転職市場で採用難度が上がり続ける中、採用手法の見直しを検討している企業も多いのではないでしょうか。求人広告や人材紹介サービス、ハローワークといった既存手法に加え、近年ではダイレクト・ソーシングなどの新たな手法を取り入れる企業が増えています。
そこで今回は都道府県別・職種別に、中途採用で実際に活用されている手法を一斉調査。40億件以上の求人ビッグデータを保有し、「HRogチャート」や「HRogマップ」などの求人データ分析ツールを提供する株式会社フロッグの協力を得て、採用手法の最新事情に迫ります。
「主要都市と地方」「職種別」で読み解く採用手法トレンド
——はじめに、今回ご紹介いただいた調査データの内容について教えてください。秋元氏:当社では、日本中の求人サイトや人材紹介サービス、ハローワークで公開されているデータをクローリングし、累計40億件以上の求人ビッグデータを保有しています。
今回の調査では、2023年6月から2024年6月までの1年間に募集された正社員・契約社員募集の求人に絞り込んで75媒体を調査し、求人広告のみならず人材紹介サービスやハローワークの公開データも集計。「都道府県別」「職種別」の各パターンで、活用されている採用手法をまとめました。
——調査結果からどのような傾向が見えてきましたか?秋元氏:都道府県別に見ると、東京をはじめとした主要都市とその他の地域では傾向が大きく異なる印象です。

たとえば東京では人材紹介サービスの活用割合が一番多い一方で、ハローワークを活用している企業の割合が少ないのですが、地方ではこれが逆転するところもあります。たとえば島根県は、ハローワークの利用率が全国で最も高く、44%に上っています。
菊池氏:東京と地方で傾向が分かれるのは、採用系サービスの営業アプローチの濃淡も影響しているのではないでしょうか。採用系サービスの大手各社は、企業の本社が多い東京などの首都圏や地方大都市を中心とした営業戦略を取っており、全都道府県に営業所があるわけではありません。

秋元氏:営業やITエンジニア、クリエイティブなどのホワイトカラー系職種と、電子・機械・建設などの専門技術職では、人材紹介サービスの割合が大きいですね。採用難度の高い募集案件が多く、人材紹介サービスのマッチング精度の高さが求められているのだと思います。
求人広告についてはどの職種でも活用されていますが、運輸・物流では顕著に割合が大きいです。人手不足が深刻化し大量採用が求められていること、未経験者も対象とした募集が多いことなどが要因だと考えられます。
菊池氏:ITエンジニアやクリエイティブ系では「その他」も目立ちますね。ここにはスカウトサービスも多く含まれているのだと思います。明確な要件定義に基づいて特定のスキルを保有する方を求めることが多い職種であり、採用難易度が高く、新しい採用手法を取り入れることが多い領域でもありますから。
地方では「相談相手がいなくなる」可能性も。問われる自社採用力
——調査対象となっている「人材紹介サービス」「求人広告」「ハローワーク」について、ここ数年の傾向の変化があればお聞かせください。
秋元氏:コロナ禍では地域や職種を問わず求人数が激減しました。
なお、コロナ禍ではハローワークの求人件数も減っていますが、コロナ禍明け以降の動きを見ると、ハローワークだけは求人数があまり伸びていません。ハローワーク以外の手法に移る企業が増えているのではないでしょうか。
菊池氏:特に顕著なのは人材紹介サービスの求人数の伸びですね。
ターニングポイントはやはりコロナ禍だと見ています。以前は足を運んで訪問しなければ営業できなかった企業も、リモートワークの導入と共にオンライン商談の機会が増え、全国・全世界へ営業できるようになって商圏が拡大しました。人材紹介サービスの多くは成功報酬型で、イニシャルコストがかからないことから、これまでハローワークだけで募集していた企業でも導入しやすかったのだと思います。
秋元氏:転職希望者にも人材紹介サービスが浸透しましたよね。近年では新卒を対象とした人材紹介サービスも一般的になり、「キャリアのことで悩んだら人材紹介サービスへ相談する」ことが当たり前になりました。こうした変化も人材紹介サービスの求人数の伸びにつながっていると考えています。
——求人広告についてはいかがでしょうか。秋元氏:大きく減っていません。求人広告は長い歴史を持つ採用手法であり、全国各地に求人媒体が存在しています。この強みはやはり大きいのではないでしょうか。

菊池氏:地域ごとに、地元に根ざした紙媒体が流通しているのも求人広告の特長です。ただ近年では地方媒体も紙からネットへの転換が徐々に進んでおり、媒体そのものが廃刊や休刊になるケースも出てきています。
この流れは今後も進むはず。地方での募集は、これまでのような「地元媒体に任せればOK」の状態ではなくなっていく可能性が高いです。求人媒体がなくなることで、地域によっては気軽に採用について相談できる相手がいなくなってしまうかもしれません。自社独自の取り組みで、いかに採用力を高めていくか。この課題は地方企業にも突きつけられるようになるでしょう。
採用戦略を立てる上で重要なのは「採用競合の動き」を把握すること
——今回の調査対象には含まれていませんが、近年ではダイレクト・ソーシングに取り組む企業も増えています。どのような変化を感じますか?秋元氏:大手各社のダイレクトスカウト系サービスを追いかけていますが、公開情報だけを見ても求人数は大きく伸びています。これまでのように外部サービスに依頼して待つだけでなく、自社から転職希望者へ直接アプローチする手法が必要だと考える企業が増えていることは間違いないと思います。
菊池氏:先ほどの自社採用力強化の議論にもつながりますね。人材紹介サービスや求人広告は外部へ任せきりでも運用できますが、ダイレクト・ソーシングは自社で動かなければ転職希望者と出会えません。採用リテラシーの向上を重要課題に置く企業も増えていくはずです。

菊池氏:採用戦略を立てる上で、データが全てだとは思いませんが、補足的に見ておく必要はあると考えています。重要なのは周囲の変化に敏感であること。転職市場や採用競合の動きにアンテナを張っておかないと、「気付けば自社だけが低い給与のまま」など、悪い意味でガラパゴス化が進んでいくかもしれません。
秋元氏:私たちの元には、「特定の採用競合がどんな採用手法で動いているのか、どのように条件を強化しているのかを知りたい」といった調査依頼が寄せられることもあります。似た職種で募集する採用競合が自社よりも高い給与を提示していて、その差を埋めることができないのであれば、事業の仕組みそのものから見直すことも必要かもしれません。大きなデータを見て分析することも大切ですが、その前に採用競合の動きへの感度を高め、興味を持ってウォッチしてみることをお勧めしたいですね。
データ提供:株式会社フロッグ
取材後記
人材紹介サービスや求人広告は、形を変えつつも主要な採用手法として活用されていくと感じました。
企画・編集/田村裕美(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也