この記事をまとめると
■同一車種であってもボディタイプの違いによって走りの質が変わる



■車体が3つの区画に仕切られているセダンは理想的なレイアウトのひとつといえる



■ハッチバックやワゴンはセダンに比べてボディ剛性が圧倒的に低下することが多い



走りに高い質感を求めるのならセダンが優れる

同一車種でもセダンやハッチバック(HB)、ステーションワゴンなど、さまざまなボディバリエーションを持つモデルが沢山ある。ハイパフォーマンススーパーカーであれば、2ドアの単一ボディで走りを突き詰めて仕上げるのが一般的だが、大衆乗用モデルでは実用性能を高め、さまざまなニーズに応えるため、同じプラットフォームで車体形式を変更してバリエーションを展開しているのだ。



現行モデルで見ると、たとえばトヨタ・カローラには4ドアセダンモデルと4ドアHBのスポーツ、4ドアワゴンのツーリング、さらにSUVのクロスなど4タイプの車体が用意されている。

ユーザーが用途に応じて、よりニーズに適した選択ができるラインアップとしているのだ。



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では実用性だけでなく、走りの性能を求めるユーザーならどんなタイプのモデルを選択すべきか。それにはボディタイプが走りにどのような影響を与えるか知っておくといい。



4ドアセダンボディは俗に3ボックス車と呼ばれる。車体がエンジンルーム、キャビン、荷室(トランク)と3つの区画に仕切られている。近年はセダン人気が衰退傾向にあるが、本質的には扱い易く、理想的なレイアウトのひとつといえる。



同じ車種なのに走りが違うってホント!? セダン・ワゴン・ハッチバックの特性をレーシングドライバーが解説



セダン車の多くは、エンジンルームとキャビンを仕切る頑丈な隔壁があり、また荷室とキャビンも構造的に仕切られているので、前後2箇所にバルクヘッド(隔壁)構造を持ち車体剛性が高い。荷物とキャビンが完全分離できるので、積載物の影響を乗員が受けにくいのも美点だ。しかし、最近のセダン車の中には後部隔壁を省き、トランクスルー化して荷物の積載性を高めてワゴン並みの積載量を確保しているモデルもある。



セダンで走りを求める場合は、後席シートバックが倒れてトランクスルーになるか否か、またキャビンと荷室を仕切る部分に捻り剛性を高めるブレースが配置されているかを確認するといい。ブレースが入っている場合はトランクスルー化できず荷物積載性は限られるが、走り味は期待できる。また、トランクスルーを備えていても、アルミ鋳造などの構造材で左右サスペンションピックアップ部を繋ぎ、剛性を高めている例もある。



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BMWメルセデス・ベンツなど、欧州プレミアムブランドのセダンはコストの高いこうした手法を用いて荷物積載性と走りの両立を図っているのだ。



ハッチバックとワゴンはボディ剛性が低下しがち

HBボディ車はどうだろうか? HB車の多くはエンジンとキャビンのふたつに分け2ボックス車と呼ばれる。キャビン後席後ろを荷室スペースとして確保し、リヤハッチバックドアとして荷室の実用性を向上させている。



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2ボックスは、古くはイギリスのミニクーパーが採用し、HBとしてはVWが初代ゴルフに採用して「ホットハッチ」と呼ばれるカテゴリーを確立した。国産車もカローラやホンダ・シビック、マツダ・ファミリアなど2~4ドアのHBを多くラインアップし一世を風靡したものだ。



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HB車の場合、リヤのバルクヘッドが省かれ、またHBゲートで車体後部が大きく開口するため、ボディ剛性が圧倒的に低下する。だが、セダンに比べて軽く作れることから運動性能が高まり、走りの質感は落ちるが速さが売り、というキャラクター付けが可能だった。しかし、軽いとはいえセダンに対して前後重量配分は相当悪く、ハンドリング的に満足できるモデルは多くなかった。



ワゴンボディはというと、もともとは商用車として重宝されたバンを乗用にアップグレードしたのが始まりだったことから、走りのよさを謳われることはほとんどなかっただろう。基本的にはエンジンルームとキャビン+荷室の2ボックス構造であり、窓やリヤゲートなど開口部が多く、ボディ剛性が低くなってしまう。また、荷室容量を拡大するためルーフが車体後部まで延長されていて、重くて重心も高くなってしまう。



同じ車種なのに走りが違うってホント!? セダン・ワゴン・ハッチバックの特性をレーシングドライバーが解説



走りに関しては、有効な要素がなさそうなワゴンボディなのだが、じつはハンドリング的にもっとも優れたものとして完成させられた例がいくつかある。

たとえば三菱ランサー・エボリューションワゴン(エボワゴン)だ。エボワゴンはランエボVIII(CT9)の世代で追加されたのだが、そのハンドリングは通常のランエボVIIIセダンを上まわっていた。



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セダンは電子制御のACD(アクティブセンターデファレンシャル)やAYC(アクティブヨーコントロール)を駆使し、4WDながらオンロードを速く走れるスポーツモデルとして仕上げていた。しかし、エボワゴンはAYCを与えられなくても自由自在のハンドリングを示していたのだ。いまでもエボワゴンを上まわるハンドリングの4WDは存在しないといっても過言ではないほど、その走りは秀逸だった。



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車体剛性不足もリヤサスペンション取り付け点剛性を高めることで確保。じつは荷室を横切る位置にストラットバーを取り付ける策も講じられたが、それを外してもハンドリングの良さは影響を受けなかった。分析結果として、ワゴン化することで前後重量配分が最適化でき、リヤサスペンションが高い接地性を確保できたことがもっとも好影響していた。そのことから、後に続くランエボXでは、エボワゴン並みの前後重量配分を実現すべくデザインされ、重いバッテリーをリヤトランク内アクスル上に配置するなどの策が講じられたが、それでもエボワゴンの前後重量配分には及ばなかった。



フロントエンジン横置きFFベース車では前後重量配分が悪いので、ワゴンボディを乗せることでハンドリングも改善されるという事象が起こることが認知されたのだ。



近年でもメルセデスAMG A 45(35)には、セダン、HB、シューティングブレークの3タイプのボディをラインアップしていて、速さのHBをシューティングブレークがハンドリングと空力で上まわる走りの好特性を見せているのだ。

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