【7月のM&Aサマリー】74件、5カ月連続増加|ホンダ、上場子会社の八千代工業をインド社に売却

2023年7月のM&A件数(適時開示ベース)は前年を17件上回る74件だった。前年比プラスは5カ月連続で、国内、海外案件ともに堅調に推移した。

1~7月累計は575件と前年を60件、率にして12%上回る活況を呈している。

一方、7月の取引金額(公表分を集計)は1566億円。5、6月は2カ月連続で1兆円を超えたが、大型案件が乏しく、1月(1346億円)に次ぐ今年2番目の低水準だった。

海外案件、コロナ前に回復

上場企業に義務付けられている適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A Onlineが集計した。

7月の総件数74件の内訳は買収56件、売却18件(買収側と売却側の双方が発表したケースは買収側でカウント)。このうち海外案件は16件で、日本企業が買い手のアウトバウンド取引10件、外国企業が買い手のインバウンド取引6件だった。

海外案件の1~7月累計は110件(アウトバウンド72件、インバウンド38件)と、前年80件(アウトバウンド45件、インバウンド35 件)を30件上回り、コロナ前の2019年の水準(107件=アウトバウンド82件、インバウンド25件)を回復した。

【7月のM&Aサマリー】74件、5カ月連続増加|ホンダ、上場子会社の八千代工業をインド社に売却
適時開示ベース。M&A Online集計

そーせい、スイス社の医薬品事業を買収

7月の金額トップは、そーせいグループが約650億円を投じて、スイスのバイオ医薬品企業イドルシア(バーゼル)から日本・アジア太平洋地域(中国を除く)の事業を買収した案件。買収金額はそーせいグループの直近売上高155億円(2022年12月期)の4倍以上で、成長戦略を一気に加速する構えだ。そーせいは1990年に設立した創薬ベンチャーの老舗。

取得したのはイドルシアの日本、韓国にある子会社の全株式のほか、同社の主力製品でくも膜下出血の手術後の脳血管収縮などの抑制薬 「ピヴラッツ」、不眠症治療薬「ダリドレキサント」の中国を除くアジア太平洋地域における権利や、最大7つの治験中の新薬候補について権利を取得できるオプション(選択権)。手元資金250億円とみずほ銀行からの借り入れ400億円で賄った。

日本で2022年4月に発売された「ピヴラッツ」の売上総利益(薬価ベース)は2022年約75億円で、2023年には130億円超を見込む。

もう一方の「ダリドレキサント」は2023年末までに日本で承認申請し、2024年中の発売を目指している。

【7月のM&Aサマリー】74件、5カ月連続増加|ホンダ、上場子会社の八千代工業をインド社に売却
そーせいグループの本社が入るビル(東京・半蔵門)

ホンダ 「脱エンジン化」で系列部品メーカー再編

ホンダは、上場子会社の八千代工業をインドの自動車部品大手マザーサン・グループに売却すると発表した。エンジン車からEV(電気自動車)へのシフトに伴う系列自動車部品メーカーの再編の一環。

10月をめどにTOB(株式公開買い付け)を行い、八千代工業を完全子会社化したうえで、株式81%をマザーサンに190億円で譲渡する。残る19%は引き続きホンダが所有。譲渡先のマザーサンは四輪車用の樹脂部品を中心とする内外装モジュールなどをグローバルに展開し、世界40カ国以上に生産拠点を持つ。

ホンダは2040年までに販売するすべての新車をEVかFCV(燃料電池車)に置き換える「脱エンジン化」を目標に掲げる。八千代はガソリン車用の燃料タンクや、自動車の屋根に装備するサンルーフを主力とするが、親会社の脱エンジン化に伴い、新たな販路開拓などが急務になっていた。

今回の八千代に先駆け、ホンダは2020年秋、系列部品メーカーのケーヒン、ショーワ、日信工業の3社(いずれも当時上場)をTOBで完全子会社化。2021年1月、日立製作所傘下の日立オートモーティブシステムズと3社を合併させ、「日立Astemo」(茨城県ひたちなか市)を発足させた。

ニデック、工作機械で4社目の買収へ

金額3位ながら、7月に最も話題を呼んだのが工作機械メーカーのTAKISAWA(旧滝沢鉄工所、東証スタンダード上場)に対するニデックのTOB案件。ニデックは2022年にTAKISAWAに資本業務提携を提案したが、TAKISAWAはこれを断った経緯から、敵対的TOBに発展する可能性があるためだ。TAKISAWAはTOBへの賛否についての意見を8月1日時点でまだ公表していない。

