“日常”を一瞬にして覆してしまう災害。常識が通用しなくなる非常事態下では、普段何気なくやっているちょっとした行為が身の危険を引き寄せてしまうことも。

「パンツはトランクスタイプを履く」など、女性の視点から防災アドバイスを発信し続けている岡部梨恵子(おかべ・りえこ)さんに、非常時に女性が陥りがちな「心理のワナ」について聞きました。
 

“屈強な男性”を頼ってはダメ

──女性が身を守るために、一番大切なことは何でしょう? 

岡部梨恵子さん(以下、岡部):とにかく、ひとつだけ覚えておいてほしいのは、「自分の判断や五感を信じること」です。そして、少しでも危ないと感じたら、周囲の人がどう言おうと迷わず逃げるようにしてください。

被災したとき、ガタイのいい男性がそばにいたとしましょう。普段なら「ガタイがいい」という理由だけで、その人を信じたりはしませんよね? ところが、被災後の非常事態では、「男性である」「体が大きい」というだけで頼ってしまうことがよくあります。

「私、力が強くないし。

どうしていいかわからないし」と男性から指示を待つポジションに回ってしまう女性も少なくありません。普段はバリバリ仕事をしていて判断力のあるしっかりした女性でも、非常時には、根拠なく屈強な男性に従ってしまうことがままあります。

9.11の生存者に共通する思考パターンとは

緊急時は、判断を他人に任せてはいけません。緊急時こそ、自分で判断すべきなんです。ちょっとの判断の差で命を失うことはよくありますから。思考停止して人に頼りたくなる気持ちはわかりますが、その発想のせいで命が危機にさらされる可能性は高まります。

──実際にそういう例はよくあるのでしょうか?

 岡部:そうですね、例えば9・11のアメリカ同時多発テロ事件のとき。崩壊した世界貿易センタービルには、飛行機が激突した時点で2パターンの人がいたそうです。「まわりも座ったままだし、大丈夫、大丈夫」とそのまま仕事を続けた人と、「いやいや、これはヤバい!」と必死に非常階段を駆け降りた人。助かったのは、後者だけです。
 
今、逃げるべきか、留まるべきか。判断基準は自分の五感しかありません。

マッチョな男性が何を言おうと、惑わされない、頼らない。五感をフルに働かせて、自分で決めるようにしてください。

女性は「まわりを見て動く生き物」

──でも、非常事態こそ、ついつい多数派に流されてしまいそうです……。
 
岡部:そうですよね。でも、ちょっと考えてみてください。家にひとりきりでいて何か起きたら、否応なく自分で判断しますよね? 警報が鳴ったら、「ヤバい!」と感じてすぐさま火元を確認するでしょう。

ところが、大勢でいると、「みんながいるから大丈夫」「自分で確認しなくても、何かあれば知らせてくれるはず」と安心してしまいがちです。

人数が多ければ多いほど、他人の行動に左右されてしまうもの。もともと女性は、周囲の人の動きを見ながら、同じ動きをとろうとする生き物です。まわりの様子をうかがっているうちに、逃げるタイミングを逸してしまうことはよくあります。

こういう非常事態の心理を知っているだけでも、大きなプラスとなります。いざというときに一呼吸置いて考えられるようになりますから。


 

被災直後以外は、集団の方が安全

──ということは、命を守るには大勢と一緒にいない方がいいのでしょうか?
 
岡部:「自分ひとりで判断し、行動した方がいい」のは、被災直後に限った話です。例えば、今回の熊本地震のように余震が収まり、“非日常”がだんだん当たり前になってくると、逆に集団で動いている方が安全です。

特に女性の場合、災害発生から時間が経つと、レイプのような性犯罪に巻き込まれる可能性が高くなるので、絶対にひとりで行動しないこと。避難所で生活していても、運よく自宅に帰れても、身を守るために自警団のようなものを作りあげるといいですね。

とはいえ、「さあ、作りましょう」と言ってもなかなか信頼できるチームは作れません。普段から隣近所とコミュニケーションをとるようにしておくと、いざというときにも、スムーズにお互いを守れるようになります。

緊急時には、「男性である」「ガタイがいい」ということが大きな意味を持つようになります。結果として、女性は身の危険にさらされることも少なくありません。女性のための「防災アドバイス」を取り入れて、もしものときに備えておきましょう。

【第一回】警察不在、見過ごされるレイプ 女性は避難所でピンクを身につけてはダメ
【第二回】 避難所では、女性でもトランクスタイプの下着がオススメ しめつけなく、防犯対策にも

(有山千春)