改姓を拒み事実婚した女性たちの苦悩「前妻の子どもたちに援助を拒まれた」「意識不明時の医療合意もできない」…別姓夫婦に育てられた子どもの本音も聞いてみた
改姓を拒み事実婚した女性たちの苦悩「前妻の子どもたちに援助を拒まれた」「意識不明時の医療合意もできない」…別姓夫婦に育てられた子どもの本音も聞いてみた

パートナー同士が婚姻届を提出せずに夫婦同然の生活を送る事実婚。メディアでも取り上げられ、耳にする機会が増えた一方で、法的な保護や享受が受けられないなどの難点も多い。

姓を維持するために事実婚を選択する人も増えており、選択的夫婦別姓制度の議論も熱を帯びるいま、実際に事実婚した人たちに実情を聞いた。 

“あなた誰?”と言わんばかりの親族の冷ややかな視線が… 

事実婚という言葉が普及してもなお、法律婚との明確な違いを知っている人は少ないだろう。

法律婚との大きな違いとして、事実婚は、婚姻届を提出しない(自治体に応じてパートナーシップ制度を利用する場合は手続きが必要)、氏や戸籍は別々のまま、子どもができた場合は原則として母親のみの親権、税制上の優遇が受けられない、相続権がないなどが挙げられる。(※「いわゆる事実婚に関する制度や運用等における取扱い」)

事実婚歴20年以上のチサコさん(50代後半)は言う。

「年子の姉妹で妹は嫁いでおり、離婚した私は元の苗字に戻りました。その後、20年以上同棲する男性がいますが“今更もういいかな”と、入籍はしなくとも特に問題はありませんでした。

しかし、ここ数年立て続けにパートナーの父母が亡くなり、その葬儀に参列した際に“あなた誰?”と言わんばかりの親族の冷ややかな視線が気になりました」

義実家、親戚づきあいから距離を保てる気楽さがある一方で、事実婚は“家族”としては扱われない中途半端な立ち位置に悩むこともあるようだ。問題は他にもあった。

「大病をして手術したのですが、集中治療室にいたこともあり、お見舞いに来てくれた子どもたちとは面会できても、事実婚の夫との面会は叶わなかった。意識不明時の医療合意も内縁関係の夫では認められないようですし、死期を思い不安になりました」(前出・サチコさん)

事実婚の夫が亡くなり、夫名義の自宅から退去

「なぜ入籍しなかったのか」と後悔を口にするのは、事実婚歴30年で、夫を亡くしたツグミさん(70代前半)だ。

「夫には、私と事実婚する前に子どもが3人いました。元奥さんを早くに亡くしていたので、夫の子どもたちが出産した時には子育ての手伝いをしたり、自分の本当の子どものように思っていました。

でも、夫が亡くなり、一緒に住んでいた夫名義の自宅は売却。やむを得ずその家を出ていかなければならず、相続権はないため一円ももらえず、子どもたちに援助をお願いしても拒まれてしまいました。

生前に入籍ないしは書面で財産分与について交わしておくべきだったと後悔しています」

事実婚から法律婚へ変えた夫婦の理由 

改姓、財産の問題などから子どもがいる再婚者では、事実婚を選択する人は多い。事実婚であれば、万が一再び離婚をしても戸籍にバツはつかないというメリットもあるからだ。

一方で、家族の大きな決断を機に事実婚から法律婚に切り替えた夫婦もいる。

「子どもが生まれるタイミングで、賃貸の自宅が手狭になったため購入することを決断しました。住宅ローンを組む際に、事実婚では収入合算が認められない金融機関があり、事実婚4年目で結局入籍しました。

最近は以前より柔軟な金融機関が増えたようですが、それでも必要書類が多く『面倒だ』と言って同様に入籍した友人夫婦もいます」

改姓を躊躇していた夫婦が法律婚に切り替えた理由として、取材を通して一番多かったのが「子どもができたとき」「自宅を購入するとき」だった。 

苗字の違う両親に育てられた子どもはかわいそうなのか? 

今回、事実婚を選択する夫婦を取材したなかで最も多かった理由は「改姓のための手続きがおっくう」「一人っ子なので、自分が改姓すると家が途絶える」など、改姓を拒むものだった。

現在も活発に議論されている選択的夫婦別姓で問題点としてあがるのは、両親の苗字が異なると「子どもがかわいそう」「子どもがいやな思いをする」というもの。

では、実際に夫婦別姓の両親に育てられた子どもはどのような気持ちなのか。なにか弊害があるのか。別姓夫婦に育てられたカヤコさんは言う。

「確かに、小学生の頃に従兄弟に『なんで父親と苗字が違うの?』と尋ねられ、面食らったことはあります。でも、父と母の苗字が違うことを友人たちが知る場面はほとんどありませんでした。

ですから、『両親が同じ苗字だったら良かったのに』と思ったことも、指摘されて嫌な思いをしたこともありません。

それは、両親の仲が良く、家庭が円満だったから言えることなのかもしれません。大切なのは姓ではなく、家族間で良好な関係性を築くこと。両親が別姓でもそれぞれの家族の在り方が尊重される社会であってほしいです」

筆者も、小学2年時に両親の離婚により改姓を経験した。友人たちから改姓の理由を問われ、子どもの無邪気さゆえ心ない言葉をかけてくる者もいた。

その経験から言えるのは、むしろ、結婚当初から別姓である方が、両親の離婚時に改姓する必要はなく、子どもの心を守ることにつながる可能性があるのではないか。

ただし、同様の法改正により事実婚の増えたスウェーデンでは離婚率が上がり続けている前例があるので、必ずしも子どものためになるとは言えないのかもしれない。

事実婚、法律婚、今後認められる可能性のある選択的夫婦別姓。いずれにせよ、メリット、デメリットを考慮した上で慎重に選択したい。

取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班 サムネイル/Shutterstock

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