ニデックは9月中旬にTOBを開始し、TAKISAWAの完全子会社化を目指す。

買付代金は最大166億円。TAKISAWAが主力とする旋盤を取り込み、工作機械事業の拡充につなげるのが狙い。

ニデックは2021年8月に三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール)を買収して工作機械事業に参入した。22年2月にOKK(現ニデックオーケーケー)、23年2月にイタリアのPAMAを傘下に収めており、TAKISAWAが4社目となる。

TAKISAWA(2023年3月期売上高は279億円)が加われば、工作機械事業のグループ売上高は1000億円に迫る。

【7月のM&Aサマリー】74件、5カ月連続増加|ホンダ、上場子会社の八千代工業をインド社に売却
TAKISAWAへのTOBを発表したニデック

ほかに100億円超の案件は2件あった。ノーリツ鋼機はオーディオソフト開発のニュージーランドSeratoを、ヤマエグループホールディングスは東京プロマーケット上場で戸建住宅建設のLUMBER ONEをいずれも101億円で子会社化することを決めた。

このうち、ヤマエは昨年8月、宅配ピザ「ピザハット」を国内で約500店舗持つ日本ピザハット・コーポレーション(横浜市)を傘下に収めた。ヤマエは経営の両輪とする食品事業と住宅・不動産事業の周辺領域での多面的な展開を基本戦略に掲げている。

スーパー事業売却、トーホーが“仕切り直し”

小売分野では“仕切り直し”の動きもあった。業務用食品卸のトーホーは子会社を通じて手がける食品スーパー事業(兵庫県内に34店舗)を、中部を地盤とするバローホールディングスに譲渡する方向で協議を始めた。トーホーは昨年10月に食品スーパー事業の業績低迷を受け、同業スーパーのコノミヤ(大阪市)への譲渡を発表したが、最終的に条件が折り合わず、今年6月に中止を決めた経緯がある。

個別業種で比較的目立ったのが外食・フードサービスを対象とする案件。6月6件に及ばなかったものの、7月も3件を数え、1月からの累計は17件と7月時点で早くも前年の年間件数に並んだ。

そのうちの一つはテンポスホールディングスが千葉県を中心に回転ずし・海鮮居酒屋など約20店舗を運営するヤマト(千葉県鴨川市)を子会社化する案件。取得金額は非公表だが、ヤマトの売上高は55億円。テンポスは中古厨房機器・用品販売の大手で、2011年にステーキハウス「あさくま」を傘下に収めるなど、自ら飲食事業を手がけている。

◎7月M&A:金額上位(10億円以上)、HDはホールディングスの略

1 そーせいグループ スイスのイドルシアから日本・アジア太平洋地域の医薬品事業を取得 650億円 2 ホンダ 自動車部品子会社の八千代工業をインドのマザーサン・グループに譲渡 190億円 3 ニデック 工作機械メーカーのTAKISAWAをTOBで子会社化へ 166億円 4ヤマエグループHD東京プロマーケット上場で住宅建設のLUMBER ONEを子会社化101億円 〃 ノーリツ鋼機 オーディオソフト開発のニュージーランドSeratoを子会社化 101億円 6 ヒト・コミュニケーションズ・HD 空港グランドハンドリング事業のFMG(千葉県成田市)など2社を子会社化 77億円 7 東京センチュリー オリコオートリース(東京都台東区)など2子会社をオリエントコーポレーションに譲渡 60億円 8 ツムラ 今年5月に子会社化した中国「陜西紫光辰済薬業」を現地社に譲渡 48.5億円 9 ジーエス・ユアサコーポレーション 自動車用鉛蓄電池製造の中国子会社2社を香港Leoch Batteryに譲渡 40.2億円 10 富士通ゼネラル 東芝キヤリア傘下で空調機用コンプレッサー製造のタイTCFGを子会社化 32.5億円 11 ジャパンマテリアル 半導体製造装置部品販売のシンガポールGBSを子会社化 23.9億円 12 エフ・コード 運用型広告運用代行などのCRAFT(東京都江東区)を子会社化 14.8億円 13 トリプルアイズ AI・ビッグデータ関連システム開発のゼロフィールド(東京都港区)を子会社化 12.6億円 14 テクノロジーズ 太陽光発電設備施工・販売のエコ革(栃木県佐野市)を子会社化 11.9億円

文:M&A Online

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