安全装備の普及により長期休暇後の客の殺到はなくなった
筆者は取材でアメリカや東南アジア、中国などを訪れたことがあるのだが、見た限りでは新車ディーラーは年中無休がスタンダード。ただアメリカなどでは、レクサスやメルセデスベンツを超える、超高級ブランドやスーパーカーブランドのディーラーは、「富裕層は週末別荘などへ行き余暇を楽しんでいるので、買い物はしない(買い物は平日に行う)」として、日曜が定休日(レクサスなども日曜はセールスマネージャーが休みで不在など、とりあえず店を開けておく程度)というレアケースもある。
アメリカを例に挙げると、新車ディーラーのなかでも年中無休なのは販売部門のみで、サービス工場は日曜日が休みとなっている。
日本では、新車ディーラーの創成期は、日曜日が休みであった。当時は個人所有というよりは、法人向け販売がメインだったこともあったようだ。その後、新車が空前の売れ行きとなったバブル経済のころになると、“日曜営業”というのをアピールするディーラーが出てきた。この時はアメリカと同じくサービス部門や、総務・経理などの管理部門などは日曜休みとし、新車販売部門だけ休日出勤。販売スタッフが平日に交代で代休を取ることで、ディーラーのショールームは年中無休となっていた。バブル経済のころは、平日、週末関係なく、とにかく新車がよく売れたので、1カ月休みなくフル出勤するセールスマンも少なくなく、貯まった有給休暇を会社が買い上げるといったこともあったようだ。
バブル崩壊後もしばらく年中無休は続いたが、そのうち新車ディーラーとしては世界的には珍しい“定休日”を設けるところが目立ち、いまはほぼすべての新車ディーラーが定休日を設けている。当初はサービス部門と管理部門が日曜日で、販売部門は平日バラバラに休むのがあまり効率的ではない(とくに販売部門が休めないケースも発生しやすい)として、全社一斉に平日を定休日にするようになった。ただ、それでも年中無休を続けていたところもあったが、今度はご多聞に漏れず“働き手”不足により、定休日を設けずにはいられなくなったのである(代休をずらしてとると、ひとりだけとか極端にスタッフの少ない日が出てきた)。

過去には年中無休で代休も満足に取れなかった店でも、「普段は満足に休めないから」として、年末・年始、ゴールデンウイーク、お盆などはしっかり長期休暇を取得していた。そしてそれはいまも引き継がれている。運輸支局も祝祭日は休みとなるし、製造業であるメーカーも長期休暇を取るので、タイミングを合わせていたともいわれている。以前ならば、長期休暇が明けると、休暇中に事故を起こした車両の修理依頼が殺到し、その対応に忙殺されていた。しかし最近は安全運転支援デバイス装着車がほとんどとなり、昔に比べると休暇明けの修理依頼もそれほど殺到しなくなったため、長期休暇が取りやすくなったという声も聞いている。
日本は新車販売におけるデジタル化が遅れている
正月2日や3日から初売りセールを行っていたメーカー系ディーラーも多かったが、2021年では正月3日までに初売りをスタートさせたのはスズキ系と一部日産系ディーラーだけであった。初売りを三が日から始めなくなった理由はいろいろあるようだが、そもそも正月三が日以内から店を開ける時には、休日出勤扱いで店舗スタッフのうち半数出勤とするケースが多かったのだが、それも“働き手不足”によりできなくなったという話も聞いている(ほかには、メーカーからの出向者がいるので、メーカーの休日カレンダーに合わせたためといった理由や、紅白の横断幕を貼ったりした初売りはブランドイメージになじまないといった理由もあったと聞いている)。
さらに、“働き方改革”でセールスマンの休みはいまもなお増え続けている。バブルのころは週に1日休むのも大変だったが、いまや週休2日は当たり前で、週休3日実施までが話に挙がっているところもあると聞く。さらに、有給消化率の向上のために、定期的に半ば強制的に有給を取らされるといった話も聞いている。

ベテランセールスマンからは、「最初は、いつ新車を売っていいのかわかりませんでしたが、最近は限られた時間内に効率的に新車を販売することにも慣れてきました」との話も聞いている。いまではアポなしで店頭へ行くと、担当セールスマンの休みが多くてなかなか会えないので、「いつなら店にいるの?」と聞いてディーラーへ出かける“馴染み客”も多いようだ。
いまでは、バブルのころの新車販売台数の半分ほどまでに市場が縮小しているので、夜遅くまで店を開けたとしてもお客がたくさんくるわけでもないし、年中無休を貫くのは光熱費などとの“費用対効果”も良くないとの理由も、時短営業や定休日を設ける背景にはあるようだ。それでも筆者の生活圏内にある、某新車ディーラーはゴールデンウイーク期間中でも全日営業していて驚かされた。

今後はリモート商談の普及が期待されているが、リモート商談先進国のアメリカでは間もなく商談の相手がAIになるのではないかといわれている。長い目で見れば、リモート商談が増えて行けば、店舗の多くは点検・整備のみを請け負うサービスステーション化していくのではないかともいわれている。アメリカの新車ディーラーはすでにそのような動きが見えてきており、週末のディーラーは。新車販売目的で訪れるお客が少ないどころか、セールスマン自体も少なくなってきているようにみえる(一部がリモート商談専属部隊となっている)。中国でもリモート化は進んでおり、一般的な通販サイトで新車を買うことも可能になっていると聞いている。
世の中のデジタル化により、欲しいクルマを扱うディーラーへ出向き、セールスマンと膝を突き合わせることだけが購入手段の選択肢とはならず、将来的にはAIを相手にしたリモート商談が定番となっていくことになるだろう。

日々の勤務時間や休暇の多さを見れば、“就労環境の改善”が進んでいるように見える新車販売の現場であるが、世界的に見れば、労働集約型産業からの脱却が進んでいることもまた事実。