「子どもも体毛処理はあたりまえ」低年齢化が加速する脱毛界隈「子どもだからダメ」とは言えない社会的規範の変化とは
「子どもも体毛処理はあたりまえ」低年齢化が加速する脱毛界隈「子どもだからダメ」とは言えない社会的規範の変化とは

「最近は小学生でも脱毛するんだって」。近年、体毛処理は大人だけでなく、子どもも興味を持って当たり前となりつつあるようだ。

だが、実際は何歳くらいで、どれくらいの割合の女児たちが体毛処理を経験しているのか。

 

低年齢化する脱毛について『子どものおしゃれにどう向き合う? 装いの心理学』より一部抜粋・再構成してお届けする。

小学生の体毛処理の経験の実態

子どもの体毛処理の経験の実態についてはこれまでマーケティング調査などを中心に扱われてきました。ちなみに、私のおこなった2018年の調査では、頻度は別として、未就学児から小学生低学年は2割を下回る程度、小学生高学年では2割を超える程度、そして中学生で約4割、高校生で約6割程度が体毛処理をおこなっていることが示されています※1。

最近の子どもの回答データも見ていきましょう。学年別に体毛処理の経験をまとめたものです。

小学1年生から4年生で2割程度、5年生と6年生で3割程度というところでしょうか。おこなったことはないけれども興味があるという児童は1年生で2割程度でしたが6年生になると4割程度になります。

小学6年生になると、興味も無いという人は2割ぐらいのみという結果です。学年が上がると、経験したり興味を持つ人がやや多いということが読み取れます。

この割合はどのように考えることができるでしょうか。少なくとも、6年前の2018年に比べてそこまで大きな違いは確認できません。さまざまなメディアで子どもの脱毛が取り上げられることがあり、いかにも増えたような印象があるかもしれませんが、ここ何年で急激に増えたというわけではなさそうです。



子どもたちが変わったわけではなく、メディアが取り上げるようになったので目につくようになった、と考えることができそうです。とはいえ、今後社会が変化していくことによって、小学生の体毛処理の経験割合が増えていく可能性はあります。

これまで説明してきたことをまとめると、次のようになります。まず、第二次性徴によって体毛が生え、体毛への意識が向くようになり、そして体毛処理をおこなうようになる、という流れが想定されます。そのため、低学年に比べて高学年の子どもの方が体毛処理をおこなっているのでしょう。

とはいえ、低学年でも体毛処理をおこなう子どもがいます。これは、身体の変化だけでなく、親などの環境の影響が大きいと考えられます。なお、高学年の子どもの方が体毛処理をおこなっている他の理由の一つとして、親の体毛処理への許容が関係している可能性もあります。つまり、高学年になって、親が体毛処理を認めるようになったことが関係しているということです。

都会の子どもの方がすすんでいる?―メイクアップと体毛処理

ところで、見た目への意識は都市部かそうでないかで異ならないことを確認しました。しかし意識はともかく、メイクアップという行動においては、違いはあるのでしょうか。また、メイクアップよりも経験頻度が少ない体毛処理においてはどうでしょうか。調査データで確認してみたいと思います。



住んでいるところを大都市と市と町村で分けて※2、メイクアップの経験について尋ねてみたのをまとめました。

見た目への意識と同様に、住んでいるところが都市部かそうでないかで違いは確認されませんでした。化粧品の入手のしやすさや実行のしやすさも、住んでいるところで大きくは違わないということがうかがえます。

同様に、体毛処理についてまとめてみました。

これも、見た目への意識やメイクアップと同様に、住んでいるところが都市部かそうでないかで違いは確認されませんでした。

これらの内容は、情報スピードや量に差がなくなっていることが原因の可能性があります。そしてこれは、住んでいるところに関係なく一律に現在の日本における「おしゃれ圧力」を子どもが受けているということも意味するのかもしれません。

ひとつ注意しておく必要があります。それは、ここではあくまでも経験や興味の有無を尋ねているということです。つまり、頻度やその種類は聞いていません。もしかすると、都会の方が普段からメイクアップをしていたりとか、都会の方がチークを使っているとか、そのような違いはあるのかもしれません。もしくは、都会の方が体毛処理を高頻度でおこなっていたりするのかもしれません※3。



これまで、子どものメイクアップの頻度やその種類、体毛処理の頻度や実施場所などについて扱った調査はいくつかおこなわれていますが、都市部か否かという要因を扱って分析してはいないようです。この点について検討することも、環境の影響を明らかにするという点では重要といえるでしょう。

子どもの体毛処理と社会的規範

街中やインターネット上に体毛処理の広告があり、大人も体毛処理をおこなっているこの環境においては、子どもも「体毛処理はあたりまえ」という感覚になっていくのは不思議なことではありません。

そして子どもがそれまでの生活で、体毛を良くないものや恥ずかしいものとして学んでいることも想定されます。つまり、現在の社会の規範を子どもも取り入れ、体毛処理したいと考えるようになっていることが推察されます。そのため、子どもだからダメといった禁止は、子どもに響かない可能性があります。

