
暑さ対策の定番アイテム「扇風機」。しかし、風に直接当たり続けることで思わぬリスクが潜んでいると、法医学者の高木徹也氏は指摘する。
『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)より、一部を抜粋・再構成してお届けする。
なぜ「扇風機の風に当たり続けると死ぬ」と言われるのか
暑い季節の必需品とも言える扇風機。最近では、換気や空気循環のために暖房をつけた冬場の室内でも、サーキュレーターとして使用されます。また、洗濯物を部屋干しするご家庭なら、一年中稼働していることでしょう。
この便利な扇風機ですが、「当たったまま寝ると死ぬよ」と言われることがよくあります。調べてみると、日本国内では1970~1990年ごろまで、「扇風機をつけっぱなしで寝た人が心臓麻痺で死んだ」とか「扇風機が殺人した」といった新聞報道があったようです。
しかし、実は完全なる都市伝説で、その真偽は定かではありません。
実際に私たち法医学者も、つけっぱなしの扇風機に当たったまま死亡した方の検案や解剖を行なうことはあります。もっとも、そういうケースのほとんどは、扇風機の風と死因に因果関係を見出せません。
では、なぜ「扇風機の風に当たり続けると死ぬ」とまことしやかに言われるのか。
私が思うに、風が当たり続けることで「水分を失って脱水状態になる」「体温が奪われて低体温症になる」など、一見医学的に正しそうな理論にもとづいているからでしょう。
扇風機をつけっぱなしにし、身体に風が当たった状態で死亡していた人を解剖すると、その多くは「心筋梗塞」や「脳梗塞」などが死因となっています。
これらの疾患が扇風機のせいかどうか、解剖所見からは判断することができません。脱水症状を起こして血液がドロドロになり血管が詰まりやすい状態だったと推測することはできます。風呂上がりに身体が濡れたまま扇風機の風に当たって寝落ちして、低体温症になった可能性も十分考えられます。
しかし、どれも医学的に証明することは難しいのです。
長く当たり続けることで上がる怖すぎるリスク
ただし、死因とのつながりを医学的に証明できないからといって、扇風機の風に直接、長く当たり続けることはおすすめしません。
死ぬことはないでしょうが、扇風機使用の弊害と考えられる疾患がないわけではありません。
たとえば「顔面神経麻痺」。
これは、顔の筋肉を動かす作用を司る顔面神経が麻痺して、顔の動きが悪くなる疾患です。顔面神経麻痺の原因には、ウイルスや糖尿病などさまざまなものがあるのですが、発症要因の一つに「扇風機の風に当たること」があります。
もともとその病気にかかりやすい素質を持っていた人が、扇風機の風を顔に当て続けたことで発症したという例は多いのです。
「過ぎたるは及ばざるがごとし」といいますが、何事もやりすぎはよくありません。
医学的に死因との因果関係が証明されていないからといって、扇風機の風が当たり続ける状態で寝落ちしてしまうようなことがないように、日頃から気をつけておきましょう。
※このような危険を避けるには……
・扇風機の風を長時間、身体に当て続けない。
・身体が濡れた状態で扇風機を使用しない。
・特に、顔には直接風を当て続けない。
文/高木徹也
『こんなことで、死にたくなかった 法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』(三笠書房)
高木 徹也
◎発売2週間でたちまち重版!
◎高齢者の「あっ、死ぬかも」から命を守る本
◎「死因のプロ」が49の事故例を徹底解説!
大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズを監修し、
5000体以上を検死・解剖してきた法医学者が、
高齢者を襲う「まさか」の死因を解き明かす!
親、祖父母、パートナー、友人、そして自分。
身近の大切な人を、突然失わないために――
□トイレできばって死ぬ
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□押入れに頭をぶつけて死ぬ
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