
ソニーグループが2025年度から冬の賞与を廃止し、「賞与の給与化」に踏み切った。人材獲得競争が激化する中、“月給”を重視する方向へ各企業が舵を切り始めている。
「月給30万円」でもボーナスは減少
2025年度からソニーは、大卒の新入社員の初任給をこれまでより10%以上引き上げ、31万円超に設定した。これは近年注目されている「初任給30万円時代」の象徴として話題を集めたが、単なる賃上げとは少し違う。
ソニーは冬の賞与を廃止しており、年収全体で見ると増加はしているが、そこまでの大幅増ではない。
こうした動きは、他の大手企業にも広がっている。大手玩具メーカーのバンダイは2022年4月から、社員の収入を安定させる目的で「基本給の比率を高める」方針を打ち出した。2023年度の新卒初任給は、大卒で月22.2万円から27万円に大幅増となった。
さらに大和ハウス工業も2025年1月に発表した人事制度改革で、賞与の一部を月給に取り込む方針を表明している。
このように賞与を月給に組み込むことで、求人票に記載される月給額が高く見えるため、企業にとっては人材獲得を有利に進めるメリットがある。また、実際に支給している総額を正しく伝えることにもつながる。
たとえば、「月給30万円(賞与なし)」と「月給25万円(賞与4か月分)」を比較した場合、年収ベースでは後者の方が高いにもかかわらず、前者の方が魅力的に見えてしまうこともある。だが、賞与の分を月給に上乗せすれば、「月給30万円(賞与なし)」と「月給33.3万円(賞与なし)」となり、一目で判断がつく。
この「賞与の給与化」に対し、SNS上ではさまざまな声が飛び交っている。
〈まぁ賞与って不安定だし、安定して月ちゃんと貰えるならありなんじゃね?〉
〈うわー、最悪やん。
〈賞与が給与に回って良いことはあれど、悪いことなんて無いはずなんだけど、これを批判する人たちちょっとアホじゃね?〉
この流れについて、SOMPOインスティチュート・プラス上級研究員の小池理人氏は次のように解説する。
「賞与の給与化には、まず『所得の安定』という大きなメリットがあります。ボーナスは会社業績による上振れ・下振れを前提とする場合が多いのですが、月給については会社業績による単発での振れが生じることは少ない。
年収ベースで同じ金額であるならば、従業員にとっては月給が増える方がより所得が安定すると言えます。また、転職による不利益を回避できることもメリットの一つです。就業規則によりますが、ボーナスはボーナス支給日の在籍が支給要件となっていることがあり、その場合、退職のタイミングによってはまとまった金額を貰い損ねる可能性がありますからね」(小池氏、以下同)
賞与の給与化のメリット・デメリットは?
一方で、デメリットとしては、心理的な高揚感の喪失が挙げられる。ボーナスとしてまとまった金額が支給されるときの喜びは、月給として分割されて振り込まれるよりも大きく感じる人が多いため、月給への移行で、その高揚感が失われる可能性があるのだ。
ただし、小池氏は「合理的に考えれば、賞与の給与化にはメリットの方が多い」と話す。では、こうした流れが今後の社会や働き方にどのような影響を及ぼすのだろうか。
「これまでは、変動費的な位置づけにある賞与を増やすことで、一時的な賃上げが可能でした。しかし“賞与の給与化”によって、固定費である月給に注目が集まると、企業は持続的な賃上げに踏み切らざるを得なくなるでしょう。
賞与は調整しやすい一方で、月給は一度引き上げると下げにくいため、企業側の負担も大きくなります」
また、ボーナス支給時期による「転職による損」が生じにくくなることで、従業員による転職のハードルはより低くなり、人材獲得競争はさらに激化するという。
「転職による不利益が減れば、より自由にキャリアを選べるようになります。結果的に、自身の市場価値を高めようという意識が高まり、中長期的な視点で働き方を考える人が増えるでしょう」
海外にもボーナスの制度はあるが、じつは日本ほど総支給額に占める比率が高い国は少ない。日本独自の“ボーナス文化”は、いま転換期を迎えているのかもしれない。
取材・文/集英社オンライン編集部