映画『ブルックリンでオペラを』はひと筋縄ではいかない!?  魅力を語り尽くすトークイベントが開催
『ブルックリンでオペラを』トークイベントより

3月28日(木) ユーロライブにて、アン・ハサウェイ主演映画『ブルックリンでオペラを』の一般試写会が開催され、映画ライターの村山章、映画評論家の森直人が登壇し、トークショーが行われた。



本作はレベッカ・ミラー監督が手がける、個性豊かなキャラクターたちが織りなす一筋縄ではいかないラブコメディ。

森は監督の前作である『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』のグレタ・ガーウィグが演じた主人公もかなり破天荒なキャラクターだったことを指摘し、「レベッカ・ミラー監督の作品の登場人物は、通常のコードを吹き飛ばすようなキャラクターが大量に投下されていて。いい大人が間違ったことをする様子を面白おかしく眺めるウディ・アレンスタイルですよね」とレベッカ・ミラー監督の作風を解説。



さらに「もう一方では、1930年から40年代にかけて作られたスクリューボールコメディというジャンルがあって。ハワード・ホークス監督の『ヒズガールフライデー』とか、ジョージ・キューカー監督の『フィラデルフィア物語』とかがそれに当たるんですが、エキセントリックな展開が多いんですよね。ハリウッドがそれをやめてどんどん正しいことをしようとしているところで、このニューヨークインディーズの作品が現代のスクリューボールコメディとして、滅びてきている中間的な都市型コメディを時代に合わせてやってくれているんです」と語った。



一方で村山からは、監督の前作までとの舞台の違いについて指摘が。

「『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』の舞台はマンハッタンがベース。『50歳の恋愛白書』はマンハッタンからコネチカットに行く話で、やっぱりニューヨークといえばマンハッタンだった。でももう今はマンハッタン島の物価、家賃の上がり方が恐ろしくて。ジェントリフィケーションといって、外から資本がどんどん入ってきて、元々住んでいた人たちが追い出されてしまう現状があるから、マンハッタンが舞台の人情劇って本当に難しくなっている」と、本作でブルックリンが舞台に選ばれた背景を考察した。



そして話題は、本作で主演だけでなくプロデューサーをも務めるアン・ハサウェイの話に。「最近は『バービー』のマーゴット・ロビーも主演とプロデューサーを兼任していたように、自分が出演している、していないとか、脇役だとか関係なしに面白い映画を作りたいんだって人がすごく増えた」と話す村山に対し、森も「それはハリウッドならぬ映画界全体の危機感からじゃないですか。

特に(本作のような)中間的な映画はすごく作りにくくなっていて、劇場公開しないまま配信であまり観られないまま終わる作品も多い。そこに使命感を持ってアン・ハサウェイは取り組んでいるんじゃないかな」と分析した。



本作の中で好きなキャラクターについて聞かれると、「トレイ(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)だよね!」と意気投合するふたり。トレイは劇中で、パトリシア(アン・ハサウェイ)とスティーブン(ピーター・ディンクレイジ)の息子・ジェームズとその彼女テレザの仲を引き裂こうとするいわば悪役的な立ち位置であるが、村山は「決して裕福ではないけれどそれなりに頑張って、自分の力でのし上がってきた立派なはずの人が、何かに対してルサンチマンがあって、血の繋がっていない娘の恋人を性犯罪者に仕立て上げようとして。心の拠り所に愛国心というか、正義感を持って傾倒してしまう感じがすごくリアルでした」とただの悪役ではないことを力説した。



また、エンドロールに流れるブルース・スプリングスティーン書き下ろしの主題歌「Addicted Romance」について村山はクレジットが流れるまで彼の歌声だとわからなかったことを明かし「やっぱりスプリングスティーンは、シャウトしながら激しいロックを歌うイメージだけれど、実はすごく器用だし音楽性が豊かな人。

我々が思っていないような歌唱法で新曲を書いて、この映画にそっと寄り添っているんだよね」と作品に沿って書き下ろされた楽曲を称賛した。



主題歌は、マリサ・トメイ演じる恋愛中毒者のカトリーナに向けて捧げられている。村山は「このマリサ・トメイのキャスティングの安心感はすごいよね。この年代の役には色々な可能性があるんだと感じさせてくれる」と、スパイダーマンシリーズのメイおばさんを始め、演じるキャラクターの幅広さを振り返ると、森も「マリサ・トメイも人間像を拡張している感じがありますよね。だから(演じるキャラクターが)不決定なんじゃないかな」と分析した。



最後に本作について、村山は「監督の作品では登場人物がちゃんと間違ったことをする。

でも人間はその間違ったことをしても肯定されてもいいというメッセージがあるんだと思います」と話すと、森も「ある種仏教的なお話でもありますが、業の肯定ということですよね」と監督の本作に込めたメッセージを分析した。



さらに村山は、どうしても気になるシーンがあり本作を3回も鑑賞したことを明かした上で、「3回観ても気が付けていない伏線があって、一筋縄ではいかないレベッカ・ミラー作品は面白いですね」とトークショーを締めくくった。



<作品情報>
『ブルックリンでオペラを』



4月5日(金) 公開



公式HP:
https://movies.shochiku.co.jp/BrooklynOpera/



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