LiLiCo&戦場カメラマン渡部陽一が登壇 『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』プレミアム先行試写会レポート
左より)LiLiCo、渡部陽一

5月1日東京・ユーロライブにて、『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』プレミアム先行試写会が実施され、戦場カメラマンとして世界中を駆け回ってきた渡部陽一と、映画コメンテーターとしてだけでなく、女優やタレント、歌手としてマルチな活躍をするLiLiCoがトークショーに登壇した。



映画上映後、にこやかな笑顔で登場した渡部は「今日は映画『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』について、戦場カメラマンの現場と重ね合わせながらお話したいと思います」とあいさつし、会場には和やかな空気が。

続いてLiLiCoが「今日は不思議な組み合わせだと思われたかもしれませんが、実は渡部さんとはよく一緒にお仕事をさせていただいてました。今日は久々に会ったんですが、一緒にお仕事をした時には戦場について詳しくお話を伺う機会がなかなか無かったので、今日はわたしも、皆さんと一緒にいろいろなことを知りたいなと思っています」と続けた。



本作は、製作総指揮、主演を務めたケイト・ウィンスレットが、8年以上の歳月をかけて完成させた作品となる。そんな本作について渡部は「僕は戦場カメラマンとして、ウクライナやガザ、アフガニスタン、イラク、シリアといった現代の戦争の前線に赴いてきましたが、映画で描かれた第2次世界大戦の戦争は、現代の情報管理した戦争とは違い、圧倒的な武力が前面に出ていた時代の戦争だった。そこに従軍するカメラマンは、自分の命を差し出していくような撮影を余儀なくされる。そうした戦争の時代であったというのが、カメラマンとして強く感じたこと。そしてもうひとつ印象的だったのが撮影していたカメラ。今は高画質なデジカメや携帯で誰もが簡単に撮影ができますが、当時はモノクロフィルム。しかもカメラ自体が大判になっていて、撮影していると目立ってしまう。カメラマンが目立つということは命を落とすことに直結してしまう。それでも彼らは写真を残し、たとえケガをしても家に戻ることができた。そうした戦場行動という背景が、作品の中からにじみ出てきている。

カメラマンとしてそう感じました」とコメント。



LiLiCo&戦場カメラマン渡部陽一が登壇 『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』プレミアム先行試写会レポート

それを聞いて「興味深いお話です」と語るLiLiCoも、「わたしも写真が好きなんですが、わたしの友人のカメラマンがよく言うのは“一瞬の記録”という言葉。だけどわたしは、写真は“一生の記憶”だと思っていて。戦争や紛争で何が起こっているのか、ということはニュースなどで想像すると思うんですが、本当のところは写真がないとよく分からない。だからこの役をケイト・ウィンスレットさんが演じたいと思った理由がよくわかります。彼女自身が自分の声をハッキリ持っている俳優だと感じていて。彼女のこれまでの出演作を振り返っても、テーマ性のある作品が多くて、ちゃんと自分がやりたいことを選んでいる。そこがリーさんとすごく似ているんじゃないかなと思った」と続け、「(映画を)震えながら観てました。自分ならどうするだろうか、カメラマンとして行くことができるのか、伝えたい、行きたいという気持ちがあっても、本当にその勇気があるのか。だから陽一さんってすごいなと思っていて。ついついバラエティー番組での癒やされる話し方に注目してしまいますけど、日々やられている大切なことを忘れちゃいけないなと。だからこうしてお会いできることは、わたしにとっても大事なことなんです」と力強く語った。



そんな渡部が、リー・ミラーの写真集を見て印象的だと思ったことが色味だったとか。「現代のカメラは4K、8Kとスーパー高画質なんですが、現代のカメラが求めている美しさというのは、リー・ミラーさんの時代のカメラの写真、特にモノクロから現像で立てていく色合いや深みなんじゃないかと。だからもしかするとその写真集を見ることが現代のカメラマンの一番のテキストになるかもしれない」とカメラマンならではの視点で解説。



さらに、フィルムカメラにはこの瞬間にしか撮れないという緊張感と恐怖、そして喜びがあったと語る渡部。「ちょうど2000年になるころに、カメラはフィルムからデジタルに切り替わりました。僕も駆け出しの頃はフィルムを使っていて。1本で撮れる写真は24枚。それを一気に撮るとすぐに終わってしまう。だから戦場に格安のフィルムを約200本ほど詰めて向かいました。ただし、そのまま戦場に入ると検問で不審者として扱われるので、フィルムをばらして見つからないようにしていったり……。いかに1枚1枚を大切に撮っていくのか。その姿勢はリーさんの撮り方と一緒でした。

