関西万博EVトラブルで民事再生に追い込まれたEVモーターズ・ジャパン、買い手はつくか?

「日本発の商用EV(電気自動車)ベンチャー」として時代の寵児となったEVモーターズ・ジャパン(EVMJ、北九州市)が、破綻の淵に立たされている。現在、同社は新たなスポンサーの獲得による再起の道を模索している。

果たして、不祥事と巨額の負債を抱えた同社に買い手はつくのだろうか。

品質問題で民事再生に追い込まれる

同社は2026年4月14日、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請し、4月21日に手続き開始決定を受けた。大阪・関西万博のシャトルバス向けに大型受注を獲得するなど、脱炭素化の旗手と目されてきた同社だが、急激な拡大路線の裏で品質問題への対応に追われた。負債総額は約57億円、東京商工リサーチによると、2025年12月期は約49億円の最終赤字だったとされる。

同社が短期間で破綻に至った原因は、相次ぐ車両の重大な不具合と、それに伴う「国産偽装」とも言える実態の露呈にある。

国交省の総点検では、同社が納品した車両の多数でブレーキホースの摩耗や回生ブレーキの不具合、電装系のバグなどが発覚し、リコールや立ち入り検査に発展した。さらに、日本の軸重規制への対応のため、納車前にバッテリー搭載数を変更していたとの指摘も報じられた。

最大の問題は、北九州の自社工場「ゼロエミッション e-PARK」での国内生産を強く印象づける事業モデルだったが、実際には中国メーカーへの製造委託と輸入に依存していた実態が批判を招いた。同社は国内生産を前面に打ち出した事業戦略を背景に、多額の公的補助金と大阪メトロ(大阪市高速電気軌道)からの190台規模の大型受注を獲得していた。

しかし、不具合の多発によって大阪メトロから全台の契約解除と「96億円の返還請求」を突きつけられ、資金繰りは急速に悪化した。

関西万博EVトラブルで民事再生に追い込まれたEVモーターズ・ジャパン、買い手はつくか?
大阪メトロに納入したEVバスが、民事再生の引き金に
大阪メトロに納入したEVバスが、民事再生の引き金に(同社プレスリリースより)

EVMJに残された資産は?

企業の看板は失墜したものの、民事再生手続きにおいて買い手が注目する事業資産は依然として存在する。

最大の資産は、北九州市若松区に建設された商用EV専用施設「ゼロエミッション e-PARK」である。約5万8000㎡の広大な敷地には、テストコースや検査棟、自動搬送車(AGV)を備えた最新のアセンブリラインが整備されている。

商用EVの国内生産・検査拠点をゼロから立ち上げるには膨大な時間とコストがかかるため、このインフラ一式は競合他社にとって極めて魅力的なハードウェア資産だ。

同社が独自開発したとされる省エネ制御システム「アクティブ・インバータ」の技術プログラムや、これまで全国の自治体や地方バス事業者と築いてきた顧客ネットワーク、メンテナンスサポートのノウハウも無価値ではない。

買収のメリットとリスク

買収企業にとって最大のメリットは、「日本の商用EV市場における製造・検査拠点を格安で一挙に手に入れられる点」にある。出遅れている大型EVバスやトラックの生産ライン、あるいは特装車の電動化実験場としてe-PARKを即座に自社のポートフォリオに組み込める。

インフラ企業であれば、同施設を再生可能エネルギーと蓄電池を組み合わせた次世代エネルギーマネジメントの巨大な実証拠点(マイクログリッド)としてリパーパス(再利用)することも可能だ。

一方、最大のリスクは「大阪メトロとの96億円を巡る巨額の法的紛争」と「失墜したブランドイメージ」である。EVMJ側は契約解除を不当として争う姿勢だが、この潜在的債務をそのまま引き受けてくれるスポンサーの出現は容易ではない。

「国産偽装」「走らない欠陥車」とまで叩かれたメディア報道のネガティブイメージが強烈すぎるため、EVMJの社名やブランドを引き継ぐこと自体が営業上の重大な足枷となる。

買収するとしたら、どのようなスキームか?

