この記事をまとめると
■軽トラックが雪国で速いスピードで走っている様子をよく見かける



■悪路や低μ路面に強いことが理由のひとつとして挙げられる



■ミッションのギヤ比が低めなことも雪上では非常に有利だ



軽トラは悪路や低μ路面に強い

この季節、雪道で異様に速い軽トラックを見かけることはないだろうか?



普段の田舎道ではノロノロ運転が目立つ軽トラックも、冬の雪国だと存外に速いペースで走っていることが多い。雪国の人は雪上ドライブに慣れてる、軽トラックは車高が高く車重が軽いから、などといったこと以外にも雪道の軽トラックが速い理由は枚挙にいとまナシだ。



まず、軽トラックはそもそも悪路や低μ路面に強い。

ハイゼットやキャリィ、サンバーなどの代表的な軽トラックが世に登場したのは1960年代で、当時の日本の道路は未舗装路だらけ。軽トラック/軽バンは創成期から泥や砂利道でもガンガン走れるトラクション性能が重視されたので、大昔のプアな商用タイヤを履いても低μ路面に食らいつくリヤサスペンションの開発が進んだ。ショートホイールベース、ナロートレッドというディメンションも低μ路面での走破性を高める要因として有利に働く。一般的には雪に弱いとされる後輪駆動も、荷物などで荷重がかかるとトラクションが高くなるし、空荷では逆に限界が極端に低くなってドリフト状態に持ち込みやすい。運転スキルの高いドライバーの手にかかれば、雪上ではラリーカーのような動きを見せる。



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さらに、ミッションのギヤ比が低めなことも雪上では非常に有利だ。乗用車なら2速発進をせざるを得ない状況でも1速のままジワっとしたトラクションをかけやすいし、2速発進ならなお丁寧な駆動コントロールが可能となる。



また、多くの軽トラック/軽バンは屈強なラダーフレームをもつ車体や駆動輪のリヤサスがリジッドアクスルであるなど、車体構造が本格派クロカン四駆と同じであることも大きい。これに大量の荷物でリヤタイヤに強い荷重がかかれば強力なトラクションを発揮できる。一方、四輪独立懸架サスをもつスバル製のサンバーは、同じ後輪駆動でもよりトラクションのかかりやすいRRレイアウトを採用。独自の道を進んだが、悪路走破性の高さでは他銘のFRやMRレイアウトの軽トラック/軽バン以上に定評があるのは有名だ。



悪路走破性を重視した設計となっている

軽トラック/バンは高度成長期の日本のモーターリゼーションを推し進めた立役者となり、大企業から零細企業、個人事業者まで多くの日本のビジネスシーンで活躍した。

大量に売れるから開発や競争も激しく、どんな時代にあっても常に前述した走りの性能が重視されてきたという歴史もある。商用/業務用車が大型化し、日本の道路の舗装率が高まった後もなお、軽トラック/軽バンは農道や林道などで使われることが多いため、今でも悪路走破性を重視した設計となっているのだ。



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さらには、軽トラック/軽バンの多くは四駆性能も本格派クロカン並みのポテンシャルを備えている点に注目。昔から四駆にデフロック機構を備えるモデルが多く、泥濘路でスタックしない性能が磨かれてきた。スズキのキャリィは今でも四駆のMTモデルにデフロック機構を備え、ぬかるみなどで後輪の片方が空回りした場合に、スイッチをONにするだけで、もう一方のタイヤに駆動力を伝達する。



2021年12月にフルモデルチェンジした最新のハイゼットシリーズでは、新開発のCVTにもスーパーデフロック機構を設定。片側のタイヤが空転した時でもスイッチをONにすると、反対側のタイヤにも駆動力が伝わる。軽トラック/軽バンは、令和の時代でも半世紀以上も昔の昭和中期と変わらない未舗装路での走破性が重視されているのだ。



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そして、軽トラック/軽バンは運転操作の面でも雪上で扱いやすいという利点もある。ステアリングのギヤ比は一般的な乗用車よりもスローなので、雪上では厳禁とされる「急」のつく操作になりづらい。滑りやすい路面でも安定性を確保するための穏やかな操舵入力がしやすいのだ。



もっというと、軽トラック/軽バンは路面インフォメーション伝達性に優れる利点も無視できない。

車体のフレームは屈強だし、乗用車ほど柔らかいブッシュを使わず、シートも薄っぺらいのでクルマの挙動がダイレクトに感じやすいことも雪上での速さにつながる。昔は「未舗装路で軽トラックを乗りまわして運転の基礎を学んだ」というエピソードを持つプロドライバーが多かったものだが、ある意味、軽トラック/軽バンはラリーカーやレーシングカーと同じ原理で運動性能が高いといえるのだ。

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