走りに振ったミニバンが減った
日本のミニバンブームの火付け役となったのが、初代が1994年にデビューしたホンダ・オデッセイ。発売以来、大ヒットしたことは記憶に新しいが、以来、トヨタ・ウィッシュ、イプサム、ホンダ・ストリーム、ジェイド、三菱グランディス、ディオンなど、リヤドアが非スライド式のリヤヒンジ式ミニバンが続々と登場。しかし、今やリヤヒンジ式ドアのミニバンは、国産車では皆無。
国産ミニバンブームをけん引したホンダが初代から4代目まで、低全高低重心(特に2~4代目)とリヤヒンジ式ドアにこだわっていたのは、当時の開発陣の話を思い出せば、ミニバンでも走りを重視したからだ。筆者は2代目オデッセイのアブソルートV6 3.5リッターを所有していたことがあるけれど、走りの質感は当時として国産車離れしたもので、全高が1630mm~もあったにも関わらず、17インチタイヤを履いた走りはかなりスポーティだった。

それが3~4代目ではさらに進化し、全高は1550mm前後となり、一層の低全高化、低重心化を図り、アブソルートの走りを磨きに磨いた経緯がある。実際大きな声では言えないものの、「ミニバンの皮を被ったスポーティカー」が、オデッセイのコンセプトだったのである。

しかしだ。繰り返すが、今では走りに振ったミニバンは、ついに両側スライドドアを備えた5代目オデッセイのみ。
現在のミニバン人気はS/M/Lクラスの両側スライドドアを備えた、走りより室内空間のゆとり、豪華さ、燃費性能(HV)、子育て世代や高齢者、VIPの使い勝手、乗降性などにこだわったボックス型ミニバン、つまりトヨタ・アルファードやノア&ヴォクシー、e-POWERを引っさげた日産セレナ、そしてホンダ・フリードやトヨタ・シエンタのコンパクトミニバンなどになっている(2021年3月期の新車販売台数ランキングでは3位アルファード、8位トヨタ・ヴォクシー、9位ホンダ・フリード、12位トヨタ・シエンタ、14位ノア、16位ホンダ・ステップワゴン、32位三菱デリカD:5、35位オデッセイ、49位トヨタ・ヴェルファイア)。

「ミニバンは両側スライドドア」が当たり前になった
では、どうしてリヤヒンジ式ドアを持つミニバンが消滅したのだろうか。まずはミニバンならではの3列シートレイアウトにおいて、乗降性でスライドドアが圧倒するから、と考えるのが妥当だろう。そもそも開口部の間口が大きく、2列目席はもちろん、3列目席にだってアクロバティックな姿勢なしで乗り込めるのはスライドドアだ。

しかもステップが低めで、フラットフロアが基本。

初代オデッセイ時代は、ファミリーカーに多人数乗用可能な3列シートがあるだけで嬉しがられ、ヒットしたわけだが、ユーザーがミニバンに慣れるにつれ、さすがに両側スライドドアのほうが圧倒的に便利なことを知ってしまったというわけだ。リヤヒンジ式ドアのミニバンは、ステーションワゴンと使い勝手的に大きく変わらず、しかも非ボックス型がほとんどだったため、3列目席は乗降性だけでなく、居住性もまたプアだったのである(ほぼ緊急席)。

ミニバン市場が熟成すればするほど、「ミニバンは両側スライドドアを備えていないとダメだよね」という認識が広まったということは言うまでもない。そして、ミニバンにまでスポーティな走りを求めるユーザーは、今ではごく少数派ということでもありそうだ。
ところで今、人気爆発、売れすぎのアルファードだが、以前、ライバルを圧倒する売れ行きの理由を開発陣に聞いてみると、そのひとつが1400mmの室内高だという。ちなみにライバルのはずの日産エルグランドの室内高は1300mm。その100mmの差が、LLクラスミニバンに求める室内空間の広さ感、天井の高さ感がもたらす贅沢さ、魅力につながっているとのこと(ノア&ヴォクシー、セレナもぴったり1400mm。ステップワゴンは1405~1425mmだ)。

低全高なリヤヒンジ式ドアのミニバンの室内高がそれよりずっと低いことは言うまでもなく(1300mm前後)、「室内高1400mmルール!?」から外れた多くの全高を抑えたリヤヒンジ式ドアのミニバンは、ミニバンならではの室内の広々感、天井の高さを実感しにくかったため、ここ最近のミニバン成熟時代に生き残れなかったと言っていいだろう。