この記事をまとめると
■かつて「マツダ地獄」と呼ばれた事象があった■昔は1度マツダ車を買うと次もマツダ車にしないと査定で損をする傾向が強かった
■2012年の初代CX-5登場以降は大幅値引きをしなくても新車が売れるようになった
「マツダ地獄」とはなんだったのか
かつて「マツダ地獄」という言葉があった。個人的にはカーライフに「地獄」はあり得ず、ロータリーエンジンの好きな人には、マツダ車は最良の選択だ。したがって、原稿執筆などで「マツダ地獄」という言葉を使ったことはないが、世間的には聞かれた。
この「マツダ地獄」の意味は「蟻地獄」に似ていて、一度マツダ車を買うと、そこから抜け出せなくなることを示していた。具体的には、以前のマツダ車の大幅値引きと売却額の低さだ。マツダ車は値引きが多額で、2000年代の前半には、価格が110万円台の2代目デミオでも25万円前後の値引き販売をしていた。値引き額を引いた実質価格は、80万~90万円に収まる。
価格が230万円くらいの初代アテンザになると、値引き額は40万円を超えることもあった。価格が190万円前後の初代プレマシーでも35万円くらいの値引きだから、実質価格は155万円前後まで下がっていた。
ここまで多額の値引きで販売すると、当然ながら数年後に売却するときの価値は下がる。とくにユーザーにとって辛いのは、マツダからほかのメーカーの車種に乗り替えるときだ。他社で下取りに出すときは、売却額が大幅に安くなってしまった。

そのため、損失を抑えるにはマツダの販売店に下取りに出して、改めてマツダの新車を買うしかない。つまり、マツダ車から逃げられないため、蟻地獄に似た「マツダ地獄」の言葉が生まれたわけだ。
ただし、マツダ車が好きなユーザーには大幅値引きで購入できて、トータルでの出費を安く抑えられた。

そのわりに車内も広く、実用性に優れたコンパクトカーであった。このような合理的なデミオを大幅値引きで買えたのだから、実用的な買い得車を乗り継ぎたいユーザーには魅力的であった。決して「地獄」ではなかったはずだ。
クルマを一新して大幅な値引きとは決別
そしてマツダは、大幅値引きによる販売を数回にわたって控えようと試みた。
たとえば2002年に2代目MPVがマイナーチェンジを実施したときに、開発者は「今後はお客様が愛車を売却するときの利益を守り、販売会社の経営も健全にするため、以前のような大幅な値引き販売は行わない」とコメントした。しかし、結局のところ、多額の値引きで売る方法は変化しなかった。

この流れが大きく変わったのは、2012年に「魂動デザイン」と「スカイアクティブ技術」に基づく初代CX-5が発売されたときだ。クルマ作りが大幅に刷新され、多額の値引きをしなくても堅調に売れるようになり、値引き額も抑えられた。認定中古車を本格的に導入して、ユーザーが高値で売却できる体制も整えた。このときの開発者は「優れた商品開発によって大幅値引きと決別できた」とコメントした。

しかし、販売店の話は違っていた。

そもそも、大幅値引きを行っていた時代のマツダ車は「地獄」と呼ばれるほど悪かったのか? 先ほどのデミオ、あるいはロータリーエンジンのRX-8を始めとして、優れた商品も多かった。
マツダが値引き販売を積極的に行っていた2010年、マツダの国内販売総数は22万3861台であった。これに比べて2023年は17万7788台に減っている。「魂動デザイン」と「スカイアクティブ技術」に移行してからのマツダ車は、少なくとも日本では、それ以前に比べて売れ行きを下げている。地獄も天国も、どこを見るのか、捉え方次第だと思う。