この記事をまとめると
■ガソリンとディーゼルのいいところを組み合わせたエンジンが「SKYACTIV-X」だ



■世界初の技術が多数投入されていたが商品力に欠けていた



■EVが増えていく過程において「SKYACTIV‐X」の未来は不透明だ



「SKYACTIV‐X」は画期的なエンジンだった

マツダのSKYACTIV(スカイアクティブ)エンジンは、効率を最大にする技術挑戦であり、その理想状態へ近づけたのが、SKYACTIV‐Xだ。



考え方の原点は、予混合圧縮着火(HCCI)で、これは、ガソリンエンジンでありながらディーゼルエンジンのように点火栓(スパークプラグ)なしで燃焼させる手法である。



ディーゼルエンジンの燃費がいいとされるのは圧縮比が高いためで、その数値はガソリンエンジンのおおよそ2倍である。

それをガソリンエンジンにも適用しようというのが、HCCIだ。そのためには、圧縮比を通常のガソリンエンジンよりはるかに高くし、それによって素早く熱くなった混合気に、自然に火が付くことを前提とする。



ところが、軽油より揮発性の強いガソリンは、限度を超えた高い圧縮比では、圧縮を終える前に火がついてしまうため、異常燃焼となってかえって馬力が出なくなるのはもとより、エンジンを損傷しかねない。そこで、ほどよい圧縮比にとどめ、スパークプラグにより強制的に火をつけ燃焼させている。



ガソリンの自己着火という「夢の技術」で業界騒然となったSKY...の画像はこちら >>



一方、ガソリンエンジンでも馬力を上げるには圧縮比は高いほうがよく、たとえば高性能車やレース車両のエンジンが市販車に比べ高圧縮比であるのはこのためだ。しかし、ガソリンを使う以上、圧縮比を高めれば異常燃焼の懸念が増大する。そこで、圧縮比を高めても異常燃焼が起きにくいガソリン、すなわちプレミアムガソリン(一般にはハイオクガソリン)、または競技用ガソリンを使うことがこれらのエンジンの条件になる。



SKYACTIV‐Xは、その前のSKYACTIV‐Gにより通常より高い圧縮比での燃焼をレギュラーガソリンで実現し、効率を高めることでハイブリッド車(HV)に近い燃費を実現するに至った。この実績を基に、次の段階となるHCCIへ向けた開発が行われた。



話題の技術であったがメリットが少なかった

実現のため、素早く吸気を燃焼室へ送り込む送風機を用い、また、低回転域でのトルクを補うモーター(モーター機能付き交流発電機=ISG)の駆動を加え、そのうえで、とくに高負荷運転での出力確保を目的にスパークプラグを残す、火花点火制御圧縮着火(SPCCI)と呼ぶ独自の手法で、HCCIを実用化にもち込んだ。



ガソリンの自己着火という「夢の技術」で業界騒然となったSKYACTIV-X! どんな技術でなぜ広まらなかったのか?
マツダ3 ファストバックに搭載された「SKYACTIV‐X」



一方、異常燃焼対策としてプレミアムガソリンを使う必要があり、燃料代の上昇という懸念を消費者に残した。ただ欧州では、レギュラーガソリンのオクタン価が日本より高いので、欧州ではレギュラーガソリンで使えるとしていた。



SKYACTIV‐Xの完成は、世界初の快挙となったが、試乗してみると、出力不足を覚えさせるところがあり、燃費ではディーゼルエンジンのSKYACTIV‐Dに比べ優位性が十分でなく、また圧縮着火というディーゼルエンジンのような燃焼方式であることにより、振動騒音を意識させ、乗用車用エンジンとしての商品性は必ずしも十分でなかった。



ガソリンの自己着火という「夢の技術」で業界騒然となったSKYACTIV-X! どんな技術でなぜ広まらなかったのか?
「SKYACTIV‐X」エンジンを搭載したマツダ3 ファストバックの走行写真



そのうちに、時代はより大きくCO2排出量の削減へ動き、電気自動車(EV)の期待が高まり、SKYACTIV-Xの展開は、マツダとしても必ずしも明快ではなくなってきているようだ。



ガソリンエンジンの究極を目指したSKYACTIVの思想は、大変意義のある尊い内容だった。ただしそれは、20世紀のうちに達成されるべき目標であり、電気の時代といえる21世紀には時代遅れとなる運命にあったかもしれない。

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