しかし、体毛に限りませんが、見た目について子どもはからかう/からかわれることがあります。場合によっては、いじめにつながることもありえます。もし体毛を気にしている理由が親も納得できるようなもの、もしくは納得できなくても子どもの状況を理解できるようなものの場合は、子どもの体毛処理を認めるというのも一つの選択肢と言えるかもしれません。

ともあれ、なにごとであっても、自由な選択ができるのが大事です。たとえば、体毛処理が全員に対して強制になっている社会は健全とはいえないのではないでしょうか。確かに現在は、ほとんどの女性が社会的規範により脇毛を処理しています。

しかし、他の部位については、必ずしも多くの女性が処理しているわけではありません。

男性も、一部の人は脇毛やすね毛などを処理していますが、まだ一部の人の現象です。もしそれが、全員処理していないといけないという社会的圧力のもと、強制的に体毛処理を強いられたらどうでしょうか。

そこには自由はなく、そして、従わない人は社会から排斥されることにつながります。そして子どもも、たとえば、何かしらの理由で体毛を処理できない、もしくは本人の考えで体毛を処理しなかった場合に、周囲の人から非難され、場合によっては排斥されてしまうことになります。

全員が同じことをしないといけない世界、全員が同じように体毛処理しないといけない世界、全員が同じ装いをおこなわなければいけない世界、これは自由が認められない世界です。このような世界は不健全ではないでしょうか。体毛処理に限らず、装いについて個々人が自由に選択できる余地を残しておくことは、豊かで健全な社会のためには必須といえます。

※1 鈴木公啓「子どものおしゃれの低年齢化未就学児から高校生におけるおしゃれの実態」(『慶應義塾大学日吉紀要言語・文化・コミュニケーション』、50、53―69頁、2018年)
※2ここでは、大都市は、「東京都区部、札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市」としています。
※3体毛処理の実施場所の違いがあると思う人もいるかもしれません。そこで、その点についてみてみました。大都市だと実施場所が「エステサロン」とした人の割合はわずかに大きかったのですが、「家」や「病院やクリニック」とした人の割合には違いはありませんでした。

文/鈴木公啓 写真/shutterstock

『子どものおしゃれにどう向き合う? 装いの心理学』(筑摩書房)

鈴木公啓
「子どもも体毛処理はあたりまえ」低年齢化が加速する脱毛界隈「子どもだからダメ」とは言えない社会的規範の変化とは
『子どものおしゃれにどう向き合う? 装いの心理学』(PHP研究所)
2025年4月10日1,034円(税込)240ページISBN: 978-4480685209

子どもとおしゃれの関係を、心理学から考える一冊が登場!

「ちょっとぽっちゃりしてきた?」「最近は小学生でも脱毛するんだって」「ほら、クラスのあのかわいい子」……
大人の何気ない声かけ・言葉が、子どもたちの身体への意識に影響を与えます。



子どもたちにとっておしゃれとは、社会と向き合い、そして自分を知るための大切なツールなのです。イメージで語る前に、まずはその実態を探ってみましょう。

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【目次】
はじめに
おしゃれの低年齢化?/おしゃれそのものに「よい」「わるい」はない など

第1章 おしゃれと装いの心理学
心理学における「装い」/装いの時間的・文化的普遍性/身だしなみとおしゃれ など

第2章 見た目を意識する子どもたち
現在の子どもたちの見た目への意識/見た目の満足と自己受容/都会の子どもの方が見た目を意識している? など

第3章 メイクアップ・体毛処理
小学生におけるおしゃれへのこだわり/体毛処理の経験の実態/子どもの体毛処理と社会的規範 など

第4章 瘦身体型とダイエット
体型を意識する子どもたち/ダイエットの経験の実態/「瘦せ=よい」の背景にあるもの など

第5章 おしゃれによる心身のトラブル
装い身体トラブルって?/子どものダメージは大きい/とはいえ人はなかなかやめられない など

第6章 メディアの影響
社会にあふれる見た目を意識させるコンテンツ/メディア視聴とメイクアップや体毛処理との関連 など

第7章 (母)親の影響
意図せずに親は影響をおよぼしている/親からのプレッシャーが子どもに不満を抱かせる/母娘の強固な結びつき など

第8章 親が本当に困っていること
大人は何を華美なおしゃれと思っているのか/子どもの年齢と困り事/困り事は親の認識の側に など

第9章 大人は子どものおしゃれにどう向き合っていくか
大事なのは普段からのよい関係性/おしゃれの安易な禁止の悪影響/規則とのせめぎ合いと社会性の発達 など

第10章 子どもにとってのおしゃれの意味や意義
おしゃれを通して社会や自分と向き合う/子どものおしゃれがダメとされる理由/おしゃれを楽しめる社会に など

おわりに
アップデート―データをもとに現状を識る/最後に大事なこと など
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