この記事をまとめると
■2022年はBMW M社にとって創業50周年にあたる記念イヤー■その使命はモータースポーツでの活躍によるBMW市販車の販促で、その結果、3.0CSLを生み出した
■BMW Mチューニングしたエンジンの回転フィールの緻密さ・重厚さの感触はハンパない
モータースポーツの側からBMWを支えるために誕生したBMW M社
エンジン車はEVにとって代わられるべし的な、一方的で粗っぽい論調の目立つ昨今だが、「未来感」の過剰消費が青田買いに酔う前に、ふり返っておきたい節目がある。2022年の今年は、BMWモータースポーツGmbHこと「BMW M」のブランド創立50周年記念イヤーだ。
「BMW Motorsport GmbH」がBMWのレース活動を一手に担う専業部門として別会社化されたのは1972年5月のこと。

それが「バイエルンのエンジン工場(BMWのこと)」の名にかけて、モータースポーツ専科をしばしば略して「M」とか「M社」と呼ばれる会社組織を立ち上げたのだから、その経営判断の凄まじいアグレッシブさがうかがえる。今日もライバルたるメルセデス・ベンツは1960年代末からAMGを擁していたとはいえ、あくまで公認の立場で、モータースポーツ部門の別会社として直轄化されるのは1999年のこと。クワトロGmbHことアウディ・スポーツの前身が形づくられたのは1980年代以降だから、いかにBMWとM社が先進的だったか。
1970年代よりBMWは2リッターの市販エンジンで争われていた欧州F2で圧倒的な強さを発揮し始めていたが、M社ことBMWモータースポーツGmbHの使命は、エンジン・サプライヤーとして実績を積むのではなく、モータースポーツの側からBMWの市販モデルを推進することだった。
その最初の成功例が、1973年の欧州ツーリングカー選手権のために開発され、年間タイトルを獲ったBMW3.0CSLだ。CSLとは「Coupé Sport Leichtbau(クーペ・シュポルト・ライヒトバウ、軽量構造のスポーツクーペの意)」のこと。開発には2002ターボ時代からの盟友、アルピナもがっつり手を貸していた。

「バットモービル」とアダ名された、シャークノーズにフロントフェンダー上の整流フィン、そして巨大なウィングをまとった3.0CSLの姿形が、「ライヒトバウ」という呪文めいたドイツ語の響きとともに、いきなり現れたインパクトとはどのようなものだったか。

まだ60年代風のクロームバンパーと丸っこいボディラインが支配的だった昭和40年代末に、想像してみて欲しい。それは走るモダン建築のような、しかもバカッ速物件だった。濃い目サングラスにパンチパーマといった昭和のお洒落兄さんたちが、「おっ、ベンベーだ! ベンベーだ!」と、BMWとすれ違うたびに騒いでいたのは、そういう原体験があったのだ。
いまや社名の「M」を冠するモデルは高性能モデルの証に
バイエルン特有の無駄のない機能美エアロ・シルエットは、おそらく日本では族車カルチャーに影響を与えたが、欧州では美術品オークションの運営に携わっていたクルマ好きの手引きにより、アレクサンダー・カーダーやロイ・リキテンシュタイン、アンディ・ウォーホルら現代アートの巨匠たちのキャンバスになった。それが1975年に3.0CSLから始まり、後にM1プロカー、M3GT2へと受け継がれていく「アートカー」だ。

「速さ」と「美しさ」をただ両立させるだけでなく、今の時代にふさわしいそれらとは何か、乗り手に問いかけてくるようなBMWイズムはかくして確立された。
いずれBMW Mは、数々の偉業を達成してきただけでなく、他メーカーに先んじて早々に達成してきたことに確かな実績をもつ。たとえば欧州F2のコンストラクターズ・タイトルで圧倒的な強さは後にホンダに譲ったが、プロトタイプからGT規定に戻されて早々のル・マン24時間を既存の市販V12が制するなど、その優位性をことあるごとに示してきた。
排気量1リッターあたり100馬力を達成した3.2リッター321馬力のストレート6ことS50B32を積んだE36のM3やZ3 M、あるいは挟み角90度V10の5リッターで507馬力を達成したE60/E61世代のM5などは、BMW Mの金字塔にふさわしい市販モデルといえる。

ところでMテクによるエンジンの何が凄いかといえば、じつはロングストロークであることが多く、高回転までカイイイイーンとブンまわってパワーを稼ぐショートストロークやスクエアのエンジンとは、まるで感触が異なる。
むしろレッドゾーンはだいたい7000rpm半ばぐらいのものだが、パワーバンドに入ってからはピストンスピードの速さそのものでパワーを絞り出すような力強さで、それに伴われる緻密さ・重厚さの感触がハンパない。

ちなみにi3で市販EVをドイツ車として先駆けたBMWは、その名が示す通り、気筒内での燃焼爆発によるものか電気によるものか、方式の如何に関わらず、「モーター」に前のめりな作り手であり続けているのだ。