
生産設備の制御システムが主力の横河電機<6841>が、1兆円企業に向けてM&Aにアクセルを踏み込んでいる。社会に貢献し影響力を高めていくためには存在感のある企業であることが必要との考えに基づき、2031年3月期に売上高1兆円の大台を目指しており、この目標を実現する方策の一つとしてM&Aを積極化しているのだ。
M&Aや連携に1000億円を投資
同社は2020年以降、M&Aの件数を増やしており、2022年3月期から2024年3月期までの3年間に6件の企業買収を実施した。
その後の3年間(2025年3月期~2027年3月期)は1000億円の投資枠(M&Aとアライアンス=連携)を設け、すでに2件のM&Aに踏み切った。
こうした取り組みで2025年3月期から2029年3月期までの5年間は毎年10%以上の増収を見込んでおり、増収率を10%で計算すると2029年3月期の売上高は8200億円ほどになる。
その2年後に1兆円企業の実現を目指す流れだが、1兆円に手が届く状況を作り出すにはこれからのM&Aが重要になる。同社はどのような戦略を描いているのだろうか。
3年間で6件の企業買収を実施
横河電機は1915年に、建築家で工学博士の横河民輔氏が東京で電気計器の研究所を設立したのが始まりで、1920年に横河電機製作所を設立。
その後1933年に航空計器、流量、温度、圧力などの自動調整装置の研究、製造を始め、1964年に工業用分析計市場に本格進出するなど、次第に業容を拡大していった。
最初のM&Aは1982年のオランダの Electrofact B.V.(現 Yokogawa Europe B.V.)の買収で、翌年の1983年には北辰電機製作所と合併し、社名を横河北辰電機に変更(1986年に現在の横河電機に社名を変更)した。
また同社の2008年以降の適時開示情報によると、6件のM&Aがあるものの、2016年に英国の石油コンサルティング会社のKBC Advanced Technologiesを買収したほかは、2008年の半導体検査装置のICハンドラ事業の譲渡をはじめ、2019年の樹脂型渦流量計事業の譲渡まで5件すべてが譲渡の案件となっている。
これが、2020年以降は状況が変わり、買収が増加する。同社が2024年5月に発表した2029年3月期を最終年とする5カ年の中期経営計画「Growth for Sustainability 2028」に、2021年4月から2024年3月まで3年間に6件の企業買収を実施したとの記載がある。
2021年はドイツのバイオプロセス分野向けにソフトウエアの開発やサービスを提供しているインシリコ バイオテクノロジーと、米国の電力系統、再生可能エネルギー電源向け高速制御ソフトウエア開発のパイス・エナジー・ソリューションズを買収。
2022年にはデンマークの廃棄物、バイオマス発電の効率改善ソリューションを提供するデュブリックス・テクノロジーと、シンガポールのITコンサルティング会社ボティバ・シンガポールを傘下に収めた。
さらに2023年は米国のポリマーやバイオ医薬品の業界向けにリアルタイム分析ソリューションを提供するスタートアップ企業のフルエンス・アナリティクスを、2024年はインドの流量計メーカーのアデプト・フルイダインをそれぞれ子会社化した。

対象はエネルギーや、DX、OTなど
これらM&Aは、2024年3月期を最終年とする3カ年の中期経営計画「Accelerate Growth 2023」の中にある、再生可能エネルギー分野でM&Aなどによって事業規模を2~3倍に拡大し、バイオ関連でもM&Aを実施し成長を牽引するとの方針に沿ったもので、同期間にはM&Aのほかにも9件の資本参加を実施している。
これら取り組みで、中期経営計画最終年の2024年3月期は、再生可能エネルギーの売上高が2021年3月期の1.5倍の59億円となり、バイオ関連の医薬・食品の売上高も2021年3月期の1.3倍の240億円となった。
ただ同社ではM&Aやアライアンスによるポートフォリオの充実にはまだ課題があるとして、新たな中期経営計画「Growth for Sustainability 2028」にもM&A戦略を盛り込み、2025年3月期から2027年3月期までの3年間にM&Aやアライアンスなどの成長投資に前中期経営計画を300億円上回る1000億円以上の枠を設けた。
M&Aの対象としているのは、エネルギーや資源の課題に対応できる企業や、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やOT(オペレーションテクノロジー=運用技術)関連の企業など。
すでに2024年6月にドイツの再生可能エネルギー監視ソリューションを提供するバックス・エナジーを買収しており、グローバルに発電設備を持つ顧客に、導入のコンサルティングや、実装、アフターサービスなどの提供を始めた。
また2025年4月には、シンガポールのIT、OTの統合ソリューションを提供するウェブ シナジーズの買収を決めた。これによってクラウドサービスのほか、企業のデータ管理や統合サービス、IT、OTのセキュリティソリューションなどのビジネスを強化する。
増収率10%以上には実績が
計測や制御機器は、製造業での自動化の進展や再生可能エネルギー、スマートシティなどの拡大、さらには家電や自動車などがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)の普及などに伴って、需要の拡大が見込まれている。
横河電機では、脱炭素社会の実現に向けたエネルギー・トランジション(既存のエネルギーシステムから新しいエネルギーシステムへの移行)などの社会課題解決に向けたニーズや、生産の効率化や安定化に対する顧客のニーズが高まると見る。
同社は、国内外の多くの顧客に対し、製品やソリューション、サービスを開発し供給してきた実績があり、これまでに培ってきた安心、安全、高品質なモノづくりのノウハウや、OTやET(エンジニアリングテクノロジー=製品設計や工程設計、レイアウト設計などに関わる技術)領域での課題解決力などを持つ。
こうした強みを活かし、エネルギー&サステナビリティ事業では、再生可能エネルギーや水市場に向けたソリューションの提供、マテリアル事業ではコンサルティング、ソリューションビジネスの加速などに取り組む。
またライフ分野ではバイオや再生医療分野での新技術の開発を、測定器分野ではコア技術を応用した事業領域の拡大などを進め、事業を拡大する計画だ。
新中期経営計画の初年度となる2025年3月期は売上高5630億円(前年度比4.2%増)、営業利益790億円(同0.3%増)を見込む。
目標に掲げた増収率10%には達していないが、前中期経営計画では3年間の年平均増収率が13%となっており、増収率10%以上には実績がある。今後の挽回の余地はあると見てよさそうだ。

文:M&A Online記者 松本亮一
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