この記事をまとめると
■1994年のジュネーブモーターショーでレクサスはコンセプトカーを発表■初代GSをベースに8気筒エンジンと4WDを組み合わせたハッチバックだった
■この当時は丸みを帯びたデザインが世界中で流行していた
「なんじゃこりゃ?」なレクサスのコンセプトカー
昨年のジャパンモビリティショーのレクサスブースでは、BEVのフラッグシップコンセプトであるLF-ZLや、同じくスポーティセダンの提案とされるLF-ZCが大いに話題を集めました。一方、遡ること約30年、現在のレクサスからは想像もつかない1台のコンセプトカーが発表されました。今回はその問題作(?)を振り返ってみたいと思います。
●市販車をベースにしたまったく新しい提案
コンセプトカーの名前はレクサス・ランドー。1994年のジュネーブモーターショーで発表されたクルマで、スタイリングを手がけたのはジウジアーロ率いるイタルデザインです。
前年に発表された初代GS(アリスト)をベースに、8気筒エンジンと4WDを組み合わせ、上質でコンパクトな5ドアハッチバックサルーンというチョット変則的で欲張りな提案。実際、機構部分は変更していないにもかかわらず、全長はGSより600mmも短縮されました。
すなわち、非常にコンパクトなボディに広大な室内を組み合わせることで、高性能な複合的高級サルーンという新ジャンルを狙ったのがランドーのコンセプトということです。
とにかく全身丸みをもったボディが印象的ですが、同時期のレクサス車を見てみると、ES(初代ウィンダム)、SC(3代目ソアラ)をはじめ、ベースとなったGSも、特段丸みを強調したデザインは見られません。これは、その後のIS(アルテッツァ)やRX(初代ハリアー)も同じです。
もうひとつのレクサスがあったかもしれない
●丸く大きなウインドウで広い室内を表現する
では、なぜランドーは強い丸みで構成されたのか?
イタルデザイン、ジウジアーロというと、たとえば初代ゴルフやパンダなどに代表される、直線基調のシンプルなデザインが思い起こされますが、じつは意外に丸みを持たせた提案も少なくありません。

たとえばランドーが発表された1990年代を見ると、1993年にはブガッティEB112や後にDAEWOOのマティスとなったLucciola、1994年にはフィアットのFirepoint、1997年のDAEWOO Leganzaなど、フロントまわりやウインドウ形状などに円形を取り入れたクルマが多く見られるのです。

そのなかでもランドーの丸さが際立っているのは、コンセプトである「コンパクトなボディに最大限の居住空間をもたせる」ことを象徴的に表現したためでしょう。また、その丸さにある種の上質感をもたせた点もポイントです。

●スピンドルグリルのないレクサスもあり得た?
その後、レクサスは独自のデザインフィロソフィ「L-finesse」を打ち出し、日本的なアプローチとして繊細さを極めて行きます。さらに、海外市場でライバルに埋もれない個性を目指し、2012年の4代目GSからはご存じスピンドルグリルを提示。そうして最新作のLMに至るまで、より繊細に、よりシャープに、そして強い押し出しに邁進中です。

そこで思うのは、「もしレクサスがランドーの方向でデザインを進めていたらどうなったのか?」という疑問。
その大きなヒントが、1990年代後半にイタルデザインが手がけたマセラティの3200GTやブガッティのEB118などにあると筆者は想像します。いずれも流麗なボディのなかに楕円の要素を織り交ぜたスタイリングはエレガントそのもので、その上質感は圧倒的。もしかしたら、これがもうひとつのレクサスの歩む道だったのでは?

恐らく、初代GS(アリスト)をイタルデザインが手がけた縁からランドーの企画が持ち上がったのかもしれません。そのあたり、当時の状況は知る由もありませんが、ほとんどのクルマ好きの記憶にすら残らなかったこの企画には、じつは極めて大きな可能性があったかもしれないのです。