおいては高性能をアピールするという時代だったのだ。
さらに、NAエンジン搭載車においてもスポーツ指向のモデルが存在していたのが1990年代の軽自動車における隠れたトレンドのひとつ。
※画像はMTREC非搭載モデル
残念ながら1998年に軽自動車の規格が現在の全長3.4m・全幅1.48m・排気量660ccになったころから潮目は変わっていく。たしかにアルトワークスは、そのタイミングでフルモデルチェンジ、可変バルタイ機構付きターボエンジンを与えられるなど進化したが、他メーカーからはホットハッチといえるモデルが減っていくことになる。
スバルやホンダは軽自動車ラインアップをハイトワゴンに絞り、ハッチバックのホットモデルはオワコン状態になっていく。スズキはKeiワークスやラパンSSを登場させるなど孤軍奮闘するも、結果としてホットハッチ的な軽自動車が消滅してしまったのは、ご存じのとおり。
いまやMT(マニュアルトランスミッション)の軽自動車を見つけるほうが難しいが、軽自動車にもスポーツ性が重視される時代があったことは覚えておきたい。