中堅ゼネコン(総合建設業)のナカノフドー建設は社名が示すように、2つの建設会社の流れをくむ。旧ナカノコーポレーションが旧不動建設の建築事業を買収し、ナカノフドー建設として再出発したのは2004年。
長野県飯田市のトライネットを子会社化
ナカノフドー建設は3月3日、建設会社や不動産会社など5社を傘下に持つトライネットホールディングス(長野県飯田市)の株式99.79%を取得し、同日付で子会社化したと発表した。2023年3月期を初年度とする3カ年の中期経営計画(2022年4月~2025年3月)で重点施策の一つに土木事業の拡大を掲げており、その手立てとしてM&Aをかねて検討していた。取得金額は非公表。
トライネットグループは、トライネット(売上高19億5000万円)、パテック(同4億5300万円)、創力(同1億1400万円)の土木工事3社、土地販売のトライネット不動産(同1400万円)、リフォーム工事の住まいる工房(同2億5000万円)で構成し、いずれも飯田市に本社を置く。中核会社のトライネットは1949年設立で、グループの母体。2003年に持ち株会社制に移行し、トライネットホールディングスを発足した。
ナカノフドーは中期経営計画の中で、成長戦略の基本方針として国内建設事業、海外建設事業、非建設事業の基盤強化を打ち出している。現在、国内、海外を合わせて建設事業が全売上高の99%近くを占め、不動産など非建設事業は1%強に過ぎない。
国内建設事業では土木工事とリノベーション(建築物の耐震化、エコビル化など)工事の拡大を重点施策に位置付けている。ナカノフドーは事務所ビル、マンション、商業施設などの建築工事をメインとし、道路や護岸、宅地造成といった土木関連のウエートはわずか。今回、トライネットグループを傘下に取り込むことで、土木事業の拡大に弾みをけたい考えだ。
海外建設事業は400億円体制を実現へ
中期経営計画の初年度にあたる2023年3月期業績予想は売上高16%増の1120億円、営業利益30億円(前期は8億4000万円の赤字)、最終利益18億円(同15億9000万円の赤字)。前期は海外建設事業の業績悪化が響き、大幅赤字に陥ったが、赤字圏から1期限りで脱却する見込み。
中期経営計画では最終年度の2025年3月期に建設事業売上高として1200億円を目標とする。このうち海外建設事業は400億円体制(2023年3月期予想は約350億円)の実現を目指している。
ナカノフドーは1970年代半ばにシンガポールに子会社を設立し、本格的に海外建設事業に進出した。マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナムにも拠点網を広げ、工場建設を中心にオフィスビル、コンドミニアム(分譲集合住宅)、物流センターなどで実績を積んできた。
◎ナカノフドー建設の業績推移(単位は億円、△は赤字)
2020/3期21/3期22/3期23/3期予想売上高116911599641120営業利益4115△8.430最終利益293.3△1618経営危機下、「ナカノフドー建設」誕生
1990年代半ばから2000年代初めにかけて、バブル崩壊後の“建設動乱”の中で、準大手、中堅ゼネコンが次々に経営難に陥った。ナカノフドー建設も例外ではなかった。
当時の社名はナカノコーポレーション。2003年11月、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)、三菱信託銀行による総額133億円の金融支援(105億円の債務免除と28億円の優先株引き受け)と合わせ、西日本地区を地盤とする不動建設の建築事業の買収を発表した。資本増強によって債務超過転落を回避するとともに、不動建設の建築事業を取り込むことで年間400億円の増収効果を見込んだ。
ナカノコーポレーションは2004年4月に現在のナカノフドー建設に社名を変更した。長年安定した業績を堅持してきたが、2022年3月期の赤字転落は新生・ナカノフドーとしてスタートして以降、初めての経験だった。
一方、当時同じく経営難にあえいでいた不動建設はテトラポッド(波消しブロック)大手、テトラの傘下に入った後、両社合併により「不動テトラ」が2006年に誕生し、今日にいたる。
ナカノフドーの歴史は140年近い。
1933年に、当時中野組の支配人だった大島義愛が事業を継承し、中野組大島事務所(1942年に中野組に改組)として独立。戦後は建築事業を主軸に、関東一円を地盤として全国展開を進めた。1974年の米国進出を手始めに海外展開に乗り出したが、現在は米国から撤退し、東南アジア市場に的を絞っている。
次のM&Aのターゲットは?
すでに述べた通り、現行の中期経営計画では国内建設事業、海外建設事業と並んで非建設事業の強化を基本方針に打ち出している。その中身は賃貸を中心とする不動産事業と太陽光発電事業だが、全社に占めるウエートは1%余りに過ぎす、経営の柱とはほど遠い。
非建設事業の拡大に向けて、いかに新規分野を探索していくのか。その際、M&Aが有力な選択肢となるのは間違いなさそうだ。
◎ナカノフドー建設の沿革
年 主な出来事 1885 中野喜三郎が開業し、土木建築工事を手がける 1933 大島義愛が事業を継承し、中野組大島事務所として独立 1942 株式会社中野組に改組 1962 東証2部上場 1968 不動産事業に進出 1972 東証1部に指定替え 1975 シンガポールに子会社を設立し、東南アジア進出に着手 1991 ナカノコーポレーションに社名変更 2004 不動建設の建築事業を買収 2012 ベトナムに子会社を設立 2015 太陽光発電事業を開始 2022 東証スタンダード市場に移行 2023 3月、土木工事のトライネットホールディングス(長野県飯田市)を子会社化文:M&A Online編集部