
日本大学で起きた重量挙げ部前監督による学費不正徴収事件。奨学生の部員から205万円のお金をだまし取ったとして逮捕された難波謙二容疑者と、直近まで現役部員だったOBが取材に答えた。
「2年目以降スポーツ奨学生として申請予定、1年目のみお支払いください」
難波容疑者が逮捕される約2週間前――。取材班は東京都世田谷区の集合住宅にて難波謙二容疑者と接触した。難波容疑者はインターホン越しにこう話した。
「すみません。あのね、いまあの…。あの…。あの…裁判の最中なんで、すみませんけど。勘弁してください」
難波容疑者による一連の詐欺事件を「現役部員への裏切り行為」と非難するのは、日本大学重量挙げ部で去年まで部員として活動していた男性OBのA氏だ。彼は「同期や後輩、先輩といった周囲の人が被害に遭っていた」と明かす。
「元監督とコーチがグルになって、学生のスカウトをするときに、学費免除の会話の過程で詐欺をしていたのです。
A氏ら重量挙げ部員が難波容疑者らの問題を耳にしたのは、24年7月の頃だったという。
「(24年の)5月初旬からこの問題は日本大学内で判明していたようですが、我々は東日本インカレが控えていた重要な時期でしたので、インカレ終了後に伝えられました」(A氏)
今回逮捕された難波容疑者は24年11月から、日本大学と民事裁判で係争中となっている。民事裁判の資料によれば、難波容疑者は日本大学から委託を受けているコーチ2人に指示し、少なくとも2014年から詐欺行為を働いていたという。
日大は「まともに取り合ってくれなかった」元部員が告白
裁判資料によれば、難波監督らは日大が把握できている範囲で少なくとも123人の部員をだまし、詐取した額は3795万円にのぼる(後の日大の発表では、被害額は5300万円にのぼると日大は主張)。
難波容疑者は学生らからお金をだまし取るときに、「2年目以降スポーツ奨学生として申請予定。1年目のみお支払いください」と虚偽の記載をした請求書を保護者らに送付していた。振り込み先口座は重量挙げ部の口座だった。
その使い道について日大側は、「重量挙げ部の活動に使用する一方で、家族や知人の飲食等に消費するなどしていた」と主張している。
取材を続けると、日大の対応に問題があると指摘をする別の元部員B氏や、当時の現役部員のC氏からも話を聞けた。「学費の不正徴収問題以外にもトラブルがあったが、日大はまともに取り合ってくれなかった」とB氏は明かす。
「実は、日大から重量挙げ部に毎年支給されている部活動で使用する際の補助金(=支援金)がありました。詳しくは知りませんが、相当な額と聞きます。
学費の不正徴収事件と補助金についてOBらは日大へ直訴したという。
「日本大学の幹部が当時現役部員の前に立って話をしたのは、最初の事件発覚の話をした1回の説明会のみ。質疑応答の時間は圧迫感が強く、とうてい相談に乗ってもらえるような状況ではなかった。同期の保護者が問い合わせをしたところ、上につないでもらえず、具体的な説明がされなかったとのこと。『幹部が忙しいから』と言われた部員や保護者がいるとまで聞きます」(B氏)
また、元現役部員のC氏は説明会の様子をこう語る。
「難波監督が直接来ることなく、詐欺に加担したといわれているコーチが登壇し謝罪をしました。難波監督は問題が明らかになってから見たことはありません。コーチは説明会で一連の事件を『知らなかった』と主張していたものの、実際は難波監督に指示を受け、高校生らを勧誘し、ウソの請求書などを送っていたといいます。
不満に思った私たちは『もう一度ちゃんと説明して欲しい』と日大に掛け合いましたが、『忙しい』や『話せない』など言われて、具体的な説明がされることはなく、なぜかそれ以降はメンタルケア専門のカウンセラーがやってきました。詳しい話を知っているスポーツ局の幹部は説明会以降、私たちに説明をすることはなかったです」
日大に質問状を送ると…
日大の見解はどうだろうか。
当時の現役部員らから日大に対して、①一連の詐欺事件の説明、②部活動の補助金(=支援金)が学生らに行き渡らなかったこと、について説明を求めたことについては、
〈本件不祥事についての外部弁護士による調査報告書が出た段階で、速やかに、①現役部員らを対象とする説明会、②元部員や保護者を対象とする説明会を、それぞれ開催しています〉
また、学生らに「幹部が忙しいため、対応できない」などと話したことがあるかについては、
〈学生ら(現役部員)に対しては、元部員らに対する説明会に先立ち、本学幹部が出席した説明会を開催しております。誰かが『幹部は忙しいから』などと答えたという事実は承知しておりません〉
学生への説明が十分か否かについてはこう回答した。
〈説明会を開催したほか、文書でご説明をし、また、適時に、HPで説明をしております。
説明会にお越しいただけなかった方からも、特別対応のための電話相談窓口を設け、個別のご質問に対して、ご説明できる範囲の内容をご説明させていただきました。それ以上の内容は、現在までのところ、法的手続に影響を与えるおそれがあるので、説明をすることができない(質問にも答えることができない)ことから、敢えて(元)部員らを集めての説明会を開催するようなことはしておりません〉
日大の回答についてB氏はこう語った。
「被害に遭っていない保護者らは説明会に呼ばれていないです。部活の関係者全員が不安な状況にあります。日本大学側も問題を起こしたくない以上、公の問題にしたくないという気持ちもわかります。ですが、日大側は『学生が第一』だと私達に伝えてくださったのに、我々学生とその親の意見を無碍(むげ)にするような行動を取られとても不快です」
日大は生徒たちから“信用”を取り戻すことはできるのか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班