経産省が「スタートアップM&Aガイダンス」を策定-IPO偏重を見直し、M&Aを成長戦略に位置付け

経済産業省は20日、「スタートアップM&Aガイダンス」を公表した。日本のスタートアップ・エコシステムの発展と新産業創出を目的に、スタートアップを取り巻くM&Aの課題や実務上の留意点を体系的に整理している。

スタートアップ経営者に蔓延(まんえん)する新規株式公開(IPO)偏重からの転換を促し、M&Aを有力な成長戦略として位置付けている。

IPOだけが成功か?

ガイダンスでは、スタートアップの成長手段としてIPOだけでなくM&Aを積極的に活用する必要性を強調。政府が2022年11月に策定した「スタートアップ育成5か年計画」の流れを踏まえ、投資回収機会としてのM&Aを普及させることで、スタートアップへの継続的な資金供給やオープンイノベーションの促進につなげたい考えを示した。

背景には、日本で依然としてIPOが「最も望ましいEXIT(出口)」として認識されている実態がある。ガイダンスによると、スタートアップ経営者への調査では、将来の成長手段として「IPO予定」が80.2%を占めた一方、「M&A予定」は5.3%にとどまった。米国や英国と比べても、日本では成長手段としてのM&Aが軽視されているという。

経産省は、M&A活用が進まない背景として、①IPOとM&Aをフラットに比較できていない、②経営初期からM&Aを視野に入れた経営が不足している、③買い手企業側のM&A経験や体制整備が不十分―などを挙げた。特に「IPO=成功」「M&A=ギブアップ」という固定観念が根強く、経営者がIPOを前提に資本政策を組む傾向があると分析している。

一方、米国ではIPOのハードルが高く、M&Aが現実的な選択肢として定着していると紹介。機関投資家の存在や主幹事証券会社の厳格な審査などを背景に、スタートアップが早期からM&AをEXIT戦略として意識している実態を示した。

「デュアルトラック経営」を提起

今回のガイダンスで特徴的なのが、「デュアルトラック経営」の推奨だ。IPOとM&Aの双方を視野に入れながら経営を行い、その時点で最適な成長手段を選択できる体制づくりを求めている。

そのための留意点として、資本政策、ガバナンス、事業戦略、人材を一体的に検討する必要性を指摘。資本政策では投資家選定や調達条件、ガバナンスでは拒否権や取締役会運営、事業戦略では売上や利益など基本的な財務指標の重視、人材面では最高財務責任者(CFO)と外部専門家との連携強化などを挙げている。

一方で、M&A時には経営者、投資家、買い手企業など複数のステークホルダー間で利害対立が起こりやすく、調整が滞ると適時のM&A実行が難しくなるとも警鐘を鳴らした。そのため経営初期からM&Aも視野に入れたガバナンス設計を行う重要性を訴えている。

「0→1」を大企業が取り込む

買い手企業向けには、スタートアップM&Aを社外リソースを使用した「インオーガニック成長戦略」として経営戦略上に明確に位置付ける必要性を説いた。既存事業とは異なる意思決定プロセスや予算制度、インセンティブ設計を構築することが有効とし、専門部署である「Corporate Development部署」の設置も提言している。

さらに、スタートアップM&Aによって、大企業はスタートアップが得意とする「0→1」の成果を取り込み、新規事業創出やグローバル展開につなげられると説明。スタートアップ単独では不足しがちな販路や量産体制を大企業が補完することで、日本発の新産業創出につながるとの考えを示した。

ガイダンスでは、グーグルによるYouTube買収、メタ(旧Facebook)によるインスタグラム買収、マイクロソフトによるパワーポイント開発会社の買収など米国の代表的事例も紹介。スタートアップが開発したプロダクトを大企業のプラットフォームに統合することで急成長につながる点を「M&Aの本質」と位置付けている。

シリアルアントレプレナー創出にも期待

経産省はM&A活性化によって起業家が売却後に再挑戦しやすくなり、シリアルアントレプレナーやエンジェル投資家の増加につながる効果にも期待を寄せる。M&Aで得た資金や経験を次の起業や投資に振り向けることで、スタートアップ・エコシステム全体の循環を促進できるとしている。

また、日本市場だけでは世界GDPの3~4%程度しか占めておらず、内需依存では成長に限界があるとも指摘。大企業の海外販路や顧客基盤を活用したM&Aが、日本発スタートアップのグローバル展開を後押しするとの見方を示した。

今回のガイダンスでは、M&Aの流れやストラクチャー、新株予約権の処理、PMI、インセンティブ設計、従業員説明、契約時の留意点など実務面も詳しく紹介している。

文:糸永正行編集委員

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