
九州筑豊ラーメン「山小屋」を展開するワイエスフード<3358>が2025年4月30日に予定していた米国やメキシコでラーメン店を展開するTajima Holdings(カリフォルニア州)の買収を断念した。
トランプ政権誕生以降の米国の経済環境の悪化と消費動向の下振れなどにより、Tajimaの業績の下方修正の可能性が高まったことから株式譲渡価格の見直し交渉を行っていたが、折り合いがつかなったため株式取得を中止することにした。
再度の海外企業M&Aは?
ワイエスフードは2024年9月にTajimaの買収を発表したあと、2025年1月に株式取得に関する条件の確認や手続きに時間を要するとの理由で、株式取得日を当初の2025年1月20日から同年4月30日に変更していた。
一方2025年1月12日には、Tajimaがスープのセントラルキッチンを兼ねた新店舗を開店し、同店舗がTajima Ramenブランドの成長戦略において重要であり、ワイエスフードとの事業シナジー創出を加速させる拠点になるとのリリースを発表。
さらに海外投資家へのアピール強化と、クロスボーダーM&A(海外企業のM&A)や海外展開などを目的に、会計基準を日本基準から国際財務報告基準に移行する検討に入ったほか、英国の金融会社キャンター フィッツジェラルド ヨーロッパが、ワイエスフード株を海外の機関投資家に売却することで合意するなど、グローバル化の準備を進めていた。
株式取得についてTajimaから交渉継続の条件として新たに金銭的対価の提示を受けていたが、ワイエスフードは「受け入れることは困難であると判断した」という。
上場ラーメン企業による取引の中止に関しては、横浜家系ラーメン「町田商店」を展開するギフトホールディングス<9279>が2019年1月に、横浜家系ラーメン「せい家」を展開するトップアンドフレーバー株式の取得に関する基本合意を解消した事例がある。
ワイエスフードは取引の中止によって、グローバル戦略の見直しを余儀なくされており、再度、海外企業のM&Aに挑戦するのか、海外展開そのものを諦めるのか。注目を集めそうだ。
依然と多いラーメン店の倒産
ラーメン業界はコロナ禍後の人流の回復やインバウンド(訪日観光客)需要の拡大などによって、来店客数は増加傾向にあるものの、原材料価格をはじめ運送費や人件費などの上昇により、経営環境は厳しい状況にある。
東京商工リサーチが2025年4月に発表した2024年度(2024年4月~2025年3月)のラーメン店の倒産状況によると、倒産件数は47件(前年度比25.3%減)で、データのある2009年以降、最多だった2023年度(63件)に次ぐ過去2番目の高い水準となった。
倒産原因は販売不振が全体の80.8%を占め、さらに従業員5人以下が80.8%を占めており、小規模、零細規模のラーメン店が物価高と販売不振に喘いでいる状況が分かる。
好調な大手にはM&Aの動きが
一方、大手の業績は堅調に推移しており、「山岡家」を展開する丸千代山岡家<3399>は、2026年1月期に12.8%の増収、7.5%の営業増益を、ギフトホールディングスも、2025年10月期に26.4%の増収、23.7%の営業増益を見込む。
また博多ラーメン「一風堂」を展開する力の源ホールディングス<3561>は、2025年3月期に10.1%の増収、8.2%の営業増益を、京都北白川ラーメン「魁力屋」を展開する魁力屋<5891>は、2025年12月期に14.1%の増収、16.2%の営業増益を予想する。
さたに極旨醤油ラーメン「一刻魁堂」を展開するJBイレブン<3066>は、2025年3月期に1.6%の増収、36.5%の営業増益を、ワイエスフードも2025年3月期に10.6%の増収、3.4%の営業増益を見込んでいる。
こうした状況を受け、出店加速や海外展開などの成長戦略を実現する手法の一つとしてM&Aに前向きな姿勢を示す企業が増えつつある。
2025年4月には力の源ホールディングスが、北海道味噌ラーメン店経営のライズ(東京都大田区)を子会社化したほか、JBイレブンも、同月にラーメン・つけ麺店運営の55style(名古屋市)を子会社化した。
丸千代山岡家やギフトホールディングスも、中期経営計画の中でM&Aに言及するなど、関心を高めている。ワイエスフードが次に打つのは、どのような一手になるだろうか。

文:M&A Online記者 松本亮一
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