被害者数約7万3000人、被害金額約4200億円にのぼる「安愚楽(あぐら)牧場」事件で、被害者らが国に対し約65億円の損害賠償を求めた国家賠償請求訴訟の判決が5月26日、東京地裁で言い渡された。判決は、原告らの請求をすべて棄却した。

問題になった「和牛オーナー制度」とは

安愚楽牧場は、和牛の繁殖牛をオーナーに販売し、飼養委託料と引き換えに年3~9パーセントの利益金を支払うとうたった「和牛預託オーナー制度」を1981年から30年にわたり展開していた事業者。
「和牛預託オーナー制度」ではオーナーは安愚楽牧場から黒毛和種の繁殖牛を1頭単位、または共有持分(2分の1頭、4分の1頭など)で購入し、同時にその牛の飼育を安愚楽牧場に委託。
購入代金と飼養委託料は契約時に一括払いで、契約期間中は、その牛が産んだ子牛の売却益として毎年購入価格の3~9パーセントが配当され、契約期間満了時には安愚楽牧場が購入価格と同額で買い戻す――。「実質的な元本保証で年3~9パーセントの利回り」をうたうこの設計が、超低金利時代に個人投資家を引きつけた。
2011年7月19日には「肥育牛売買コース」と銘打ち、48万円で買った肉牛を半年後に52万円で買い取ってもらえるという、年利換算で約16.6パーセントの新コースまで募集していたが、その13日後の8月1日、同社は全オーナーへの一斉通知で支払不能を公表。同年12月9日に破産手続開始決定を受けた。
破綻後、繁殖牛の実頭数がオーナー契約頭数を大きく下回っていた事実が判明。破産管財人が依頼した監査法人トーマツの調査報告書によれば、肥育牛の販売価格が170万円を超えなければオーナーへの配当を賄えない一方、過去10年間で114万円を上回った年度は一度もなかったという。

「ギリギリ国を救済する判決」

原告側は訴状で、監督官庁である農林水産省および消費者庁が預託法(特定商品等の預託等取引契約に関する法律)に基づく規制権限を行使しなかった点について、違法だと主張。
訴訟での争点は、2009年1月から農林水産省が安愚楽牧場に対し実施した立入検査の評価だった。
弁護団の東耕三弁護士によると、検査を担当した農林水産省職員は、安愚楽牧場に対し繁殖牛の頭数に関する資料の提出を求めたものの、同社から「直ちには出せない」と拒否されると、それ以上の追及をせず、証人尋問では、もう一人の担当職員が「再度の提出要求を忘れていたのではないか」と証言している。
判決は、立入検査後の2009年3月末以降、国は安愚楽牧場の繁殖牛の頭数不足を「認識し得た」と認定。検査の実施状況についても「その目的を徹底したものではない」と判断。
しかし最終的には、検査の実施状況は「不合理であったとまではいえず」、繁殖牛の頭数不足の事実認定が「容易であったとはいえない」として、預託法7条1項に基づく規制権限を行使しなかったことが「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとまではいえない」と結論づけた。

東弁護士は「判決を読んでいると、このままだと原告有利になるのではないかという表現が出てくるが、ギリギリ国を救済する判決だ」と評した。

「投資の被害者は世間から同情されない」

会見には被害者の会の川口瑞夫代表も出席。「私が被害者の会の代表でここで話ができるのは、私が比較的若くて被害が軽いからです。被害が重い方は、裁判に関わる時間も気力も余裕もない」と述べ、投資被害者を取り巻く実情について次のように語った。
「投資の被害者は世間から同情されません。さらに、世間より厳しいのは家族や親戚だったりします。『お前はなんてバカなことをしたんだ。家族の恥だから、このことは誰にも言うな』と言われている方もいます。
私たち被害者は、農水省の立入検査や指導がいい加減だったとは思っていません。むしろ逆です。彼らは安愚楽牧場に問題があることにうすうす気付いていたのではないか。その上で、あえてそれが表に出ないような検査をより周到に計画してやったのではないかと思っています。
われわれ被害者は安愚楽牧場から『和牛オーナー商法は預託法に基づいて運営されている。
農水省の指導を受けている』と説明されてきました。だとするなら、私たち被害者は安愚楽牧場だけでなく、預託法という法律にも騙されたのではないか。その思いがどうしても拭いきれません」(川口代表)

12年かかった理由は「情報開示の遅れ」

提訴は2014年5月。判決まで12年が経過した。弁護団の紀藤正樹弁護士は「(訴訟が長期化した)最大の理由は、国側が当事者に対する預託業務の報告書や経理検査の内容について具体的な証拠を開示しなかったこと」と説明。情報公開訴訟5件、文書提出命令4件を経て、ようやく証拠を踏まえた審理が行えるようになったと明かした。
預託法は2021年6月に改正され、2022年6月1日の施行以降、安愚楽牧場と同種の販売預託商法は原則として禁止された。改正後、例外として確認を受けた事業者は1社も存在しない。
紀藤弁護士は「政府は預託商法を規制したのだから、過去に起きた預託商法被害に対しても何らかの救済策を提示してほしい」と訴えた。
「控訴をせずとも解決してほしいというのが本当の願いです。被害者がどんどん亡くなっていく。判決前のこの1、2か月の間にも『もう余生をゆっくり過ごしたいので裁判を取り下げてほしい』と申し出る被害者が数人いた。
それぐらい被害者は疲弊している」(紀藤弁護士)


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