この記事をまとめると
ホンダはミニバンの3列目シートに床下格納式を採用している



■「カッコよくできない」というデザイナーに対して「シートを隠す」と約束して実現



■床下格納式3列目シートでスッキリとした室内空間と大容量ワゴン化を実現している



ホンダがミニバンでこだわる床下格納式3列目シート

2022年5月に発売された6代目となる新型ステップワゴン。わくわくゲートの廃止や2列目キャプテンシートの中寄せ&ロングスライド機構、オットマン、パワーテールゲートの装備、徹底した静粛性対策など、ハイライトは数多いのだが、ライバルのノア&ヴォクシーやセレナとの大きな違いのひとつが、3列目席の格納方式。



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ライバルが依然として左右跳ね上げ式なのに対して、ホンダは床下格納式を貫いている(フリードを除く)。

左右跳ね上げ式にはラゲッジスペースの床下に収納が設けられるメリットがあり、しかし床下収納式は3列目席格納時のスッキリとした拡大ラゲッジスペースの確保にメリットがある。



「カッコよくしてやる」初代オデッセイ開発者の意地が炸裂! ホンダのミニバンが「3列目席の床下収納」を続けるワケ



では、ホンダのミニバンはどうして3列目席床下収納にこだわるのか? その秘密は、初代ステップワゴンが登場した1996年から遡ること2年。ホンダクリエイティブムーバー第一弾として1994年にデビューし、一世を風靡した初代オデッセイに隠されている。



「カッコよくしてやる」初代オデッセイ開発者の意地が炸裂! ホンダのミニバンが「3列目席の床下収納」を続けるワケ



初代オデッセイの開発において、デザイナーは「こんなシートだらけのクルマ、カッコよくなんかできるか」と発言したそうだ。たしかに車内はシートだらけ。しかし、開発責任者のひとことで、それは解決されることになる。「だったらシートを隠してやるよ」と。



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当時のワンボックスカー(ミニバンもそう呼んでいた)の3列目席は跳ね上げ式の収納が当たり前。それでは、3列目席を使わないシーンでも、車内の3列目席の存在が目立ってしまう。格納操作は重く、斜め後ろの視界だって犠牲になる。



ならば、「3列目席を目立たないように格納するには床下にしまうしかない」となる。ところが、開発時点のシャシーの3列目席をしまう場所には太いフレームが貫通していたのだ。

そこで開発責任者は「シートを収納したいから、フレームを曲げてくれないか」と開発チームにお願いしたそうだ。



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フレームは後面衝突性能をクリアするために強く作らなければならない。そこをシートの収納のために曲げるという発想は前例がなく、設計の全面やり直しを意味していたという。当然、当初は開発チームとしては却下。が、それを一晩かけて説得してくれた人物(LPL代行)がいたそうだ。



こうして、初代オデッセイの特徴だった、背もたれを前に倒して、座面ごと後ろに回転させ、ひっくり返すだけで、真っ平なラゲッジスペースに早変わりさせられる、その後のステップワゴンにも引き継がれる3列目席の床下格納方式が誕生したのであった。



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※画像は5代目オデッセイ



筆者も2代目オデッセイV6アブソルートに10年間乗っていたが、家族の増減、大型犬を家族に迎え入れたタイミングなどで、3列目席の格納方法、そして大容量ワゴンに変身させられるシートアレンジ性に大いに満足していたのである。



格納時のスッキリとした車内と広い空間の実現がメリット

さて、新型ステップワゴンである。これまでも3列目席の格納方式は床下格納を貫いてきたわけだが、改めて6代目もなぜ、床下格納式を採用したのか、開発陣に聞いてみた。その解答は明快だ。「6代目は2列目席ロングスライド機構(標準スライド610mm。中寄せロングスライド865mm!)を備えているため、2列目席を一番後ろまでスライドさせた際に、少しでも気になるような空間づくりはしたくないと考えた結果、3列目席の床下格納方式を踏襲することにした」。



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なるほどである。ロングスライドと3列目席左右跳ね上げ式は、格納したシートの圧迫感、リヤクォーターウインドウ部分の抜け感という意味でも、うっとおしく感じられ、相性はよくなさそうだ。



そして、「ミニバンといっても、ユーザーが常時、3列目席まで使用したフル乗車をするわけではない。3列目席が不要な場面でラゲッジルームを拡大したり、2列目席をロングスライドさせた広々空間を味わう使い方もある。3列目席を使う人にも、3列目席を格納して使う人のどちらにも満足してもらえるトータルバランスにおいて、これまで通りの床下格納方式という選択をした」ということなのだそうだ。



「カッコよくしてやる」初代オデッセイ開発者の意地が炸裂! ホンダのミニバンが「3列目席の床下収納」を続けるワケ



ノア&ヴォクシーやセレナは床下収納を重視。一方、ステップワゴンやオデッセイは3列目席格納時でのスッキリとした室内空間、大容量ワゴン化を優先した、ということだろう。走りにこだわるホンダだけに、重い3列目席を床下収納することで、背の高いクルマの重心を下げる効果もあるかも知れない……(筆者の勝手な想像)。



「カッコよくしてやる」初代オデッセイ開発者の意地が炸裂! ホンダのミニバンが「3列目席の床下収納」を続けるワケ



オデッセイ、ステップワゴンが初代から3列目席床下格納方式を採用している理由がおわかりいただけたと思うが、まてよ、Sクラスミニバンのフリードだけ当てはまらない。そう、フリードの3列目席は左右跳ね上げ式なのである。



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が、その理由も分かりやすい。「フリードクラスの3列目席をラゲッジスペースの床下に格納しようとすると、リヤオーバーハングの拡大が避けられず、ホンダ独自のユーザー調査による全長目標値を超えてしまい、結果、ステップワゴンと変わらない骨格、全長になってしまうから」というわけだ。



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「フリードが選ばれる理由のひとつが5ナンバーサイズかつ取りまわし性のよさであり、3列目席の床下格納方式よりそちらを優先した」のである。ライバルのSクラスミニバンの3列目席格納は左右跳ね上げ式ではないものの、2列目席下に滑り込ませる方式であり、その特殊な格納方法に至ったのは同様の理由によるものだと推測できる。



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そう、ホンダの元祖クリエイティブムーバーの発想は、初代オデッセイ以来、6代目ステップワゴンにも見事に貫かれているのである。

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