愛車に搭載される技術はクルマ好きにとって誇りだった
クルマ好きというのはメカ好きでもある。と同時に、自慢好きでもある。これはメーカーもユーザーも同じで、新しい技術、ライバルに差をつける機構を採用すると、それをステッカーやエンブレムにして車体に貼り周囲に誇示したくなるというのは、クルマ好きのサガといってもいいだろう。
TWINCAM/TURBO
国産車初のターボ車が登場したのは1979年。日産の430セドリック・グロリアのL20ET。日産はオイルショックのときに、ハコスカやケンメリGT-Rで有名なDOHCのS20エンジンを製造中止。以後L型などのSOHCエンジンが中心に。一方、トヨタには2リッターの18R-Gや1.6リッターの2T-Gなどツインカムエンジンを残していて、「スポーツカーの心臓は、ツインカム」というイメージ戦略を打ち出す。それに対し日産は、セド・グロ、スカイライン、フェアレディZにターボエンジンを搭載し対抗。
1980年代初頭、「ターボVS DOHC」論戦というのが起こると同時に、ハイパワーの象徴として、「TWINCAM」「TURBO」のエンブレムを貼るのがトレンドに。やがて、トヨタがセリカ(TA63)などにDOHCターボ(3T-GTEU)を積み、日産もR30スカイラインにDOHCターボのFJ20ETを投入。
エンブレムも「DOHC TURBO」「TWINCAM24」「24valve TWIN TURBO」「4VALVE DOHC RS-TURBO INTEERCOOLER」と、どんどん長文化に……。

当時の少年漫画のライバルが、番長、大番長、影の番長、影の大番長……とインフレ化していくように、収拾がつかなくなってきたのと、DOHCもターボも普及しすぎて、当たり前になり、いつしか自然消滅していった。全盛期には、「TURBO」の反転(鏡像)ステッカーも流行って、面白かったのだが……。
GT AUTO spoiler/ACTIVE AERO
R31スカイラインGTS-RのGTオートスポイラー(電動自動昇降式フロントリップスポイラー)や三菱GTOのアクティブエアロなど、可変空力システムも当時最先端のメカニズムで、ステッカーも貼ってあった。

新技術の実用化が進む時期には多くのエンブレムが誕生
4WS
ホンダの3代目プレリュードに量産車では世界で初めて採用された4WSも80年代後半から流行った技術。日産のHICASなども、エンブレムやステッカーになって貼られていた。

VTEC
1989年に2代目インテグラに採用された、可変バルブタイミング・リフト機構。実用車の性格とスポーツカーのパフォーマンスを両立できる画期的な発明で、ホンダのインテグラ、シビック、S2000、NSXなどの心臓部には欠かせないシステムだ。これもターボなどに匹敵する高性能の証として、EGシビックなどには「VTEC」のステッカーが大きく貼られていたが、VTECもバリエーションが広がり搭載車も増えたことから、とくにエンブレムでアピールすることはなくなってきた。

その他
他にも「4WD」とか「FULL TIME 4WD」といったエンブレムもあったし(軽トラなどではいまでもよく見る)、ABS(初期のホンダはA.L.B)やATTS(ホンダの前輪左右駆動力配分システム)、VGSとか、いろいろあった。1990年代初頭にアクティブサスも流行ったが、エンブレムがあったかどうか?

かつてこうしたエンブレムが流行った背景のひとつには、新技術、電子制御がどんどん実用化される時期で、それらのハイテクをアピールしたかったことがある。

もうひとつが、みんなクルマが好きだったこと。外観が同じでも、エンジンが数百cc大きければエライ、スタンダードより「デラックス」、「デラックス」より「スーパーデラックス」、「ロイヤルサルーン」だ「リミテッド」だ、とわずかな違いを気にした人が多かったから。
だから「ステッカーチューン」というのも、それなりの価値があったわけだが、いまはそんな違いには興味がないという人が増えたせいか、ハイテク系のエンブレムは廃れてしまい、その代わり「HYBRID」や「PHEV」、「ENE-CHARGE」などエコカー系のエンブレムはよく見るようになったが、これらもそのうち“当たり前”になり、やがてエンブレムも姿を消していくだろう。
