コロナ禍により支出の矛先が新車購入に向かっている

自販連(日本自動車販売協会連合会)統計による、2020事業年度締め(2020年4月から2021年3月)の年間販売台数をみると、トヨタ・アルファードが10万6579台で、登録車のみのランキングで4位に入ったことが大きな話題となったが、トヨタ・ハリアーも8万6843台を販売し、登録車のみのランキングで7位に入っている。月販平均台数では約7200台、日産ノートやトヨタRAV4、トヨタ・ヴォクシーよりも多く売っている。



販売台数だけでなく、その内訳も興味深い。

ハリアーは相変わらずの納期遅延状態が続いているが、そのなかでもハイブリッドでAWDとなるZで、さらにレザーパッケージ、そして調光パノラマルーフとプレシャスブラックパールをオプションとして選んだものがとくに納期がかかっているとのこと。



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生産比率やオプションにより手間取っていることも大きいようだが、コロナ禍で行動自粛が続くなか、レジャーや外食などもできずに、貯蓄が増えている家庭が中間所得層あたりで目立っている。そのなかで“プチ贅沢”としての支出の矛先が新車購入に向かっており、小売りに限れば新車販売は好調となっている。



ただ、いまのコロナ禍では世間体を気にして、ドイツ系高級ブランドなど、見た目からバレバレの高級車には乗りたくないというひとも多い。そこで、そんなに高いというイメージのない車種での最上級グレードや、日本車のなかで車種自体の“プチ上級移行”などが顕著となっており、ハリアーだけでなくアルファードのビッグヒットなども招いたとされている。



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アルファードは見た目も豪華だが、売れ筋のSCパッケージでも(最上級グレードではない)、支払い総額で600万円前後にまでなるとは、そこまで世間的なイメージは一致していない(高いんだろうなあという漠然としたイメージだけのひとも多い)。ハリアーでも中間グレードなどを選べば“極端な高額車”というイメージはないが、最上級でオプションテンコ盛りとなれば、かなりの高額車となる。しかしそのような状況を世間に知られることは少ない。“自己満足が高い”や、“ステルス高額車(世間では高額車に見えない)”というところも人気の秘密となっているようである。



一方でレクサスはブランド全体の2020事業年度締め年間販売台数が5万台強なので、ハリアーだけの年間販売台数も満たしていない。もともと、数を売ろうということは強く意識していないので、これをもって極端な販売不振にあるというわけではない。



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レクサス車は冗談半分で、“バッジ代だけでトヨタ車より1.5倍高い”といわれている。

しかも、車両本体価格からの値引きはゼロが大原則(実際は下取り査定額への上乗せなどで、“なんちゃって値引き”はしているようだ)。また、「レクサスを買うなら、メルセデス・ベンツBMWが視界(購入検討)に入ってくるからなあ」というのも、よく聞かれる話。



コロナ禍となってから、新車販売では、とくに残価設定ローンの利用が目立っている。そのような傾向のなか、購入希望車の選定で“リセールバリュー”が重視されるようになってきた。リセールバリュー、つまり車両の残存価値が高ければ高いほど、数年後の当該車の残価相当額が支払最終回分となる残価設定ローンでは、残価相当額が多くなるので、月々の支払い負担が軽くなるからのようだ。



トヨタ車のほうが「リスクが少ない」と考えられている

レクサスが属する“プレミアムブランド”でも、その傾向は大きく変わらない。国内で開業したばかりのころに比べればブランドとしての認知が高まってきたレクサスだが、メルセデス・ベンツやBMWのリセールバリューの高さにはまだまだ及ばない。レクサスのメインユーザーとなるような、高額所得層の間ではよりシビアに“ブランド価値”というものが重視されるので、どうしても“メルセデスベンツやBMWよりは格下”といったイメージも根強く残っている。



国内で開業したころには、地方都市ではいまほど輸入車ディーラーのネットワークが拡充していなかったこともあり、地方の富裕層の間では輸入車に乗ることに抵抗を示す傾向もあり(世間体も気にして)、レクサス開業直後には東京などの大都市よりも、地方都市において、「これは輸入車ではなく、トヨタのモデルだよ」と言えることもあり、レクサス車がよく売れた。しかし、いまでは地方でも輸入車ディーラーネットワークが充実し、所得格差もさらに拡大しているので、世間体を気にせずに(開き直り?)地方都市でも輸入車がよく乗られるようになった。



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トヨタブランドでは、いまでは軽自動車まで幅広く扱っているのだが、クラウンをはじめ“日本を代表するクルマ”的なモデルを多数ラインアップしている。また、メルセデス・ベンツはコマーシャルで、“自動車の歴史はメルセデス・ベンツの歴史”というようなキャッチを使っていたこともあるが、トヨタは“日本車の歴史はトヨタの歴史”みたいな表現も大げさではないほどのステイタスを日本国内では持っているので、日本国内に限れば、レクサスブランドとの“違いがよくわからない”と感じるひとも多いようだ。



そのなかで、タクシーとしても長い間大活躍したクラウンの存在は今日のトヨタブランドのステイタス形成に大きく貢献しているのは間違いない。アメリカにおいてトヨタは、かつて小型ピックアップトラックを熱心に販売していたこともあり、“トラックブランド”というイメージがまだ一部で定着しており、レクサスとの明らかなヒエラルキーの違いを認識するひとがいる。一方で、レクサスブランドを“トヨタの上級ブランド”と認識せずに乗っているひとも少なくないとのこと。認識の違いはあるものの、トヨタブランドとの明確な“格差”が理解されているからこそ、アメリカはレクサスのブランディングが成功している数少ないマーケットとなっている。



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レクサスは残念ながら、世界的に見ると北米地域以外では手放しで好調といえる状況ではない。ロシアの首都モスクワは世界一レクサス車が多いとされているが、世界的視野で見ればそのような地域は限定的。逆にトヨタ車は先進国だけでなく、ニューギニアの密林や、中央アジアの山岳地帯、そしてアフリカ大陸などでも、ランドクルーザーやハイエースがメインとなるが大活躍し、広く世界でトヨタ車のステイタスは高いものとなっている。



そのため、日本から中古車輸出が盛んに行われているが、とくにトヨタ車の人気が高い。そのなかでアルファードやハリアーの人気はさらに高く、いまやリセールバリューの高さは“鉄板もの”となっている。消費者はこのあたりはシビアに見ており、レクサスのSUVよりは、世界的に高いブランドステイタスに裏打ちされたリセールバリューの高いトヨタブランドのハリアーが、レクサス車より“リスクが少ない”として選ばれることになっているものと考える。



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現状では、トヨタブランドがTNGA思想を採り入れた新型車が多く登場しているのに対し、レクサスはモデル末期車が多いというところでのハンデもある。しかし、そこがクリアされたとしても、単にモデルの優劣だけでなくブランドステイタスも重視されるので、「レクサス買うなら、ベンツやBMW」または、「トヨタブランド車で贅沢する」といった消費行動が大きく変化することは期待できないだろう。



新型ハリアーの爆発的ともいえる売れ行きは、コロナ禍という非常事態下での社会不安が広がるなかで、消費者の間での“より確かなものを求めたい”という気持ちのなかで、トヨタブランドの高さというものを顕在化させた一例といっていいだろう。

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