これほど巨額の訴訟リスクとブランド毀損を孕む案件である以上、買い手企業がEVMJという「法人そのもの(株式)」を買い取る再建スキームは考えにくい。現実的には、民事再生手続きの枠組みを活用した計画外事業譲渡が有力な選択肢となりそうだ。

計画外事業譲渡とは、数カ月かかる「再生計画案」の決議・認可を待たずに、裁判所の許可を得て超特急で事業や資産をスポンサー企業へ売却(譲渡)する手法である。

倒産手続き中の企業は時間の経過とともに従業員の離職や顧客離れが進み、事業価値が急速に劣化(毀損)してしまう。それを防ぐため、価値が残っているうちに優良資産だけを切り離し、健全な企業の傘下へ移転させるのだ。

具体的には、スポンサー企業が新会社(受け皿会社)を設立するか、自社の既存事業や子会社を活用し、EVMJから「e-PARKの土地・設備」「インバータ技術の知的財産権」「保守メンテナンス部門」などの有効な資産だけを数億~十数億円規模で買い取る方法だ。

買い手企業にとっては、EVMJの過去の不祥事や大阪メトロからの96億円もの返還請求、国からの補助金返還リスクといった「負の遺産(毒)」をすべて旧法人に残したまま、完成したばかりの最新工場やインバータ技術といった「クリーンな資産」だけを選別して格安で引き取れるという決定的なメリットがある。

ビッグモーター方式の事業譲渡か?

こうした「毒抜き」とも言える再編スキームは、近年最大級の企業不祥事となった中古車販売大手の旧ビッグモーターの事業譲渡に近い。

当時、数々の不正請求や訴訟リスクでブランドが崩壊したビッグモーターに対し、スポンサーである伊藤忠商事らの連合は法人を丸ごと買うことはしなかった。新会社「WECARS(ウィーカーズ)」を設立し、全国の優良な店舗網や従業員の雇用といった「価値ある資産」だけを事業譲渡(会社分割)の形で救い出した。

他方で、過去の補償債務や巨額の借入金といった「毒」はすべて旧法人(現BALM)に置き去りにし、旧法人は民事再生による清算手続きへと追い込まれた。

現在のEVMJが置かれた状況は、まさにこのビッグモーターの破綻直前と酷似している。EVMJという会社そのものは過去の過ちの清算とともに消滅の道をたどる可能性が高いが、国策として大きな期待を集めて建設されたe-PARKというインフラを生き残らせるためには、このビッグモーター型の手法による「計画外事業譲渡」の成立が、有力な再建シナリオになるだろう。

EVMJの「計画外事業譲渡」スキーム例(M&A Online作成)

関西万博EVトラブルで民事再生に追い込まれたEVモーターズ・ジャパン、買い手はつくか?

買い手企業の候補は?

この事業譲渡スキームを前提とした場合、買い手候補として以下の3つの勢力が浮上する。

まずは、既存の資本業務提携企業だ。破綻前に資本参加していたコスモエネルギーホールディングスや、特装車の電動化を進めるモリタホールディングス、直前まで出資していたトヨタグループのトヨタ紡織などが挙げられる。自社の脱炭素ビジネスへの影響や投資の焦げ付きを防ぐため、共同で救済買収に動く可能性はある。

次に、国内市場を狙う新興EV・エネルギーベンチャーだ。国内で大型蓄電池や充電ネットワークを展開するパワーエックス(PowerX)などが、e-PARKのエネルギーマネジメント拠点としての価値に着目して買い取る。あるいは、他のEVベンチャーが大型車領域への進出のために生産拠点を押さえることも考えられる。

そして、地元有力企業によるコンソーシアムだ。北九州市の「環境未来都市」の看板と地元の雇用を守るため、地域救済型の企業連合を結成して買収するという建て付けだ。

エネルギーインフラを担う九州電力や、国内屈指のバス保有量を誇る西日本鉄道(西鉄)、産業用ロボット大手の安川電機など「福岡県や北九州市の名士企業」が候補となる。e-PARKを「地域次世代モビリティセンター」として再スタートさせる構造もありそうだ。

EVMJがすでに納入した車両のメンテナンス基盤を維持することで、顧客への悪影響を食い止め、地元産業のブランドイメージ悪化を防ぐ。県や市が再建支援策を提示したうえで参画を要請すれば、地域貢献を目的とした買収も期待できるだろう。

ただ、いずれも現時点では具体的どころか水面下の動きも伝えられておらず、買い手が見つからず清算手続きに進むのではないかとの見方も強い。

EVモーターズ・ジャパンという会社は事実上、経営破綻した。しかし、残されたe-PARKというインフラは、日本の商用EVシフトにおいて依然として貴重なリソース(資源)である。

負債を切り離したクリーンな事業譲渡であれば、技術の維持や地域の産業保護を大義名分とした地元企業連合や提携大手による「買い手」がつく可能性は十分に開かれている。

文:糸永正行編集委員

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