
コロナ禍で2期連続の営業赤字となったが、2023年2月期は黒字化を実現。1月5日に発表した2023年3-11月の売上高は3割の増収。
「日高屋」が値上げ実施後も客数は2割増
日高屋は、2024年2月期の売上高を前期比23.1%増の470億円、営業利益を前期の7倍近い41億5000万円と予想している。昨年8月21日に通期業績予想の上方修正を発表しており、440億円としていた売上高を6.8%引き上げた。
予想通りに着地をすると、コロナ禍前の2019年2月期の売上高419億円を1割以上上回ることになる。一時は3割近い減収に見舞われていた。まさにV字回復といったところだ。

※「ハイデイ日高」決算短信より筆者作成
日高屋は2023年3月1日から値上げを実施した。6個入りの餃子を20円、味噌ラーメン、とんこつラーメンを10円、価格を引き上げている。定食は30~50円、アルコール類も10~20円程度高くなった。
価格改定を行った後も客数が落ちる様子はない。2023年3-12月の既存店の客数は前年同期間の2割増で推移している。既存店客数は新規オープンした店舗の影響を受けず、本来の集客状況がよくわかる数字だ。
値上げを行った影響もあって客単価は1割近く増加。結果として、既存店でも3割近い増収となっているわけだ。
コロナ禍での数字の落ち込みが激しかっただけに、今期の回復は一層力強く見える。
アルコール比率が高いのにロードサイド店を積極出店
ただし、死角がないわけではない。コロナ禍を機に既存のビジネスモデルが限界に達し、出店戦略を大幅に見直したのだ。
日高屋はドミナント戦略を推し進めて成長した会社だ。東京都と埼玉県の繁華街を中心に出店し、会社員や学生の昼食と夕食の需要を獲得してきた。日高屋のアルコール比率は売上げの15%と高い比率を占める。通常の中華料理店は3%程度が一般的だ。これがいわゆる「ちょい飲み」需要である。
命綱は出店場所だった。日高屋は価格改定でも中華そばの値段を390円で据え置いた。都心で低価格メニューを提供できるのも、繁華街立地で高回転を実現できたからに他ならない。
しかし、その戦略を改めようというのだ。

※決算説明資料より
郊外のロードサイトへの出店に加え、乗降客数3万人程度の駅前にも出店するという。
コロナ禍でリモートワークが進み、ロードサイド店が繁盛しているのはよく知られている通りだ。日高屋の出店戦略の変更は歓迎すべきことのようにも見えるが、必ずしも成功が約束されているわけではない。
不調から抜け出せない会社に、日高屋と酷似する低価格のラーメンチェーンで、ロードサイド型の出店を得意とする幸楽苑ホールディングスがある。
ロードサイド店はリピーター創出がカギとなる
幸楽苑は2023年4-9月に4億円の営業赤字を出している。2024年3月期は5000万円というギリギリの営業黒字を見込んでいるが、1億5000万円の純損失を計上する見込みだ。
通期の売上高は265億円を予想。この金額はコロナ禍を迎える前2019年3月期の6割の水準に留まっている。

※決算短信より筆者作成
ロードサイド型は繁華街型に比べて回転率が低い。
ガテン系の顧客を狙い撃ちする山岡家は、ターゲットに合致する店舗づくりを行うことができる。しかし、“安い”がセールスポイントの幸楽苑のような店舗の場合、客層にばらつきがあるために席の配置が難しくなる。
また、人流が限られるロードサイド店はリピーターの創出がカギとなる。山岡家はクセになる味でファンやリピーターを獲得できたが、万人受けを狙う店舗はどうしても新規客がメインになる。それでも“安い”をフックに集客できればいいが、回転率が少しでも落ちると立ちどころに不採算店となる。
しかも、ロードサイド店は店舗面積が広い一方で、スタッフの数は限られるため、隅々まで目が届かなくなりがちだ。繁盛していない店は活気がなくなって衛生面でも劣ることがある。それが客離れを加速させるという、悪循環に陥りがちなのである。
日高屋は高回転かつアルコール需要の獲得で、業績を拡大してきた。ロードサイド型はその強みのどちらも活かせないのだ。
「飲食店で安く食べたい」からの消費者意識の変化
バランスよく運営している中華料理店といえば王将フードサービスだ。
商環境が激変する中でテイクアウト・デリバリーの需要をいち早く獲得したことが窮地を救うことになったが、王将の強さは客単価の高さにも表れている。

※「王将フードサービス」決算短信より筆者作成
王将は2021年3月期に客単価が1000円を超えた。日高屋は800円前後だ。幸楽苑も日高屋と同水準だと予想できる。直営店1店舗当たりの売上を見ると、客単価の違いによる業績への影響が明らかになる。
2023年上半期において、直営店の売上高から直営店数を割って1店舗当たりの売上推定値を出すと、王将は8300万円、日高屋は5300万円、幸楽苑は3100万円となる。これが、1店舗が半年で稼ぐ金額の目安だ。王将は圧倒的な収益力で他店を引き離している。

写真/アフロ
日高屋と幸楽苑は、原価率の抑制に心血を注いできた会社だ。
日高屋が今のビジネスモデルを堅持したまま、ロードサイド店へと軸足を移すのは難易度が高いと言えるだろう。同社の分水嶺を迎えているのは間違いない。
取材・文/不破聡