この記事をまとめると
■新車の開発には、一説では総額で1000億円の費用がかかるとされている■高速化や安全対策の強化で試験のコストが上昇し、結果として新車価格は高くなる
■野放図な高性能の追求よりも程よい性能を永く使うクルマ利用の考え方も今後は求められる
開発費の増大が新車価格の上昇をもたらしている
新車開発の総額は約1000億円、新車開発での試作車には1台数億円の費用がかかるとされている。だが、自動車メーカーはいずれも明言しないので、実態はわからない。
もし1000億円の投資があったとすれば、販売価格300万円の新車を33万台以上売って、ようやく投資分は回収できる。
1台で数億円するといわれる試作車は、操縦安定性や乗り心地の確認のため実走行するために必要なだけでなく、衝突実験も行い、安全性が確認される。したがって、試作車を使った開発に依存すると、開発費がいくらあっても足りないことになる。

近年、新車価格が上昇傾向であるのも、衝突安全性能が星の数で評価され、満点を得るにはさまざまな安全装備を装着しなければならない。その効果を実験で評価するので、試作車の数が増加傾向にあるのも事実だろう。
コンピュータシミュレーションも積極活用されている
もちろん、クルマは安全でなければならない。だが、無暗な高速化や安全対策の強化は、新車価格を引き上げることにもつながっていく。
漫然と安全性を考えるのではなく、優先順位を明らかにすることも大切だ。運転支援機能をいっそう高め、もしもぶつからないクルマが完成すれば、衝突安全のための試験や衝突時の人命保護のための装備を減らすことができるかもしれない。しかし、絶対的な安全を本当に確保できるのかという確証はまだない。

もうひとつは、試作車の数を減らしても、より性能が高くより安全なクルマを開発できるように、コンピュータシミュレーションを積極活用することだ。

一方で、たとえば窓ガラスへの内装の映り込みによる前方視界の不良、ドアミラーへの映り込みが後方確認の邪魔になるといった不都合も生じている。コンピュータのなかでは窓への映り込みを十分に検証できていないためだ。
映り込みは、陽の差す時間や方角によって変わるので、それをすべてコンピュータで検証することがどこまでできるのかはまだわからない。しかし、それを実現しなければ、映り込みによって運転者が状況を見誤ったり、映り込みによって車載カメラが誤作動して運転支援が正しく行われなかったりなどの弊害が出る懸念が残る。

新車の登場が、より性能や機能を高め、また安全になっていくことは消費者の期待だが、そのために膨大な開発費がかかっていることも事実であり、野放図な高性能の追求より、程よい性能を長く使うクルマ利用の考え方も今後は求められるのではないだろうか。