シフトパターンはメーカーごとに自由に決めることができる
世界的な電動化トレンドにおいて、言うまでもなく少数派なのがマニュアルトランスミッション(MT)車だ。
実際、電気自動車では多段変速機を搭載していてもオートマチックで変速するようになっているし、ハイブリッドカーでもエンジンとモーターの出力をミックスするようなタイプでは構造的にマニュアル変速というのはあり得ない。
カーボンニュートラル、ゼロエミッションという目標に向かい、純エンジン車が減っていることもあって、将来的には消えてしまうメカニズムといっても過言ではない。
さらに日本ではAT(オートマチックトランスミッション)限定免許が存在していることもあり、MTが運転できる免許を持っていたとしても、めったにMTを見かけない、運転しないというドライバーも増えていることだろう。
そうしてまれに見かけるMTを運転するような機会があると、おそらく戸惑ってしまうのがR(リバース・後退)シフトの位置だろう。多くの5速MTでは5速の下(右ハンドルの運転席から見ると手前側となる右下)にRがあるだろうが、6速MTになるとしっかりとシフトパターン表記で確認しないと、どこにRがあるのかはわからない。
シフトパターンが車両ごとに異なるのは非常に紛らわしく、またドライビングミスを誘発するようにも感じる。では、なんらかのルールで決まっていたりはしないのだろうか。
保安基準を調べてみても、ハンドルの中心から500mm以内にシフト操作部が配置されていればいいとされているのみで、シフトパターン(変速段ごとの操作位置)については規定がない。シフトパターンが容易に識別できるようにしておけばいいとされているのみだ。
たとえば、トヨタ86では新旧モデルいずれも1速の左隣の右ハンドルでは遠いところにRシフトが位置している。一方、日産フェアレディZでは6速の右側にRがあったりする。そのほか、ランボルギーニ・ガヤルドは左ハンドルとしては体に近い位置となる2速の左側にRが置いてあるなどさまざまなパターンがある。

シフトパターンというのはメーカーが自由に決めることができるもので、共通の規則で決まっているものではない。すなわち、シフトパターンにおけるRの位置は統一されていない。

ハンドル位置が違ってもシフトは共通パターンは変わらない
では、メーカーごとになんらかのポリシーがあるかといえば、それも微妙だ。結論をいってしまえば、MTのシフトパターンには明確な理由はないというのが、多くのメーカーの見解だ。
とはいえ、オーソドックスな縦置き5速MTではトランスミッション内でシフトフォークによって動かされ、歯車をメインシャフトに固定することで変速を担うスリーブという部品が5速とRを切り替える設計のユニットもある。
その構造を見ると、直感的に5速の下にRを置くというのは自然な配置と感じることもあるが、それが全世界で共通の設計というわけではないのは、ご想像の通り。
同じスバル車であってもアイシン製のMTを積むBRZではRは1速の左隣にあるが、すでに生産終了となっているWRX STIの富士機械製6速MTでは6速の右側にRがあった。

メーカーのポリシーというよりもトランスミッションサプライヤーの設計がシフトパターンに与える影響も無視できないという証拠のひとつだ。
そう思えば、設計とシフトパターンが無関係というわけではなさそうだ。
それにしても面白いのは、シフトパターンというのはハンドル位置が左右どちらであろうと変わらないこと。もしドライバーに近い側に1速を置くという考え方があれば、ハンドル位置によって左右対称にシフトパターンを変えても良さそうなものだが、そうした発想は広まらなかった。
日本ではウインカーレバーを右側に置くなど操作系が独自の進化を遂げたなかで、シフトパターンは左ハンドルのそれをそのまま受け継いだのは、ドライバーの慣れも含めて、そこに合理性があったからといえそうだ。