現行車なのに「素」が味わえる稀有な存在!
近ごろのクルマは「ハイ、メルセデス! ちょっと暑いんだけど?」みたいに話しかければ「では23℃にします」的に、勝手にかつ自動的にいろいろなことをやってくれる。
それはそれで素晴らしいことであり、そのほかさまざまな安全装備も大進化しているのは、まさに人類の大勝利であると思うわけだが、同時につまらなさも感じている。
料理にたとえるならば、ソースの味が濃すぎて、肝心の素材の味が今ひとつわかりにくい――みたいな感じだろうか。

凝りに凝ったシェフ自慢のソースも決して嫌いではないが、やはり「素材そのものの味」もさっぱりと堪能させてもらいたい。日本人だもの。そして、それはクルマにおいても同じである――と思ったとき、気になるのが「素うどん的なクルマ」だ。

先進安全装備がまったく付いてないわけではないが、その数と種類はきわめて少なく、インフォテイメントシステムも最小限。だがその代わりに「素材の味」をほぼそのまま味わうことができる――みたいなクルマに、こんな時代だからこそ乗りたいのである。
「ということで、みなさん中古車を買いましょう!」でこの話を終わらせてもいいのだが、世の中には中古車を好まない人も多いはず。
そのため、新車またはきわめて新車に近い中古車として探せるモデルのなかから、今となっては貴重な「素うどんCAR」を探してみたいと思う。
1)フィアット パンダ クロス4×4
0.9リッターの2気筒ターボエンジン「ツインエア」を搭載し、トランスミッションは6速MTのみとなるイタリアの小型クロスオーバーSUV。2020年10月に150台限定で発売され、それが完売となって2021年4月、再び215台の台数限定車として発売された。

0.9リッター2気筒ターボのツインエアエンジンがもたらす有機的なビートを6速MTで操るというのはまさに「素材の味をそのまま味わう」といったニュアンスで、余計な(と言っていいかどうかはさておき)先進安全装備もほぼ付いていない。かろうじてシティブレーキコントロール(衝突被害軽減ブレーキ)が付いている程度である。これぞまさに現代の素うどんCARの最右翼だと言えよう。

価格は263万円。

国産にもあるハードボイルドな世界
2)スズキ ジムニー シエラ JL 5速MT
世界を代表する「はたらくクルマ」のひとつであるスズキ ジムニーの、小型乗用車版である。搭載エンジンは1.5リッター直4自然吸気で、当然ながらラダーフレーム、そしてこれまた当然ながら駆動方式は4WD(パートタイム4WD)のみだ。

シンプルきわまりない四角四面のフォルムや、タフなイメージのインテリアは、あくまでも働くクルマとしての合理性追求から生まれたもの。しかし「そこが逆におしゃれ!」ということで一般ユーザーにも大人気となってしまい、注文が殺到。現在も、納車まで1年半ぐらいは待たねばならないというのが玉に瑕となるオフローダーである。

で、最上級グレードのJCには「スズキ セーフティ サポート」という先進安全装備のパッケージや、しゃれたアルミホイールなどが標準装備となるのだが、もっともベーシックなJLは、そういったモノはとくに付いていないハードボイルドな世界。

4速ATを選ぶこともでき、売れ筋はそちらとのことだが、ここはひとつシンプルな5速MTを選び、邪念なき色即是空の世界観にひたりたいものだ。新車の納期が待ちきれない人には中古車もある(即納プレミアが付いてちょっと高いけど)。
3)ルノー カングー ZEN 6速MT
郵便局に導入するのも似合いそうな形状の(?)フランス製5人乗り車。3列シートのミニバンに見えなくもないが、シートは2列で、その分だけラゲッジスペースや床下収納スペースは広い。

搭載エンジンは最高出力115馬力の1.2リッター直噴ターボ。6速ATだと若干のかったるさも感じるが、6速MTのほうはまずまずの力感で、癒やし系な見た目からは想像できないほど「全般的によく走るクルマ」でもある。

で、さすがに近年のクルマだけあってESC(横滑り防止装置)やヒルスタートアシストは標準装備だが、それ以外はこれといった余計な(?)システムやインフォテイメントはなし。新世代のライバルであるプジョー リフターが先進装備の全部盛りであるのとは対極の、まさにZEN(禅)の世界だ。窓を開け放ってゆったり走れば、お寺で座禅を組むまでもなくα波がビンビンに出るだろう。

ちなみに本国ではすでに受注開始となっている新型のカングーは、さすがに先進安全装備の類が全部盛りで、フロントマスクもマッチョな感じになっている。それはそれでもちろん素敵だが、素うどん的な「禅の境地」を目指したいのであれば、狙うべきは現行世代だ(もしくは初代の中古車か)。