この記事をまとめると
■発売前の新型車が幾何学模様のラッピングで走行することがある■かつてはデザインがばれないようにテストをするためだった
■現在は別の意味で偽装することも多い
怪しさを演出して発売前の話題作りにすることも
発売前の車両が、唐草模様などのラッピングを施して、公道でテスト走行することがある。開発者によると「乗り心地やロードノイズ(路面の上をタイヤが転がる時に発する騒音)など、テストコースではわからないこともある」とのことで、自動車臨時運行許可番号標(仮ナンバー)を装着して、公道を走る。
このときに行われるのが外観の偽装だ。

ラッピングによる偽装は、錯覚を誘発することが目的だから相当に目立つ。N-ONE、N-BOX、CX-5のように、フルモデルチェンジを行っても外観の変化が小さな車種は、ラッピングによる偽装などをしないほうがむしろ目立たない。

つまりラッピングによる偽装には、発売前に話題性を盛り上げるティザーキャンペーンの役割もある。今はSNSも普及しているから「怪しいクルマ発見!これは次期○○か?」などと拡散してもらえれば、発売前の関心も高まる。要は一石二鳥だ。

いまは隠すほど変化の大きいモデルチェンジ自体が減った
唐草模様のテストカーが走るのは、発売が迫った開発の最終段階になる。最近は発売の数カ月前に予約受注を開始する事情もあり、仮に偽装を見て本当の外観が想像されても、その直後には販売店で概要が公表される。
この典型が「東京オートサロン2022」に出品された「シビックタイプRプロトタイプ」だろう。シビックタイプRは、シビックの派生モデルだから、本来なら偽装を施す必要もない。敢えて偽装を行って注目度を高めた。そこで偽装にも、歴代シビックタイプRのシルエットを散りばめている。話題性を狙った。

ちなみに外観がフルモデルチェンジのたびにカッコ良くなった1960年代から1980年代までは、クルマのデザインは秘匿中の秘匿事項だ。外観デザインを巡って、いわゆる産業スパイが暗躍したこともある。自動車雑誌が印刷会社からカタログの色校正紙を手に入れて、スクープとして掲載したところ、メーカーが窃盗事件として刑事告訴したこともあった。編集部も盗品故買の容疑で捜査を受けている。

このような時代に比べると、今はクルマのデザインが安定成長期に入り、変化が乏しくなった。新型ヴォクシーのフロントマスクは少々奇抜だが、驚くほどではないだろう。
