
開幕から2か月近くが過ぎ、セ・リーグの打撃二冠トップを走る阪神の佐藤輝明。プロ5年目の好調は果たして「真の覚醒」なのか。
「次に30本塁打を打つとしたら誰?」掛布氏の答えは…
ついに完全覚醒か――。2025年、全国の虎党からの大きな期待を一身に受けているのが、プロ5年目を迎えた佐藤輝明だ。今季は開幕戦の第1打席で1号アーチを放つと、その後も好調をキープ。5月19日時点での成績は39試合で打率.283、11本塁打、33打点。本塁打と打点はリーグトップ、打率は同8位、打者の総合力を示すOPS.947と同2位をマークしている。
5月に入って以降、本塁打のペースこそやや落ち着いたが、決して不調ではない。二塁打などの長打はしっかりと出ているし、打率が落ち込むこともない。チーム40試合消化時点での11本塁打、33打点は単純計算でシーズン39.3発、117.9打点ペース。やや気の早い話ではあるが、「打撃二冠王」を期待したくなるスタッツだ。
タイガースの生え抜き野手としてシーズン30本塁打以上をクリアすれば、1985年の掛布雅之氏、岡田彰布氏以来、実に40年ぶり。現役では大山悠輔が2020年にマークした28本塁打が最多で、過去には八木裕や新庄剛志、桧山進次郎、今岡誠といった面々でも届かなかった大台も、決して不可能ではない。
以前、「生え抜き30本塁打」の当事者である掛布雅之氏に「次に30本塁打を打つとしたら誰?」という質問を投げかけたことがある。
「それは、佐藤君、大山君ですよ。ふたりとも、30本を打つポテンシャルは十分備えている。あとはタイミングと広い甲子園球場をいかにクリアするか。それだけじゃないでしょうか」
大先輩でもあり、レジェンドでもある掛布氏からもそのポテンシャルに太鼓判を押されている佐藤。プロ1年目から24本塁打を放ち、以降3年目までシーズン20本塁打をクリア。ちなみに、左打者の入団3年連続20本塁打以上はプロ野球の歴史において初のことだ。ただ、昨季は開幕直後から極度の打撃不振に苦しみ6月の一軍復帰後は持ち直したもののシーズン16本塁打と、記録もストップしてしまった。
現在26歳と野球選手としては全盛期に差しかかる年齢。このタイミングで開幕から見せている打棒は果たして「本物」なのか――。
本塁打数だけでない「スラッガーの証」となる数値
筆者が注目したいのは、本塁打数や打点数ではなく、その三振数だ。シーズン48三振は2位のキャベッジ(巨人)の41三振を大きく引き離しリーグ断トツ。シーズン換算でも実に171.6三振を喫する計算になる。
ただ、三振の多さは決してネガティブな指標ではない。もともと、佐藤は三振の多いタイプではあるが、過去4年間の三振数の推移は以下になる。
2021年 173三振(126試合/24本塁打)
2022年 137三振(143試合/20本塁打)
2023年 139三振(132試合/24本塁打)
2024年 133三振(120試合/16本塁打)
今季の佐藤はルーキーイヤーに並ぶ自身過去最多ペースで三振を喫している計算になる。その一方で、本塁打もキャリアハイを大幅に超えるペースで量産している。
このことからも、佐藤にとっては「三振」が決してネガティブなモノではないことがわかるはずだが、日本球界はこの「三振」を嫌がる傾向にある。フェアゾーンに打球を飛ばしさえすれば、快心の当たりではなくとも、たとえば相手のエラーがあったり、野手の間に打球が落ちたりしてヒットになる可能性が生まれるが、三振にはそれがない。見栄えの悪さも相まって、三振が多いとどうしても批判の対象になりがちだ。
ただその一方で、三振数の多さは「スラッガーの証」という見方もできる。たとえば、ドジャースの大谷翔平。昨季はシーズン54本塁打で本塁打王を獲得したが、同時に162三振を喫している。昨季までのメジャー通算7年間で860試合に出場しているが、225本塁打を放った一方で三振数は試合数を大きく上回る917。
日本のプロ野球を見ても、通算三振数の上位には球史に名を刻む長距離砲たちが名を連ねる。
「基本的に、すべての打席で本塁打を打ちたいと思っています。ただ、それが狙えるボールが来ないこともたくさんある。それで結果的に三振したり、凡打になることもあるけど、それは別に仕方がないことです」
中村も大谷も、打席で三振を喫しても見ている側が肩透かしを食らうくらい、あっさりとベンチに引き下がる姿が印象的な選手たちだ。
本塁打のために三振を割り切れるか
そもそも本塁打を打つためには一定以上の打球速度と、打球角度が求められる。その両方を突き詰めると、必然的にボールにコンタクトできる確率は低くなる。つまり、三振が増える。スラッガーにとって三振とは、ある意味で必要な経費のようなものだ。
もちろん、それが許される打者は、プロの世界でも一握りだ。状況によっては、三振ではなくしっかりとボールを転がして進塁打を打ったり、コンタクト率を高めることでヒットを狙うべきタイプもいる。現在の阪神で言えば、中野拓夢や近本光司などが該当するだろう。
ただ、佐藤輝明は違う。
阪神タイガースという特殊な環境の球団に身を置くことも、少なからず影響しているかもしれない。好調であれば大絶賛されるが、ひとたび調子を落とせば激しいバッシングにさらされる。
もしかしたら今季も、どこかでそんなシチュエーションが起こるかもしれない。本塁打やヒットが出ず、三振数だけが積み重なると、周囲の雑音は大きくなる。そんなときでも、三振を「仕方がないこと」と割り切れるかどうか――。
5年目の佐藤輝明が本当の意味で覚醒できるかは、そんな“意識変革”次第かもしれない。
文/花田雪