なかなか撮らないで、ここだというところで決めていく。この“一撮入魂”、これはカメラマンとして大切な心であったと気持ちがつながりました」と同じカメラマンとしての想いを力説すると、LiLiCoも「その瞬間を待っても、それはもしかしたらもう過ぎてしまったのかもしれない。それが分かった時に心は痛みますよね」とその意見を受け止める。



LiLiCo&戦場カメラマン渡部陽一が登壇 『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』プレミアム先行試写会レポート

さらに、渡部が「戦争報道というのは、そこに行ったから撮れるというものではありません。その国で長期間暮らす中で、偶発的にかち合わないといけないんです。そのかち合った瞬間にシャッターを切れるのか、これが戦争カメラマンのひとつの運命なんです」とリアルな撮影現場のエピソードも披露し、会場もその言葉に真剣に耳を傾けていた。



そんな渡部だが、戦場カメラマンになると両親に伝えた時は強く反対されたという。当時はインターネットもなく、電話もなかなかつながらない時代。そこで彼が両親と交わした約束は「どんな国に行っても、毎日必ず手紙を書くこと。できる限り電話をかけること」だったそう。そしてそれをずっと守り続けてきたという渡部は「結婚後も、妻と息子には、戦場に入ったときは必ず毎日、何度でも電話をかける。用がなくてもメールを打つ。

それが私と家族との約束。つい先ほども、渋谷駅に着いたときには妻に『今から会場へ向かう』と電話して、これが終わったら『今から帰るよ』と連絡を入れます。昔はエアメールなどで連絡をとっていましたが、今は戦場からでもテレビ電話が可能。ウクライナやパレスチナからでもほぼリアルタイムで連絡がとれる。技術の進化はありがたいですね」と明かすと、LiLiCoも「すばらしいですね。どんなに小さなことでも話しておくことは大事。わたしもおなかが痛いとか、ささいなことでも夫に言うようにしています。もし次の日に何かあったら、それが手がかりになるかもしれないから。くだらないと思われても、共有しておくことが大切」と続けた。



LiLiCo&戦場カメラマン渡部陽一が登壇 『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』プレミアム先行試写会レポート

20世紀の男性社会に飛び込み、使命をもって写真を撮り続けたリー・ミラーだったが、「今では前線でも多くの女性カメラマンが活躍しています。かつて私がイラクで出会ったのも、イギリスから来た女性カメラマンで、当時20代だった私は、彼女からデモや、合同礼拝の撮影の仕方を教わりました」と振り返った渡部。さらに女性しか入れない空間や行事、宗教上、男性の立ち入りが禁止されている場所などでは、女性カメラマンだからこそ撮れる写真というものもあったということで、「今はさまざまなメディアで男性、女性、関係なく、たくさんの方が戦場に行き、そこで暮らし、記録を残してきています」と指摘。



それに対しLiLiCoは、「いまだって女性が何かやろうとすると言われることもある……。ようやく少しずつ変わってきたなと感じることもあるし、多様性の時代だとは言われているけど、男女平等のスウェーデンから来た私は、日本にきていろんなショックも受けました。女性らしく……とかいわれたり。あの時代でリーさんのように強く生きていくのはすごいですよね」と自らの過去についても触れながら明かし、「自分で声を上げて、やりたいことをやるってやっぱり勇気が必要。私だって怖いし、リスクもあるけど、何かの助けになれば、とか想いながらやりたいことに向かっていて。先輩たちの中にも“あーすればよかった”とか、後悔している人もいる。失敗もしたけど、やって良かった!と心から想いたい」と、劇中、男性社会の中で大きな犠牲を払いながらも信念に従って生きたリー・ミラーという女性の生き方に感銘を受けた様子で熱弁。「やはり自分が後悔のないようにやっていきたいと思っているので、興味を持ったものには全力で向かっていきたいなと思いました」と、ミラーに共鳴する気持ちを告白していた。



LiLiCo&戦場カメラマン渡部陽一が登壇 『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』プレミアム先行試写会レポート

最後に、劇中で登場する「戦争というのは音を立てずに近づいてくる」というセリフを踏まえ、渡部が「実際に世界中をまわってみると、戦争を求めている人はどこにもいない。でも気付いたら戦争に巻き込まれている人たちがいる。誰も戦いたくないのに、衝突に巻き込まれている。現代の戦争が起こる要因と、まさにリー・ミラーさんのセリフとが、まったく重なっていると感じますね」と、映画の中で描かれる戦争や悲劇は過去の出来事ではなく、現代にも通じるテーマが映し出されていることを会場に呼びかけながら、トークイベントは幕を閉じた。



<作品情報>
『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』



5月9日(金) 公開



公式サイト:
https://culture-pub.jp/leemiller_movie/index.html



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