2023年の製造業をターゲット(対象)にしたM&Aは、件数が前年比11.1%増の240件(前年は216件)で3年連続の増加となった。一方、取引総額は同約3倍の約8兆6199億円(前年は約2兆9070億円)と、3年ぶりの増加となった。
大型案件が目白押しだった2023年
取引総額が跳ね上がったのは、日本製鉄<5401>による米鉄鋼大手USスチールの子会社化と、日本産業パートナーズ(JIP、東京都千代田区)陣営による東芝のTOB(株式公開買い付け)があったため。両社のM&Aで4兆円を超え、取引総額全体の半分を占めている。
1000億円超の案件は前年の4件を3件上回る7件だったが、取引総額6位までが前年トップの武田薬品工業による米国の創薬企業ニンバス・セラピューティクス子会社のラクシュミ買収(約5485億円)を上回るなど、大型案件が多かった。コロナ禍からの正常化が進み、製造業のM&Aが活発化してきたようだ。
クロスボーダー(海外)M&Aは93件と、製造業全体の38.7%を占めている。クロスボーダーM&Aに大型案件が集中する傾向があるが、取引総額上位10件に食い込んだ同M&Aは前年より3件減って6件に。いずれも日本企業が海外企業を買収するIN-OUT案件。円安で日本企業は割安で手に入る環境だが、輸出を主力とする国内製造業の業績が好調なこともあって日本企業による海外企業の買収が優勢だ。
今年最大のM&Aは日鉄のUSスチール買収
最も取引総額が大きかった買収案件は、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収。141億2600万ドル(約2兆75億円)を投じて、全株式を取得する。日米をまたぐ鉄鋼業界の大型再編で、日本製鉄として過去最大のM&Aとなる。買収により日本製鉄の粗鋼生産能力は6600万トンから8600万トンに拡大し、目標とする「1億トン体制」に前進し、現在の世界4位から3位に浮上が見込まれる。
売却完了は2024年4~6月期または7~9月期を見込む。日本製鉄は2018年にインドのエッサールスチール、2022年にタイのGスチール、GJスチールを傘下に収め、世界戦略を推し進めてきた。これに続き、今回、先進国の米国にも鉄源一貫製鉄所を持つことになる。
次いで日本産業パートナーズ陣営による東芝に対するTOB。東芝は不正会計問題や米原子力事業の巨額損失などで経営危機に直面し、2017年3月に債務超過に陥った。東芝は上場廃止を回避すべく、債務超過の解消に向けて2017年末の増資で約6000億円を調達。この増資をきっかけに海外勢を中心に物言う株主が影響力を増し、経営への介入を招く。経営の混乱が長期化し、共に疲弊した社内と物言う投資家が上場廃止を受け入れ、TOBが成立。東証プライム上場を廃止し、上場企業の看板を下ろした。
取引総額の3位は6月26日に発表した産業革新投資機構によるTOBでJSR<4185>を株式非公開化した案件。成長資金を確保して国際競争力を高めるとともに、半導体材料業界の再編加速につなげる。JICは全株式の取得を目指しており、買付代金は最大で9039億円。
文:M&A Online