吹奏楽部の危機…少子化と教員の働き方改革で揺れる学校現場「部員数が減って部活が成立しない」「お金も場所も足りない」
吹奏楽部の危機…少子化と教員の働き方改革で揺れる学校現場「部員数が減って部活が成立しない」「お金も場所も足りない」

少子化や教員の働き方改革に伴い、国が主導する形で公立中学校の部活動の地域展開が段階的に進められているなか、文化系部活の花形である「吹奏楽部」が今、存続の危機にあるという。現場では何が起きているのか。

吹奏楽専門誌『バンドジャーナル』(音楽之友社)編集部に話を聞いた。

中学校吹奏楽部は10年前をピークに減少が続く

――少子化の影響で、生徒数が少ない学校では吹奏楽部が存続の危機にあると聞きます。今、吹奏楽部はどういった状況にあるのでしょうか。

バンドジャーナル編集部(以下、同) 全日本吹奏楽連盟の加盟団体数の推移を見ると、中学校の場合は10年ほど前をピークに減少傾向が続いています。

現場の教員に取材すると、少子化の影響で、生徒数が少ない学校では部員数が1桁~10人台になり部活動が成り立たなくなっている、という話も聞きます。

そもそも部活動への加入が任意になっている学校が増え、どの部活にも所属しない子どもが増えているようなので、少子化だけが原因ではないかもしれません。

――そうした中、国は令和5~7年度を部活動の改革推進期間として、公立中学校の部活動を地域のクラブ活動へ移行する取り組みを段階的に進めています。具体的にどのように進められているのでしょうか?

誰が地域の受け皿となり運営を担うのか、活動の拠点や指導者をどうするのかといった具体的な部分は各自治体に委ねられています。自治体の方針によって担当部署は変わりますが、多くの場合、教育委員会と一緒に学校教員や有識者が関わって方針を決めていく協議会が置かれています。

その協議会では、教員の働き方を改善しながら「子どもたちのために何ができるか」ということを模索している状況も見られます。

――「地域展開」の背景には、教員の働き方改革があると言われています。

私たちの読者は吹奏楽が好きな方たちなので、その中にいる学校の先生たちに聞くと「部活をやりたいのにできない」という声もあります。しかし一方で、教員の中には「負担が大きいため、部活の顧問になりたくない」と言う人もいると聞きます。

今はまだ部として活動している学校が多いですが、休日だけ地域クラブ活動に移行したところでも、結局は学校の楽器や備品の管理、生徒への指導方法などの課題もあり、これまでの状況をよく理解している教員が運営に携わらないと成り立たない、という話も聞きます。

「『学校施設を使えるようにしてほしい』という声はよく聞きます」

――吹奏楽部が地域クラブ活動に移行する場合に、他にどのような課題がありますか。

吹奏楽はどうしてもお金がかかります。もし「地域クラブ活動」という形で新たに始めようとすると、楽器や楽譜などを購入する費用や、音が出せる練習場所も必要になります。すべて揃うと12種類ある楽器の指導を誰が行なうのかも課題です。

現状、地域クラブ活動に移行したところはまだそこまで多くはありませんが、移行したところでも、学校の楽器を使わせてもらったり、地域の施設を優先して使えるようにするなど、工夫しているところもあるようです。

そういった中、やはり学校の楽器を使い、移動せずに学校で活動できないかを模索している自治体も多いようです。実際、先生たちからは「学校施設を使えるようにしてほしい」という声をよく聞きます。

――そもそも、学校の音楽室は簡単に使用できないものなのでしょうか?

校庭や体育館、音楽室を地域の団体に開放している学校もありますが、音楽室には楽器や備品がたくさんありますし、校舎の中にあるため、職員室など他の教室も含めてセキュリティ対策をしなければなりません。

そうでなければ教員など信頼できる人が管理で立ち会うなど、何らかの対策をしなければ、外部の運営となる地域クラブは音楽室を使用できないでしょう。千葉県柏市は地域クラブのために市内の中学校のセキュリティ工事をしたそうです。

――学校の中に部活動として存在しなくなると、今後、子どもたちが吹奏楽や楽器に触れる機会が減ってしまうことが懸念されますが、いかがですか。

確かに、吹奏楽部が学校から減少すると、楽器を間近に見たり聴いたりする機会は減る可能性がありますね。

ただこれまでにも、中学校の吹奏楽部が小学校に出前演奏に行ったり、地域のお祭りで演奏したり、といった活動が行なわれているので、子どもが吹奏楽に触れるきっかけづくりができれば、中学入学後に「吹奏楽をやってみたい」というモチベーションにつながると思います。

プロの吹奏楽団も、学校に出張演奏に行ったり、講習会を行なったりするなど、さまざまなアプローチをしています。『ドラクエ』などのゲーム音楽を取り上げた演奏会も多く開催され、吹奏楽の裾野を広げてくれています。

あとはメディアの影響も大きいです。過去には映画『スウィングガールズ』が人気に火をつけてくれましたし、今もバラエティ番組『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』の「吹奏楽の旅」新シリーズが始まり、編集部のまわりでも注目している人が多いです。

「合同バンド」で全国大会に出場したケースも

――部員数が足りなくて部活として成立しない場合は、どのように活動を継続すればいいのでしょうか。

少人数のバンドでも、小編成用やフレキシブル編成用の楽譜がありますし、多様な組み合わせのアンサンブルで、工夫して素敵な演奏をしている団体がたくさん出てきています。

吹奏楽コンクールに出たい場合でも、規約が改定されているので地域バンドや合同バンドで出場できます。音楽を楽しむうえでは、あまり人数にこだわらなくてもよいのではないでしょうか。

でも時には、合同練習やジョイントコンサートを企画して、近所のバンドが集まって大編成のサウンドを味わうのも楽しいですよね。子どもも大人も、プロもアマも一緒になって音楽づくりができるのも吹奏楽の魅力なので、学校の外に出て地域で交流する機会をつくったら、少人数のバンドでも楽しみの幅が広がると思います。

ただ、楽器はある程度上達しないと、演奏する喜びが見いだしづらいようにも思うので、練習する場所や発表する場があって、できれば専門的に教えてくれる良い先生がいて…という状況を大人たちが作っていくことが大切になってくるのではないでしょうか。

――吹奏楽の新しいスタンダードになるのかもしれませんね。これからの吹奏楽は新しい時代に突入していくのでしょうか。

私たち大人が、吹奏楽を楽しみたい子どもたちのために、持続可能なバンドのあり方や、新しい価値観に対応する活動を柔軟に考えていければ、この部活動の地域展開がよい転換点になるのかもしれません。

私たち「バンドジャーナル」の編集部員も、吹奏楽部経験者です。もっともっと吹奏楽を盛り上げていきたいし、読者である中高生や先生たちのよりよい活動をサポートしたい。

ですので、新しい時代に対応するべく、吹奏楽の仲間たち同士で会話や議論をする場づくりをしたり、誌面だけでなく、プロ奏者のレッスン動画やバンド指導の取材動画をYouTubeで配信したり、これからも工夫を続けて、日々がんばっている吹奏楽の現場を応援していきたいと思います。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 

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