
ストーカーやカスタマーハラスメントへの対策として、職場で名乗るための名前「ビジネスネーム」を導入する企業が増えているという。2025年の4月より、大阪府寝屋川市役所でもこの制度が導入された。
「今の時代SNSで晒される」ビジネスネームはアリ?
昨今、カスタマーハラスメント(通称:カスハラ)という言葉が広く知られるようになり、対応に悩む現場が増えている。悪質なクレーム、度を越した叱責、SNSなどを使った個人攻撃――。こうした行為の被害にあう従業員を守る手段の一つとして、ビジネスネームの導入が注目されている。
寝屋川市では今年4月より、職員が業務中に着用する名札について、庁内における「役割の見える化」や「カスタマーハラスメント防止」などの観点からリニューアルを行なった。その中で、自治体としては珍しい「ビジネスネーム」の使用を認めた。
職員のプライバシーを守り、名札の情報をもとにSNSなどで個人情報が特定されたり、誹謗中傷を受けたりするのを防ぐことで、安心して働ける環境づくりを推進している。
寝屋川市の広瀬けいすけ市長も自身のXでこの制度に言及。
《寝屋川市では現在、「市民サービス改革」を進めていますが、相手への「礼を失する行為」は、“職員から市民”だけでなく、“市民から職員”でもダメなものはダメです。厳しく対応していきます》
たとえ市民からの言葉でも、悪質なものには毅然とした態度で立ち向かう姿勢を示した。
ビジネスネーム導入には、ネット上でも賛成の声が多く寄せられている。
《これ、接客業では絶対やった方がいいよ。言われもないクレームを本名名指しでネットのレビューに書かれたらたまったもんじゃないし、人格を分けた方がいい》
《怖い人に名札をジロジロ見られるだけで脅迫されてる気がしたからなあ》
《珍しい苗字だと今の時代SNSで晒されるから、接客する人は守るためにも良いかもしれない》
一方で、導入に懸念を示す声も少なくない。
《ワイの会社、問題を起こした責任者を処分した…という建前で、対外的にはビジネスネームの別人設定でそのまま働かせていたことがあったからなあ…》
《ビジネスネームとはまた聞こえのいい響きだけど、偽名よね? 名札とか名前って「私が責任を持って」という意味合いが大きいと思ってたんだけど…》
《一億総通名時代。
では、実際に導入した寝屋川市役所では今、どのように運用されているのか。人事室の担当者に話を聞いた。
ビジネスネームを導入した市役所での現状
「寝屋川市でのビジネスネームは、職員が希望する名前を申請し、承認が得られれば業務時にその名前の名札を着用できる仕組みです」(寝屋川市役所・人事室・担当者、以下同)
利用が想定されているのは主に市民対応の窓口部署で、生活保護のケースワーカーなど、一部文書に実名が必要な職務では対応していない。また、電話やメールなどの連絡手段では本名を使う方針だという。
「ビジネスネームをどこまで使っているかということですが、基本的には身に着けている“名札”がビジネスネームOKになった……という風に考えていただければわかりやすいかと思います」
ビジネスネームの選定にあたって厳格なルールはなく、たとえば「田中さん」が「鈴木さん」という名前を使うことも可能だという。ただし、あまりに非現実的な名前はNG。日本人であれば一般的な日本名であること。特別な事情がない限り、奇抜な名前は考え直してもらう場合があるという。
とはいえ、現在の利用者はまだ1人のみ。「庁内での認知や浸透はこれから。心理的な安心感を得られたという声はあるものの、実績としての効果はまだ把握できていないのが現状です」と説明する。
そして、ビジネスネームを実際に使っていく中で注意点についても話した。
「たとえば『田中』というビジネスネームの名札をつけて窓口業務をしている職員に、職場の同僚がうっかり『鈴木さん』と本名で呼んでしまったら混乱が起きてしまいます。ビジネスネームを使う際には、職場全体で名前の共有を徹底する必要があります」
名前はその人の顔であり、責任の証という意見もある。しかし、SNSなどネット上で簡単に個人情報がさらされる現代では、名前が働く人の安全を脅かすリスクにもなっている。
ビジネスネーム制度は、すべての働く人が安心して働ける環境をつくるための新たな一歩となっていくだろう。
取材・文/集英社オンライン編集部