国産車も輸入車も存在したがどれも短命だった

今では乗用車に見かけなくなったクルマのパッケージとして、前席3人掛けがある。昔のアメリカ映画に出てくる、巨大なアメ車のソファのようなベンチシートに男(運転席)と、中央席に寄って座ったブロンドに青い目の女の子が密着して座り、男が女の子の肩に手を回し、カーラジオから流れる大音量の音楽を聞きながらドライブを楽しんでいる光景は、当時のクルマ好きや恋愛好きの誰もが憧れたはずだ。



そんな憧れを、近年、国産車でまず実現したのが、1998年デビューの日産ティーノだ。

当時のサニーをベースに、全長約4.3m、全幅1.73mというショーティ&ワイドなボディを採用。



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コラムシフトとともに、前席左右の間に補助的なシートを追加。前後席で最大6名の乗車が可能だった。後席3座が独立して取り外せるなど、まさにアイディアの塊のような1台だ。ただし、そのコンセプトは日本では大ウケとはならず、前期型から改良されることなく消滅。短い命だった。



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また、同年イタリアのフィアットからも、ムルティプラというかなり個性的デザインの前席に3座を備えたマルチパーパスカーが登場。マニアには好評でも、世界的な市民権は得られずに終わったのだった。



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そんな“前席3人乗り不人気説”を吹き飛ばすように、2004年に華々しくデビューしたのが、当時のミニバンブームで勢いに乗るホンダが創造したエディックス。編集できるクルマと言う意味で、前席は3座独立の3人掛け。後席も3人掛けの、3by2(スリー・バイ・ツー)パッケージというわけだ。



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当時のシビックをベースにした2列シートミニバン(!?)というコンセプトで、6座独立、前後中央席をぐいーんと後方へスライドさせることで可能になるダブルV字シートレイアウト、全席シートリクライニング機構など、まさにクリエイティブムーバーそのものだった。

ちなみに全長約4.3mに対して車幅は約1.8m近くあり、ティーノ同様、ショーティ&ワイドでドしりとしたスタイリッシュな佇まいが特徴だった。



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ただし、1.7リッターという中途半端なエンジンの設定(のちに2リッター、2.4リッターに集約)、日本人のライフスタイルになかなかフィットしない3by2というパッケージからか、2009年まで生産された1代限りのモデルとなった(今では希少中古車だ!!)。



消滅する一番の要因は「安全性」

では、それ以来、なぜ前席3人掛けの乗用車が出現しないのか。当時の販売状況の反省ももちろんあるが、現代の安全基準において、3点式シートベルトやエアバッグの装備、サイドインパクト(横方向からの衝突性能)といった安全要件で、前中央席、前席3人掛けはなかなか難しくなったのがおもな要因だろう。



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しかも、最大6人と乗りということは、ミニバンとしての機能も果たすことになるが、であれば、1-2列目席スルーができないのが痛い。さらに、今ではフリード、シエンタといった、5ナンバーサイズのコンパクトカーでも、両側スライドドアの装備とともに、大人がしっかり座れる3列目席を大空間のなかに作れるパッケージング技術が構築され、6~7人乗りを無理なく実現できているからでもある。



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当時のティーノやエディックスの前席3人掛けを思い出せば、男+女+男、あるいは男+女+女の3人掛けは確かに楽しく、肩を寄せ合い、密着でき、お互いの体温を感じ取れる“嬉しさ”は(大好きな相手が横にいるなら)あったものの、やはり、全幅1.8m程度では、さすがに横方向が狭い。



近所のちょい乗りならともかく、ロングドライブはご免!! という感じだった。しかも中央席に関しては、エアコン吹き出し口は、たしか、あったはずだが、とにかく足もとが狭く、足の置き場に困る……という感じで、大きなセンタートンネルがドーンとあるクルマの後席以上にリラックスできなかった記憶がある。



それからすれば、フリード、シエンタのようなプチバンなら、コンパクトなボディーサイズでも、最大6人(2+2+2)の乗車でも余裕でロングドライブもこなしてくれるから、自動車メーカーとしては、今さらなにも窮屈な前席3人掛けをやる必要はない、といったところだろう。



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往年のアメ車のビッグサイズならともかく、そもそも密を避けましょう!! という今の緊急事態下では、残念ながら、“密すぎる!!”前席フル乗車は、乗車拒否されても致し方ないパッケージとも言えたりして。もちろん、カップルふたり乗車で、べったりくっついてドライブを楽しみたいというなら、話は別ですけど。

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