この記事をまとめると
■トヨタの電気自動車戦略のトップバッターのbZ4Xプロトタイプに試乗■EVらしさを抑えガソリン車ライクな出力の出し方をしている
■電動車のネガであったバッテリーの劣化が抑えられている
EVのメリットを生かした広い室内!
トヨタが沈黙を破ったのが2021年12月14日のことだ。オンライン形式ながら、衝撃的な電動化戦略を発表したのである。今後は数々のBEVモデルを投入すると口にする豊田章男社長の宣言は熱を帯びており、ステージ上にはなんと17台もの開発車両が展示されていた。
その中の一台が「bZ4X」である。トヨタBEV(バッテリー・エレクトリック・ヴィークル)の急先鋒であり、トヨタBEV攻勢の狼煙である。
ボディデザインはRAV4の面影を色濃く残す。いわば典型的なSUVスタイルであり、車高の高さが印象的だ。バッテリーを低く薄く床下に搭載するためには、都合のいいパッケージである。
ただし、詳細に眺めると、RAV4との比較では前後に95mm長く、20mm幅広い。ホイールベースは160mmも延長されている。一方、フロントフードはエンジンを失ったために50mm低くなり、リヤのオーバーハングは65mmも切り詰められた。車高は60mmもダウン。長く、広く、低いボディシルエットを持つのだ。

だからこそ、車内は相当に広々としている。

搭載するパッテリーは総電力量71.4kWhであり、航続可能距離は500kmを軽々と越えると予想する。プロトタイプゆえに詳細なスペック等の言質は得られなかったが、共同開発車のスバル・ソルテラの資料から想像するに、最高出力は160kWであろう。
駆動方式は2タイプ。フロントの1モーターで前輪を駆動する2WDと、160kWを二分割したモーターをそれぞれ前後に搭載し全輪を駆動する4WDが用意されている。

操縦安定性で印象的だったのは、BEVらしさを抑えていることだ。発進加速は力強いものの、極低速度域で唐突にパワーが炸裂させないようなプログラムなのだ。テスラやジャガーのような過激な爆発力を嫌ったに違いない。

それゆえに、速度が上昇しても加速感が急激にしぼむことがないのは好印象だ。
SUVだが低重心で気持ちのいいコーナリング
操縦性は、BEVらしいものだ。クルマにとって最大の重量物であるバッテリーを床下に低く薄く搭載することで、エンジン車では困難な低重心化を実現している。同時に、前後重量配分も理想に近い。よって、コーナリングマナーは自然であり、旋回中のロールも驚くほど少ない。走りは気持ちいいのである。

とくに、前後輪を駆動させる4WDは、旋回中の駆動力をフロントタイヤだけに頼っていないことで、なおかつ旋回性が自然である。235/50R20インチ仕様は、235/60R18インチ仕様に比較してフットワークの軽快さは際立っていた。

それにしても気になるのは、ドライビングポジションである。運転姿勢はフラットライドで、ペダルを上から踏みつけるような姿勢にならずに好感が持てる。だが、メーターは前方に移植されており、ステアリングの間から計器類を確認するのではなく、ハンドルの上から目視するデザインに変更。

もっともこれには事情があるようだ。昨年のプロトタイプ発表であったように、近い将来にステアリングバイワイアーが設定される予定だ。この認可が取得されたあかつきには、ステアリングはレーシングカーのように、あるいは航空機の操縦艦のような上端が欠けた仕様になる。それならばメーターは見やすくなる。ステアバイワイアーありきのデザインのように思えた。
それにしてもbZ4Xは、満を持して発表されただけに、細部に先進的な熟成の痕跡がうかがえる。たとえばバッテリーの劣化は、約10年で10%と試算されている。初期プリウスでは50%近く性能が低下した。それが低いリセールバリューの原因になっていた。劣化の克服は買い替え時にはありがたい。

バッテリーは水冷式であり厳格に温度管理されている。
BEVの課題のひとつである暖房機能にも対策が盛り込まれている。極端な電気消耗の原因になっているヒーターも、極力使用しなくても済むようにステアリングヒーターやシートヒーターが標準設定されている。それはリヤシートにまで及んでいるばかりか、車内全体を温めるのではなく、パッセンジャーだけを包み込むように保温するという。電力の節約は徹底しているのである。

そういつた一連の作り込みから想像できるのは、あからさまなBEV感を強調するのではなく、むしろ抑えることで内燃機関からの移行をしやすくしている姿勢である。
暖房の件、バッテリー劣化の件、加速フィール、操縦性……。すべてが「自然」をキーワードに開発されているのである。プロトタイプゆえにまだまだ熟成が甘い点がある。だが、そんなネガが払拭されたのちには、後発だったからこその熟成期間がメリットになる。
