市街地を封鎖することが高いハードルとなっている

2020年9月20日、島根県江津市を舞台に日本初の市街地レース「A1市街地グランプリGOTSU2020」が開催されたことをご存じだろうか?



同レースを企画したのはコンサルティング会社を母体とするA1市街地レースクラブで、江津市の“町おこし”の一環としてレースを開催。舞台は江津駅前の駅前に設置された全長778mの特設コースで、アンバサダーを務める関口雄飛など主催者が招待した12名のドライバーによってレースが争われた。



ラリーはOKでもレースは激ムズ! 日本初の市街地レースから見...の画像はこちら >>



使用マシンは200ccのレンタル用カートモデル「ビレルN35」で、1デイで開催された当日は7分間のフリー走行、10分間の予選、20周の決勝といったように、表彰式を含めても、わずか1時間30分ですべてのセッションが終了する短いプログラムだったが、それでも市街地バトルは迫力満点で、多くのレースファンを魅了したに違いない。



ラリーはOKでもレースは激ムズ! 日本初の市街地レースから見えた「高すぎる」ハードルとは



まさに同レースは日本のモータースポーツ史に新たなページを刻むトピックスとなったが、なぜ、これまで日本では市街地レースが開催できなかったのか? ラリーシーンに目をむけると2004年に北海道帯広市で初開催されたWRCのラリージャパンを筆頭に、全日本ラリー選手権など日本でも以前から公道を封鎖して競技がおこなわれているのだが、なぜ、レースとしては開催されてこなかったのか?



ラリーはOKでもレースは激ムズ! 日本初の市街地レースから見えた「高すぎる」ハードルとは



その最大の理由は市街地を封鎖するための高いハードルにあると思う。基本的にレースにしてもラリーにしても競技で公道を使用する場合は国道や県道、市道に関わらず、各地方の自治体が管轄する警察署に「道路使用許可」、国土交通省地方整備局に「道路占用許可」を申請。



各自治体の警察署および国土交通省は安全性、道路封鎖による地元住民の経済、一般交通へ与える影響を考慮して道路の使用と占用を判断しているが、ラリー競技のスペシャルステージはご存じのとおり、山間部のワイディングが使用されていることが影響しているのだろう。



ラリーはOKでもレースは激ムズ! 日本初の市街地レースから見えた「高すぎる」ハードルとは



住居および交通量が少なく、第三者へ損害を与えるリスクや経済、一般交通へ与える影響が少ないと判断されていることから、道路の使用および占用の許可をとりやすいようだが、市街地では安全性や経済、一般交通に与える影響は大きくなるだけに道路の使用および占用に対するハードルは必然的に高くなる。



ラリーはOKでもレースは激ムズ! 日本初の市街地レースから見えた「高すぎる」ハードルとは



将来的には電気を使った専用モデルでレース開催も!

ましてや江津市で開催された市街地レースは、前述のとおり、駅前に面した国道と県道を封鎖し、住宅はもちろん、郵便局や銀行、ホテル、ガソリンスタンド、喫茶店などの商業施設が立ち並ぶ生活道路で開催。



山陰エリアの地方都市とはいえ、“街の中心部”で開催されたことは前例のないトピックスで、ある日本のラリー関係者も「山間部の林道でもスペシャルステージの設定は大変だけど、江津のレースは市街地を封鎖したわけでしょ? クルマの展示とかデモランなら危険性が低いから許可もとりやすいと思うけど、レースとして開催したからスゴイよね」と感嘆。この言葉からも、いかに江津のA1市街地レースが画期的なレースだったかがうかがえるだろう。



ラリーはOKでもレースは激ムズ! 日本初の市街地レースから見えた「高すぎる」ハードルとは



この前例のない市街地レースを、なぜ江津市は開催できたのか? その最大の理由が前述のとおり、競技車両にレンタルカートを使用したことにある。同モデルの最高速度は80km/hで、車両重量も140kg前後と軽いことから安全性が高く、仮にコースアウトしても、レンタルカート用に設計された完全防護体「Go Track」だけで衝撃を吸収可能。事実、2020年のA1市街地レースGOTSUでも決勝中に多重クラッシュが発生したが、ドライバーやオフィシャルに怪我はなく、該当するドライバーたちもすぐにレースへ復帰し、無事にフィニッシュしていた。



ラリーはOKでもレースは激ムズ! 日本初の市街地レースから見えた「高すぎる」ハードルとは



また、完全防護体のGo Trackは重量が軽く、簡単にコース設営がおこなえることから、わずか2時間でコース設営およびコース撤去を実現。250名のボランティアスタッフのサポートにより、9時にスタートしたコース設営から15時の撤去完了まで大会当日に要した時間は6時間だったが、この極めて短い開催時間も市街地レースが実現できたポイントといえる。



当然、コースの全長を長くすれば、コースの設営およびコース撤去にも多くの時間が必要となり、大会の開催期間も長くなることから、道路使用および道路占用の許可に対してハードルが高くなることが想像できるが、A1市街地レースクラブの上口剛秀代表によれば「2020年の大会は新型コロナウイルスの影響もあって規模を縮小しましたが、通常開催であれば3万人の集客で4億円の経済効果が期待できるので、地元の方々がレースを絡めていろんなイベントを町おこしとしておこなうことができるなら拡大できると思います」とのことで、決勝を含めたレースの長時間化やコースの全長拡大などもおこなえることだろう。



ラリーはOKでもレースは激ムズ! 日本初の市街地レースから見えた「高すぎる」ハードルとは



また上口代表は「将来的にはレンタルカートだけではなく、電気を使った専用モデルでレースを開催したい」と今後の展望を語る。シングルシーターでも四輪車両であればハイスピードかつ車両重量が重たくなることから、安全性を担保するためには、フォーミュラEのようにコンクリートウォールに加えてデブリフェンスが必要になり、それゆえに、コースの設営・撤去にも多くの時間を要することが予想されるが、これについても上口代表は「スピードが重要で80km /hであればカート用の防護体でも部分的に二重にするなどの対策をおこなえば十分に安全を確保できると思います」とのこと。確かにトップスピードが低く、低車重かつ低車高の専用モデルであれば、EVカーになっても簡易の防護帯で安全性を確保できる可能性は高い。



ラリーはOKでもレースは激ムズ! 日本初の市街地レースから見えた「高すぎる」ハードルとは



A1市街地レースクラブではテクニカルワーキンググループを発足し、市街地レースのシリーズ化に向けて開催候補地の選定をおこなうなど新たなチャレンジの準備を開始。2021年は2回目のA1市街地グランプリの開催に向けて島根県江津市と協議をおこなっているほか、2022年にはシリーズ戦として全国5カ所から7カ所でのレース開催を計画しているだけに、今後もA1市街地グランプリに注目したいものだ。

編集部おすすめ