【太平洋セメント】積極的な国内外のM&Aで「圧倒的なリーディングカンパニー」目指す

太平洋セメント<5233>(東京都港区)の歴史は、1875(明治8)年設立の日本初の官営模範工場、深川セメント製造所に遡る。1883(明治16)年に浅野総一郎氏に払い下げられ、「日本セメント株式会社」(旧浅野セメント)が始動。

他方、1881(明治14)年にセメント製造会社(小野田セメントの前身)が創立。戦後の高度経済成長期にセメント需要が拡大すると、1994(平成6)年に秩父セメントと小野田セメントの合併で「秩父小野田株式会社」を設立する。その4年後、同社(秩父小野田)と日本セメントが合併して誕生したのが「太平洋セメント株式会社」だ。

現在、太平洋セメントグループは国内セメント販売シェアで約35%を占めるリーディングカンパニーで、社会インフラの根幹を支える基礎資材(セメント、コンクリート・骨材等)の供給を通じて国内外で広く尽力。その拠点は国内のみならず、海外にも31を有する。セメント業界の再編とグローバル化、さらには事業拡大と経営の多角化を推進し、「圧倒的なリーディングカンパニー」を目指す太平洋セメントのM&A(合併・買収)戦略をみる。

2000年代、業界再編と経営効率化で事業基盤を強化

2000年代初め、太平洋セメントはセメント需要の縮小や業界再編、生産の効率化への対応が求められ、コンクリート製品メーカーやグループ子会社との合併、株式交換、工場の閉鎖などを通じて重複する営業基盤を解消し、経営の効率化と収益力の向上を図った。

具体的には、2000年3月に秩父工場と香春工場(福岡県)の縮小・分社化を発表したのをはじめ、2003年に子会社の三河小野田セメントと北九州小野田セメントを、2004年には香春小野田セメント(香春工場の閉鎖)を、それぞれ解散。2009年7月に株式交換により、赤字体質だった日本セラテックの事業構造を見直し、経営基盤の安定化を狙って完全子会社化した。

2016年8月、セメントや資源・環境、不動産事業等を展開するデイ・シイ(2003年10月、旧浅野セメント系の第一セメントと中央商事が合併)を、株式交換で完全子会社化。環境配慮型の高炉セメント製造や首都圏の臨海工場を獲得するなど、環境対応力や供給網の強化につなげた。また、翌2017年には太平洋セメント販売が、丸紅セメント資材の国内事業をすべて譲り受けるなど、グループの事業基盤を強化した。

【太平洋セメント】積極的な国内外のM&Aで「圧倒的なリーディングカンパニー」目指す
秩父太平洋セメントの工場
首都圏を支える主力拠点、秩父太平洋セメントの工場(写真ACより)

2020年代には、大型M&Aと事業ポートフォリオの最適化を図った。

2022年10月、総合化学メーカーのデンカのセメント販売事業を承継する100%子会社を獲得。これにより、デンカ青海工場製造分の製品を「太平洋セメント」ブランドで販売するようになる。2023年6月には、株式交換により小野田ケミコを完全子会社化し、グループ内の事業シナジーをさらに高めた。

直近では2025年8月、システム販売や運用・管理、ソフトウエア開発等を担う上場子会社のパシフィックシステムをTOBで完全子会社化。2026年3月には、トクヤマがセメント販売事業と同社の子会社(トクヤマエムテック、トクヤマ通商)を統合し、新たな100%子会社を設立。太平洋セメントは、その新設子会社の全株式を取得した。これにより、国内事業のプレゼンスの向上と中核である国内セメント事業の基盤拡大を実現した。

同社の国内M&Aは、生産シェアの拡大や物流の効率化、地域密着型の販売網の強化と地方市場の安定化など、多角的な効果となって現れている。

【太平洋セメント】積極的な国内外のM&Aで「圧倒的なリーディングカンパニー」目指す
太平洋セメントの主なM&Aと事業再編のあゆみ

北米で事業拡大、アジアは環境意識の高まりに対応

国内の基盤強化と並行して、積極的な海外M&Aによるグローバル化も推し進めている。

北米市場への足掛かりを築いたのは、1990年に買収(旧小野田セメント)した米国の建材メーカー大手のカルポルトランド・カンパニー(CPC社)。北米事業の核心を担う重要な連結子会社で、カリフォルニア州やアリゾナ州などで4つのセメント工場を保有するほか、生コンクリート・骨材事業なども展開。ワシントン州、オレゴン州などにも拡大する。2015年8月には、CPC社が米マーティン・マリエッタ・マテリアルグループからカリフォルニア州のセメント工場を取得して、長期的な市場展開を狙った。

