この記事をまとめると
■インドネシアでは「仮免許」という制度がないので試験対策中の教習生は無免許状態だ



■新興国では運転免許を「買う」ことができるケースが多い



■日本では運転免許を取得するハードルが世界に比べて高いのでスキルが高いと言われている



不思議なインドネシアの免許取得事情

2024年7月に仕事でインドネシアの首都ジャカルタを訪れたときのこと。市内を現地事情通とタクシーで移動すると、1台のトヨタ・ライズがタクシーの横を通り過ぎようとしていた。そのとき事情通が「このライズは教習車ですね」と説明してくれた。



後日ライズに貼られていたステッカーの意味を翻訳ソフトにて調べてみると、「AWAS REM MENDADAK!=急ブレーキ注意してください」、「SEKOLAH MENGEMUDI=自動車教習所」となっていた。なるほど、インドネシアにも教習所があるんだと思っていると、「インドネシアでは日本でいうところの自動車教習所は存在しません」と事情通は教えてくれた。



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日本の自動車教習所(指定自動車教習所)では卒業すると、運転免許センターでの本試験では実地試験(実技試験)が免除されることになる。ところがインドネシアでは、そのような教習所はなく、技能試験も筆記試験も運転免許試験場で受けることになるとのこと。



それでは、この教習車とはなんなのかと聞くと、「いわゆる『コーチ屋』となりますね。実技試験を受けるのにあたり、合格へ向けたポイントを同乗する教官がアドバイスすることになります」と説明してくれた。



「運転する教習生は仮免許をもっているのですね」と聞くと、「インドネシアでは仮免許という制度はありません。ですので無免許状態で運転していることになります。そこが不思議なところで、無免許で運転しているのですが、この教習車に限ってそこはお咎めを受けないようなんですよね」(事情通)



ちなみにこのライズのナンバープレートは黄色地に黒の文字となっている。これはインドネシアではタクシーやバスと同じナンバープレートとなり、分類は旅客輸送車両となっているようである。



事故が多い日本だけど運転スキルは高いほう! アジアやロシアは知識も技術もないのに運転免許を「買う」裏ルートがある
インドネシアのトヨタ・ライズの教習車のフロントまわり



二輪車が多数走るほか、三輪タクシーも走りまわり、まさにジャカルタの道路環境はカオスそのもの。そのなかで無免許の初心者がクルマを運転することはかなりリスキーだと思うのだが、そうまでしても運転免許が欲しい人がいるようだ。



ちなみに過去に聞いたところでは、インドネシアでの運転免許の筆記試験では「袖の下」を払うとテスト中教官がつきっきりで答えを「ささやいてくれる」と聞いたことがあるのだが、現状について事情通に聞くと、「それはいまも変わりませんよ」とのことであった。



信じられない世界の運転免許事情

新興国へ出かけ話を聞くと、「運転免許を買う」ということをよく耳にする。正規の手続きを経ないで、正規の運転免許を手にする「裏技」が必ずといっていいほど存在するようなのだ。



話を聞く限りは、運転免許試験場が大変混雑していて面倒で時間もかかるので、おもに富裕層が「タイパ(タイムパフォーマンス)」が悪いとして運転免許を買っているようである。もちろん、筆記試験のために交通法規などの勉強はしないし、クルマの運転も見よう見まねとなるので、公式な運転免許証を持っていても大変危険な状況で街なかでクルマを運転していることになる。



インドネシアでは、とりあえず試験を受けなければならないという点では、まだ安全といえそうだ。



過去に中国において、まだMT(マニュアルミッション)車がかなり多かったころ、運転免許を買った人が街なかでMT車を円滑にシフトチェンジさせて運転することができずに、高速道路などでも円滑な進入ができないなど問題が目立ってきたので、「AT限定免許」が創設されたといった話を聞いたことがある(買えるとの噂もあった)。



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中国の北京の交通状況



ちなみに、駐在などで中国に居住している日本人の場合は、日本語対応した筆記試験を受けるだけで中国の運転免許証が取得できるとも聞いたことがある。ほとんどの企業は交通環境だけではなく、「当たり屋」などの犯罪にも遭いやすいとのことで、中国国内での自動車の運転を禁止しているようだが、ある駐在員いわく「自動車ビジネスに携わっていることもあるのですが、その際に中国の運転免許証をもっていると地元関係者との距離がぐっと短くなります(仲間意識が芽生えるらしい)。クルマの運転はほとんどしませんが、その意味でもつようにしました」と話してくれた。



警察、とくに交通警察の腐敗が有名なロシアでも、運転免許証を買うことができると聞いたことがある。「よくクルマに乗っていると、高級車が凄いスピードで側壁に衝突したりしています。

そんな『免許を買ったんだな』と思われるシチュエーションに遭遇することは、ここではそんなに珍しくありません」とは現地事情通。



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ロシアの街なかの交通状況



日本で運転免許証を買うというのは偽造運転免許証となるが(もちろん犯罪行為なのでやってはいけない)、紹介した地域では正規の運転免許証を買うことができるところが大きく異なる。



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自動車教習所の教習車の走行写真



日本人は個々の技能差は当然あるものの、平均レベルでも運転スキルが世界的に高いといわれることがある。それは正規の運転免許を少なくとも気軽に買うことができず、多くのケースでは時間とお金をかけて教習所に通い、苦労して運転免許証を取得するというシステムが寄与していることも、また否定できない真実なのかもしれない(試験場1発合格を狙う人もまだまだいるが……)。

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