この記事をまとめると
■正しいドライビングポジションだとクルマがきっちり素直に動いてくれる■リラックスできてるつもりのルーズな姿勢は身体が安定しないため実は疲れる
■正しいポジションならシフトやステアリングなどを無理なく滑らかに操作できる姿勢になる
クルマを自在に操るためには正しいドラポジが望ましい
自動車ライターという職業柄、触れたことのなかったクルマに初めて乗り込んだり、同じ現場で何度も違うクルマに乗り換えたり、ということが日常的にある。パッと乗り込んでサッと走り出したらスマートに見えるのかも知れないけど、僕はドアを開けてから走り出すまでにちょっとばかり時間がかかっちゃうことが多いから、モタついてるように思われるかも知れない。
でも、そう見えたところでちっとも構わない。
テキトーに合わせただけで走り出すと、ドライビングにかなり違和感があって自分の動作のひとつひとつがいちいち気になるし、何より狙ったとおりにクルマが動いてくれない。だからシートの前後の位置、座面の高さや角度、シートバックの角度、ステアリングの高さや奥行きなど、調整できるところをすべて、納得のいくところまで調整する。
ドライビングポジションは重要だ。免許をとってしばらくは僕もテキトーに合わせて何となくラクに思える姿勢で走っていたのだけど、自動車メディアで仕事をするようになってプロのレーシングドライバーに運転のための正しい姿勢を教わって走ってみたら、驚いた。それまでちょっとダルで思ったように動いてくれないと思ってた自分のクルマが、シートを1段階前にしてシートバックを2段階ほど起こして走ってみたら、別のクルマに乗り換えたかと思えるほどキッチリ素直に走ってくれたからだ。

それまではクルマが曲がらないんじゃなくて自分のステアリング操作がスムースじゃないせいでちゃんと曲げられてなかったのであり、加速が1テンポ遅いんじゃなくて自分のアクセルを踏み込むタイミングが1テンポ遅かった。つまり、適切な操作ができてなくて、それはドライビングポジションに起因する問題、ということだったのだ。
のちに何年かレースを囓ることになったのだけど、そのときに何度自分のドライビングポジションを変えてみたことか。若造だったころ、僕はいったいどれだけルーズな姿勢で運転してたのだろう……? と思い出して苦笑いしたりもするけど、同時にそんな状態で峠を攻めたりしてた無知・無鉄砲ぶりに鳥肌が立ちそうにもなる。
たとえば、シートに座って腰を少し前にずらし、シートバックを寝かし気味にして走ると、何となく身体がリラックスした状態であるように感じるものだ。

ルーズな姿勢でいると、どうなるか。シートにしっかり腰が収まっていない状態では、前後左右のクルマの動きに対して身体の押さえが利きづらく、シートのなかで動きがちになる。背もたれを寝かし過ぎるとステアリングを握る腕が伸びきって素早く自在な操作がしづらくなるうえ、遠心力が働くと操作しきれない状態にもなる。そんなふうに姿勢が崩れていると、膝や足首の角度も崩れてしまい、ペダル操舵に遅れが出たり強く踏み過ぎたりすることになる。ついでにいっておくと、自分ではリラックスできてるつもりのルーズな姿勢は身体が安定しないため、じつは走れば走るほど身体が疲れていく。

また逆にステアリングを抱え込んでしがみつくような姿勢で走ると、ステアリングを握る腕の動きに自由度がなくなって、スムースに操作することができない。シートバックにしっかり背中がついてないと、肩にも首にも腰にもストレスがかかる。

つまり、崩れた姿勢のドライビングには、いいことなんてひとつもないのだ。
正しいドラポジは意外と窮屈! だけどすぐに慣れる
ならば、正しいドライビングポジションというのはどういうものなのか。答えはシンプル。ステアリングやペダル類、MT車の場合はシフトレバーなどを、無理なく自然に滑らかに操作できる姿勢、である。足りなくてもダメ。余ってもダメ。シートやステアリングを調整できるかぎり調整して、その姿勢を探り出すことが、まずは大切だ。

もちそん個人差はあるわけだが、大まかな目安というのがあるにはある。まずシートに腰掛け、奥深くまで軽く腰を押し込むようにして、尻から太股のなるべく多くを座面の上にのせる。シートバックは、両肩までシートに接触させることを意識して調整する。身体とシートが接触する面積を増やすと、クルマの動きに対して身体が安定するし、疲れにくい。クルマのシートというのは、そういうふうに作られてるのだ。
次はシートを前後にスライドさせて、ペダルを踏む足の位置を決める。アクセルペダルを、そしてMT車の場合にはクラッチペダルも奥まで踏み込んで、それでも膝が充分に曲げられてる状態まで調整する。一般的なシートでは、強い遠心力がかかると適切な座り方をしていても身体の横ズレが生じることがあるから、膝の裏に少しゆとりを持たせるぐらいでちょうどいいい。

身体が横ズレすると足も同時にズレようとするわけで、そんなときにもペダルをちゃんと踏んでいられる余地を残しておく、ということだ。遠心力がかかってる状態でもブレーキを踏まなきゃならないことっていうのもあるわけで、ちゃんと踏めなかったり踏む力が緩んだりしたら……と考えるとゾッとする。……でしょ? ちなみに座面の高さや角度を変えられる機構があるなら、もちろんそこも調整に加えるべきだ。
そして着座の姿勢ができたら、今度はステアリングと自分の距離の調整だ。シートバックにしっかり背をつけた状態でステアリングの上部にまっすぐ腕を伸ばし、ちょうど手首あたりがステアリングに触れるぐらいにシートバックの角度を調整する。その状態で9時15分から10時10分ぐらいの位置でステアリングを握ってみると、両肘がしっかりと曲り、動きにゆとりがもててるはずだ。それならコーナーで強めの遠心力がかかっても腕が伸びきってしまうことはまずなくて、常にステアリングの輪っかの部分を押したり引いたりする操作を行うことができる。

おおまか、それが適切なドライビングポジションなのだけど、直前までルーズな姿勢で運転をしていた人にとっては、ちょっと窮屈に感じられるかも知れない。僕もそうだった。
でも、どちらの人も、すぐに慣れる。そしてあるタイミングで、クルマがそれまでよりしっかり操作ができて、狙ったとおりに素直に動いてくれることに気づくことだろう。ひとたび慣れてしまったら、常にその姿勢でクルマを走らせようと思うようになるはずだ。
プロのレーシングドライバーでもないくせに何をえらそうに! と思う人も、もしかしたらいるんじゃないかと思う。確かに僕は、彼らほど速く走ることはできない。けれど、オヤジになってももっともっと上手いドライビングができるようになりたいと思って日頃からクルマを走らせてるし、何よりそれ以前に、クルマは安全に走らせなきゃならないと思ってる。それには適切なドライビングポジションというものが不可欠なのだ。ペダルをしっかり操作できなかったりステアリングを正確に動かせなかったりしたら、それが原因でコントロールを失ってクラッシュすることだってあるのだから。

僕たちが楽しく走らせてるクルマという乗り物は、いとも簡単に人の生命を奪ってしまうことだってある。その事実を絶対に忘れてはいけないのだ。