2025年10月にも、米カリフォルニア州の骨材・生コン大手のバルカン・マテリアル社から生コン工場を買収。米国内の生コン工場を110カ所に拡大した。

【太平洋セメント】積極的な国内外のM&Aで「圧倒的なリーディングカンパニー」目指す
太平洋セメントの地域別売上高構成比

アジア市場では、中国やベトナム、インドネシアの現地企業との合弁や資本業務提携によって、海外の成長市場への展開を強化した。

中国では、インフラ需要の拡大に対応した生産体制を確立し、販売チャネルの拡充とイノベーションの創出を図るため、子会社の太平洋水泥(中国)投資有限公司を中枢に据えて事業を展開。2012年2月、同社と太平洋エンジニアリングが、冀東(きとう)セメントグループの冀東発展集団有限責任公司と、現地のセメント製造技術をベースとする省エネ、環境保護、廃棄物の分野を手がける合弁会社、東太平洋水泥環保工程技術有限公司の設立で合意。2012年12月には新疆天業(集団)有限公司と、新疆ウイグル自治区でセメント合弁会社の設立で合意した。

そうしたなか、一方では2014年9月に新疆ウイグル自治区で設立を準備していたセメント合弁会社の契約を解除。2021年9月には、連結子会社でセメント・骨材の製造販売の秦皇島浅野水泥有限公司(河北省)の全株式を、共同出資先の秦皇島長陽混凝土有限公司へ譲渡した。また、2024年12月には連結子会社の大連小野田水泥(遼寧省)有限公司の株式を、現地の吉林省鵬霖実業(集団)有限公司に譲渡するなど、非中核事業を整理。海外でも「選択と集中」を進めた。

【太平洋セメント】積極的な国内外のM&Aで「圧倒的なリーディングカンパニー」目指す
太平洋セメントの地域別拠点数

ベトナムでは、太平洋セメントと三菱マテリアルが共同出資し、ベトナムセメント公社との合弁会社のギソンセメントコーポレーションが、北部タインホア省に建設していた工場(秩父小野田が1995年4月に調印)が2000年11月に完成。2010年4月には第二生産ラインを竣工した。

2011年10月にはホーチミン市を本拠地とする生コンクリートメーカー、サイゴンRDCを買収した。新工場の建設や生産ラインの増設を通じて、アジア市場でのプレゼンスを強化し、現地での成長投資や技術交流を推進した。

インドネシアでは、2021年1月に国営セメント大手のセメン・インドネシア(SI社)のグループ子会社であるソルシ・バングン・インドネシア(SBI社)、および同社の株主であるセメン・インドネシア・インダストリ・バングナン(SIIB社)と資本提携を結び、持分法適用会社化した。合弁事業で共同ブランドによる販売拠点の開設や現地需要に合わせた製品開発を推進したほか、資本効率の最適化や経営資源の集中、リスク管理の徹底と強固な収益基盤を築いた。2026年3月には、セメン・インドネシア・グループと地盤改良共同事業に関する基本合意書を結び、グローバルポートフォリオの最適化を図っている。

【太平洋セメント】積極的な国内外のM&Aで「圧倒的なリーディングカンパニー」目指す
太平洋セメントの主な海外M&Aの推移_1

M&Aを成長エンジンにサステナブルな競争力を確立

太平洋セメントのM&A戦略は、国内外の事業再編とグローバル展開を着実に進めることで、セメント業界の再編のイニシアチブを握るとともに、市場シェアの拡大や収益基盤の多様化、生産・物流ネットワークの強化を実現。地域のインフラ需要や環境意識の高まりに対応するとともに、海外展開による為替変動や国内景気変動への耐性を向上し、M&Aによるコスト削減や技術共有で競争力を底上げしてきた。

こうした戦略的な再編によって強固な収益基盤を確立した同社は、現在、産業構造の転換を見据えた次世代戦略に一段と注力している。再生可能エネルギーや廃棄物リサイクル事業、カーボンニュートラルへの投資を加速させ、低炭素生産やサーキュラーエコノミーといったESG(環境・社会・ガバナンス)課題の解決を経営の柱に据えた。こうした取り組みとM&Aを成長エンジンとして掛け合わせることで、新たな成長領域の創出と、未来のイノベーションを支えるサステナブルな競争力の“源泉”を築き上げようとしている。

文・髙橋べん(ライター)

【M&A速報、コラムを日々配信!】
X(旧Twitter)で情報を受け取るにはここをクリック

【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック

編集部おすすめ