6800万人が被災予測される南海トラフ巨大地震…地震でも噴火でも、まず電気が止まることを想定して考えるべき備えとは…京大名誉教授が教える想定外の時代を生き残るコツ
6800万人が被災予測される南海トラフ巨大地震…地震でも噴火でも、まず電気が止まることを想定して考えるべき備えとは…京大名誉教授が教える想定外の時代を生き残るコツ

2030年代に発生すると予測されている南海トラフ巨大地震。日本国民1億2500万人のうちの6800万人が被災すると予測されている未曾有の災害から身を守るにはいったいどうすればいいのか。

 

『「地震」と「火山」の国に暮らすあなたに贈る 大人のための地学の教室』(ダイヤモンド社)より、一部を抜粋・再構成してお届けする。

あなたが生き残るために

では、これから起こると予想されている自然災害について、どうすればよいのかという話に移りましょう。

まず国の取り組みですが、僕は高く評価しています。たとえば内閣府と文部科学省と気象庁が発表する南海トラフ巨大地震の情報はとても役立ちます。

オールジャパンのすぐれた地球科学者が集まっているのだから、科学的にも間違いはなく、とにかくよくできています。僕がとやかく言う筋合いはありません。

ただ、印象としては「遠くで役に立つ」という感じです。間接的とでも言いましょうか。

まず、国が出す情報だから、誰かが困るような尖った情報は出せない。だから個々で調整をしながら考えて決めると、結局どうしていいかわからないことがある。それと、あまりに信じすぎるのもよくなくて、すべてを鵜呑みにすると「想定外」のことが起きたときの対応が遅れてしまうこともあります。

自然界では予測と違うことが起きるもので、よくできているストーリーが一分後もそうであるとは限らないでしょう。

僕たち人間はすぐれたものが瓦解するところは見たくないから、そういうことにフタをしてしまいがちですが、現実はそうとは限らない。

だから頭の片隅に国が言っていないことが起きるということも意識しておいたほうがいいんです。

とにかく具体的な防災計画についても国は一生懸命やっています。

ライフラインの整備など、個人ではどうすることもできなくて、国や自治体にがんばってほしいこともたくさんあります。それでもやはり最終的には「個人」なんですね。

だって南海トラフ巨大地震では日本国民1億2500万人のうちの6800万人が被災すると予測されているんですよ。国に任せきるには多すぎる数字です。国に頼れないところはいくらでもあるので、国は国、個人は個人という発想が大切です。

個人では水や食料、医薬品、簡易トイレなどの備蓄が大事ですし、自宅の耐震補強をしておくこともできます。

自分が助かる、家族が助かる、親戚が助かる。みんながそう思ったら、結局、それで6800万人が助かるんです。誰かに助けてもらおうと思うと、助けようとした人も一緒に倒れてしまうこともあります。

個人ではどうしようもないことが多いのも事実なんですが、どうにかできることはあるわけで、それを積み重ねるしかないんです。

これは不確定な時代、想定外の時代を生き残るコツだと思うんです。

もちろん国や自治体もしっかりと対策を講じなければいけないけれど、それと並行して、個人でもどうにかすると頭を切り替えることも大切ということです。

いざというときのために試しておきたいこと

2018年9月に北海道胆振東部地震が起きて北海道の全域で停電が発生しました。北海道は千島海溝を震源とする地震が発生する可能性があるけれど、南海トラフ巨大地震とは異なる心配が必要なんです。

北海道は寒冷地なので季節によっては雪を考慮しなくてはいけないし、それから過疎というか人が少ないところがあって、助けに行くのにかなりの距離を移動しなくてはいけないこともある。

それと、ここで考えておきたいのが電気の使用です。いま、「持続可能な社会」という言葉をよく耳にするけれど、電気を使用して持続可能というのは本当はあり得ないんです。そこのところを多くの人が誤解しています。

だって地震でも、火山の噴火でも、極端な寒冷化でも、まず電気が止まるんですよ。

ライフラインは電気がいちばん大切ですよね。身の回りのこともそうですが、いまは農作物の生産にも電気を使用しているし、運搬もそうだから物流も止まるわけでしょう。そう考えると、電気なしでどれだけ暮らせるかはとても重要なんです。

そこで、僕が提案したいのは、1日に3時間は電気なしで暮らすことです。

僕の友達が夜9時から午前0時まで電気を消して生活しているんですね。テレビを見ない、といったちょっとしたことではなくて、メインブレーカーをバチッと落とす感じで、基本的には全部止める。

スマートフォンのバッテリーもその3時間は使わず、スマホ自体も使わない。寝室の目覚まし時計の電池はどうかとかの細かいことは抜きにして、電気に頼らない生活ということです。

暗ければろうそくをつければいいし、寒ければ火鉢を使えばいい(ただし火災と換気には注意してください)。ただ、石油ストーブは点火時に電池を使うからダメね。とにかく3時間、電気を使わない暮らしをしてみる。そうすると電気なしの生活というものがわかるんですよ。

それからもう一つ、家庭なら2日間、一人暮らしの学生なら5日間、食べ物の買い出しに行かない暮らしも実践してみてほしいのです。電気や水道、ガスはいいけれど食べ物は冷蔵庫にあるもので暮らしてみる。

そうすると、インスタントラーメンや缶詰が重宝するな、といった具合に非常時になにが必要かわかります。同時に普段、僕たちが無駄のある生活をしていることに気が付くわけですね。

この要素を抜きにして、持続可能な社会は考えられない。だって僕たち日本人は豊かな生活をしているけれど、海外にはそうではない人がたくさんいて、地球全体の寒冷化があったら、その人々がまず飢え死にするわけです。それに対してどうするかがグローバルな問題なので、それを解決しなくてはいけない。

電気に頼らない生活、食べ物の無駄を出さない生活を知り、その感覚や知識を活かすことが持続可能な社会をつくることだと僕は思っています。

文/鎌田浩毅 

「地震」と「火山」の国に暮らすあなたに贈る 大人のための地学の教室

鎌田浩毅 (著)
6800万人が被災予測される南海トラフ巨大地震…地震でも噴火でも、まず電気が止まることを想定して考えるべき備えとは…京大名誉教授が教える想定外の時代を生き残るコツ
「地震」と「火山」の国に暮らすあなたに贈る 大人のための地学の教室
2025/2/181,980円(税込)448ページISBN: 978-4478121023

東日本大震災によって日本列島は地震や火山噴火が頻発する「大地変動の時代」に入った。その中で、地震や津波、噴火で死なずに生き延びるためには「地学」の知識が必要になる。

本書は、京都大学名誉教授の鎌田浩毅氏を著者にした、最先端で、もっとも分かりやすくて、もっとも面白い地学入門。これまでの著者の経験・知見を活かし、授業スタイルの語り口で、熱意を込めたライブ感を出しながら地学の知見を明快に伝える一冊となる。

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